キャラクターの描写
第1回では「構成」が「テーマ」を伝えるということ、第2回ではその「構成」はすなわち「キャラクター」の動きや変化であることを説明しました。
「描写」とは、そのキャラクターの言動をシーンとして見せることです。
言動を、さらに細かくいえば「セリフ」と「行動」です。
第1回で「桃太郎」の例を使い、以下のように説明しました。
犬や猿に高圧的な態度をとっていれば嫌われるでしょうし、動物想いで家来というより友達のように接していれば、親近感を持つ人も多くなるでしょう。
これが「キャラクターの描写」です。
第2回では『天使のくれた時間 』の主人公であるジャックは「ウォール街で働き、金が一番だと思っているような男」でした。
そんなジャックが、愛を大事に生きるケイトと関わり変化していくことで「テーマ」が伝わるのですが、ジャックがあっさりと価値観を変えてしまったらどうでしょう?
物語としての面白味もなくなりますが、「人間はそんな簡単に変わるのか?」とか「もしかして口先の嘘をついているのではないか?」という疑問もよぎってしまいます。
「構成」上で「テーマ」を伝えるキャラクターを設定し、そのキャラクターを実際に動かして、観客に見せるのが「描写」です。
描写力が足りないと、キャラクターの魅力もテーマも伝わりませんし、場合によっては勘違いして受け取られることもあります。
「構成」と「描写」のズレ
ここで「構成」と「描写」がズレた物語を考えてみましょう。
わかりやすさを優先して、また「桃太郎」を使います。
第1回で挙げたシークエンスを、再掲します。
・桃から生まれる
・成長して立派な青年になっている
・村で鬼が悪さをしている
・鬼退治に出発する。
・いぬ、さる、きじを仲間にする
・鬼ヶ島について、鬼と対決
・勝利して金銀財宝をもって、村に帰る。
・村は平和で豊かになってめでたしめでたし。
この構成のまま、
「犬や猿に高圧的な態度をとる桃太郎」と「動物想いで家来というより友達のように接する桃太郎」を想像してみてください。
後者であれば、いかにもヒーローらしく違和感はあまりないと思いますが、前者であった場合、観客は「桃太郎」というキャラクターに対する評価に迷います。
「口は悪いけど根はいい奴」と捉える人は、描写よりも構成を優先して捉えています。「態度」では嫌なやつだけど、鬼退治という「行動」は評価しているといえます。
ただ「嫌い」と感じる人は「態度」が嫌いで、鬼退治を差し引いても、嫌いが勝っているうのでしょう。
これは、大金持ちが100万円寄附するのと、貧乏人が少ない給料から1万円寄附するのと、どっちが善意だという論争に似ています。
答えは出ませんが、ともかく、物語論としては「構成」と「描写」がズレているとき「テーマ」の捉え方にも幅ができてしまうのです。
批評と分析
「構成」と「描写」のズレは、作者が意図したものなのかどうか?
それは「テーマ」を考える上で大きな問題です。
「人間の二面性」を描くのは描写としては高等です。しかし、人間の捉え方が浅い人は混乱してしまいます。
エンターテインメント=売上げという視点からは「テーマ」の捉え方はマイナスになることが多いでしょう。
たとえば「ヒーロー」として描こうとしているのに、「ヒーロー」に見えないということは、キャラクターとして弱いということです。人気にも影響するでしょう。
一方、描写のあいまいさ「深み」のように解釈されて、過大評価される物語もあります。
作者自身の価値観が未熟であったり、描写のテクニックが未熟なため、作者自身が伝えたい「テーマ」と「描写」がズレてしまっているのですが、批評家や素人の口コミが影響して、作品自体に欠けている「テーマ」を周りの人間が後付けされているのです。
物語に対する新しい視点を提供することもあるので「独自の解釈」はけっして悪いことではないと思います。
ただ、一時的な解釈は、流行りと同じで、時代を経ると評価されなくなります。本当に深いテーマを描いているものは、時代を超えて、古典となっていくでしょう。
分析の際、「描写」からでなく「構成」から読み取っていくのは、客観的な「テーマ」を読み取るためです。
どんなに綺麗なセリフを吐くキャラクターがいても、人を騙していれば詐欺師なのです。
作者が伝えようとした「テーマ」も、「構成」とズレていたら伝わりません。
表面的な「描写」と「構成」のどちらに「テーマ」の本質が込められているでるかは明らかです。
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「テーマ」について考えるシリーズは、今回で終わります。
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緋片イルカ 2021/09/17