セントラル・クエスチョン(中級編25)

三幕構成 中級編(まえおき)

三幕構成の中級編と称して、より深い物語論を解説しています。

中級編の記事ではビートを含む用語の定義や、構成の基本、キャラクターに対する基本を理解していることを前提としています。しかし、応用にいたっては基本の定義とは変わることもあります。基本はあくまで「初心者が基本を掴むための説明」であって、応用では例外や、より深い概念を扱うので、初級での言葉の意味とは矛盾することもでてきます。

武道などで「守」「破」「離」という考え方があります。初心者は基本のルールを「守る」こと。基本を体得した中級者はときにルールを「破って」よい。上級者は免許皆伝してルールを「離れて」独自の流派をつくっていく。中級編は三幕構成の「破」にあたります。

以上を、ふまえた上で記事をお読み下さい。(参考記事:「三幕構成」初級・中級・上級について

超初心者の方は、初心者向けQ&A①「そもそも三幕構成って何?」から、ある程度の知識がある方は三幕構成の作り方シリーズか、ログラインを考えるシリーズからお読みください。

セントラル・クエスチョンとは?

セントラル・クエスチョンという言葉はリンダ・シーガーの本『ハリウッド・リライティング・バイブル』に出てくる用語である。絶版で中古でも、それなりの値段がするようなので、関連箇所を引用しておく。

セントラル・クエスチョンを設定する

 しかしながら、セットアップはまだ完全ではない。イメージはストーリーの方向づけを行い、カタリストは実際にストーリーを進めはじめた。しかし、ストーリー開始の準備を完了するにはさらにもう一つやるべきことが残っている。
 すべてのストーリーは、ある意味、ミステリーといえる。クライマックスで回答がなされるであろう問いかけをセットアップで行う。問題ごとや解決が必要な状況が紹介され、ストーリーを通し我々に問いかけてくるのだ。

「ジョン・ブックは殺人犯を捕まえることができるか」(『刑事ジョン・ブック/目撃者』

「ウォールナットとローズは戦艦ルイーザを爆破することができるか」(『アフリカの女王』

「マーティンは鮫を退治することができるか」(『ジョーズ』

この問いかけはセントラル・クエスチョンと呼ばれる。このセントラル・クエスチョンは、設定されると共に、ストーリーで起こるすべての出来事と結びつけられる。ほとんどのセントラル・クエスチョンはストーリーのクライマックスで「イエス」という答えが導きだされるだろう。たとえば「ジョン・ブックはを捕まえることができるか」イエス。「ウォールナットとローズは戦艦ルイーザを爆破することができるか」イエス。「マーティンは鮫を退治することができるか」イエス。けれども観客はエンドまで答えを知ることができない。答えを予測することはできるかもしれないが、答えが出るまでにいったい何が起きるだろうかと興味を持ち続けるのだ。
 アメリカ映画のセントラル・クエスチョンは主人公が目的を達成できるかという問いかけとなる場合が多い。たとえば、悪人を見つけ出せるか、船を爆破できるか、病気の治療法を見つけだせるか、世界を救えるか、といったものだ。一方、外国(アメリカ以外の)映画のセントラル・クエスチョンは主人公の内面の変化に関する問いかけとなる傾向が強いだろう。主人公は愛を成就できるだろうか、生活は変わるだろうかといったものだ。『Shall We ダンス?』を見てみよう。杉山がダンスを習うことに決めたとき、観客は確かに無意識のうちに多くの質問をしている。彼はダンスによって変わるだろうか。どのよう変わるだろうか。彼の結婚生活はどのような影響を受けるだろうか。しかし、映画の本質として主人公は行動を起こす必要がある。『Shall We ダンス?』が国際的な大成功をおさめた理由の1つは、主人公が行動を起こし、そこから主人公が変化し、成長する姿を見ることができるからだといえるだろう。
 セントラル・クエスチョンが設定されることでセットアップは完成となる。これによって、今ストーリーは展開していく準備ができあがったのである。
(『ハリウッド・リライティング・バイブル』)

僕の解釈としては「wantと構成を一致させること」で組み込まれるので、セントラル・クエスチョンは特別に意識する必要はないと思う。とくにリンダ・シーガーの指摘は「プロットアーク」に関するクエスチョンを重視していて、映像作品としては全く正しい。「主人公の内面の変化に関する問いかけとなる傾向が強い」というキャラクターアークについての指摘もある。中級以上のレベルでは「セントラル・クエスチョン」も外的、内的、2本が必要であると僕は考える。

参考記事:
テーマは文章にせよ(文章#27)
テーマについて①:構成との関係(文学#52)
その他、「テーマ」に関する記事一覧

緋片イルカ 2023.3.7

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