基本情報:
原題『World’s Greatest Dad』、2009年のアメリカ合衆国のコメディ映画。日本では劇場未公開だがWOWOWで2012年12月に放送され、2013年2月にDVDレンタルが開始された。WOWOW放送時のタイトルは『ディア・ダディ 嘘つき父さんの秘密』だったが、DVDレンタル開始時に『ビッグショット・ダディ』に変更された。監督・脚本ボブキャット・ゴールドスウェイト。主演はロビン・ウィリアムズで、彼が自殺する5年前の作品。
※以下、ネタバレ含みます。
ログライン:
高校で詩を教えているランスは作家志望だが、冴えない日々を送っていたが、自慰行為中の事故で死んだ息子を自殺にしたて遺書を捏造することで、注目されるようになっていくが、むなしさに耐えられなくなってすべてを白状しそれまでに得たものを失うが、大切なことに気づく。ビートがアンバランスでストーリータイプとしては崩れているが、ウソをついて成功していくという型としてはフールトライアンフ(Fool Triumpahant)の覆面バカUndercover foolといえる。
ビート分析:
Image1「オープニングイメージ」:THE ENdという文字が反転して現れる。トップシーンにENDというのはインパクトはある。それは書き上げた小説の最後のページだとわかる。ビートとしては機能していない。
CC「主人公のセットアップ」:冒頭のモノローグ。ランスという名前の後、「孤独の死をなによりも恐れていること」と「作家を目指していること」をストレートに語る。その後、息子のカイルの部屋にいくと首を絞めながら自慰行為をしている(窒息プレイというらしい)フリを入れて、その後、息子と学校へ向かう(息子とは同じ学校)。息子が他の生徒とトラブルを起こし、同僚の女教師クレアとのラブプロットなどが展開されていくが長い。カタリストが遅らせるほど重要なシーンはない。少なくとも25分あたりの「隣人との会話」はあきらかにサブプロットなので、PP1以降に入れるべきシーン。
Catalyst「カタリスト」:「同僚のマイクがニューヨーカーに掲載される(12分)」ランスが作家志望であるところに、同僚が先に雑誌に載るということは「カタリスト」的ではあるが、あまり機能はしていない。息子との関係については「主人公のセットアップ」で語っていないのでメインプロットに見えない。
Debate「ディベート」:「冴えない日々がつづく」詩のクラスの生徒は減り、女教師クレアも奪われるのではないか、息子には邪見に扱われるなど、冴えない日々がつづくが、これは「カタリスト」の結果で起きているので日常というかんじなので、まだ事件が起きていないようにも見える。
Death「デス」:「女教師とのキス」アクト2が下降していくアークを描く場合、PP1前には死としてのデスではなくむしろ幸福なシーンが入る。ジェットコースターの急降下前に上がるようなもの。死亡フラグみたいに捉えても同じ。物語論的には次のシーンの息子の死を「デス」ととってもいいが、映画的にはここのハッピー感がデスである。
PP1「プロットポイント1(PP1)」:「息子のカイルの死亡事故(37分)」息子が窒息プレイの事故で死んでいるのを発見することから生活が一変する。大きな出来事。時間としては全体の40%の位置で極めて遅い。これはサブプロットが始まる位置であるが、とのサブプロットをPP1前に入れてしまっている影響がここにもでている。
Battle「バトル」:息子の死後、落ち込んでいくランス。もう戻ることはできない非日常の始まりでもある。周りの人が慰めてくれるのがバトルとして捉えていけるが「主人公のセットアップ」→「カタリスト」でフッていた「作家として認められる」という流れとズレているため、ストーリーがどこへ向かっている(つまりはMPがどこなのか)がわからない。ロビンウィリアムズの悲しむ演技がアクト2に入ったかんじすら出してしまっているが、もはやコメディとしても笑えないかんじになっている。こちらの流れで展開していくなら、アクト1の「主人公のセットアップ」→「カタリスト」で息子との関係をきちんtの入れておかなくてはいけなかった。あるいは父親はダメな息子を疎ましく思っていて死しみもしないキャラとして展開して、この後に出てくる日記の捏造などのシーンも前倒しにするべきだ。主演がジム・キャリーだったらそういう感じが出てかもしれない。
演技力のある役者は、あいまいな脚本のビートの方向を作り出してしまい、ストーリーが崩れるという例の一つである。
『イン・ザ・ベッドルーム』という映画でも同じようにPP1で「息子が死ぬ」が、それと比較するのも面白い。
ともかくブレてしまっているのでビートのとり方が一通りにならないが、下降していくアークとして捉えていく。
Pinch1「ピンチ1」:「詩のクラスに生徒が激減」サブプロットとしての機能は全くもっていないが、MPを挟むピンチとして置かれている。黒人のキャラクターの詩がテーマを掘り下げているとも言いがたい。
MP「ミッドポイント」:「隣人の家を尋ねる(50分」)下降のアークを辿るプロットでは上がるというよりも落ちきった点がミッドポイントになる。孤独の頂点に到達した主人公ランスは隣人を訪ねる。いいシーン。
Fall start「フォール」:「息子の遺書が学校内で広まる(54分)」下降のアークのプロットではフォールは、落ちるのではなく上がるきっかけになる。学校で息子が人気になって、どんどんと上がっていく。バトルの欄で書いた、ふざけた父親の上昇アークとして展開するなら、このシーンをPP1直後にもってこなくてはいけなかった。
Pinch2「ディフィート or ピンチ2」:「詩のクラスが生徒が増える」ヘザーというサブキャラクターも出てくる。MPを挟んだ対比にはなっているが、サブプロットの本質的にはあまり効果がない。
PP2(AisL)「オールイズロスト or プロットポイント2」:PP1の方向性がはっきりしていないのでPP2も定義しづらい。旅の始まりがあいまいなので、どこを終わりとするかも決めづらいということ。下降のアークでみていくと「トークショーの依頼の電話」(73分)が、次のビッグバトルへつながるかんじをさせるが、やはり機能はしていない。下降のアークをたどるプロットは例えば『ザ・ファイター (2010年の映画)』などがあるが、これではPP1から下降することで、もう望めないと思っていたチャンスがもう一度、巡ってきて、アクト3のビッグバトルにつながるのである。しかし、この映画の場合、息子を失った哀しみと「テレビに出る」というバトルに関連が見いだせない。ちなみに先に挙げた『イン・ザ・ベッドルーム』では息子を殺した犯人を殺しにしいくというアクト3が展開される。
「バトル」と「ビッグバトル」は関連を持たせなければ機能しないというのはこういうところで影響してくる。もしも、この映画の流れの延長でビッグバトルを入れるとしたら「隣人のお婆さんが死ぬ」「息子の友人が死ぬ」などで、もう一度、息子の死について考えさせるとか、捏造したことがバレてしまうことで、その後に本当に大切なことを何かがを見つける「アクト3」が展開できたはずである。直後のシーンで「死んだ息子の親友が訪ねてくる」(73分)、疑いを見せているのもPP2的が、追及が弱いので、主人公を揺さ振るほどのシーンになっていない。
BB(TP2)「ターニングポイント2」:テレビ番組の収録に向かう。テレビでは息子のことを問われて「優しかった」と言う。この辺りで、むなしさを感じはじめているのだろうがシーンとしては伝わってきづらい。演技としては苦しんで泣いているようにも、ただ息子を思い出して泣いているようにも見えて、わかりづらい。泣くことに違和感のある状況でキャラクターを泣かせれば、観客に意味を考えさせることができるが、このシーンでは泣いて当然のシーンで泣いているので、何故泣いているかまでは、見ている方ではわからない。ともかくビートとしてはテレビ番組上では告白できなかったのがツイストとして、ラストではすべてを告白する(Big Finish)。これがやや唐突に見えるのは、主人公の心の変化が演出や脚本から伝わってこないせいである。あとは音楽とともに解放感を表す描写。「孤独の死よりも、孤独を感じさせる人囲まれている方が最悪だ」というモノローグでテーマを語った風だが、アクト2の「旅」がテーマとズレてるので観客には響かない。「息子の死についての物語」なのか「孤独をめぐる物語」だったのか、演出と脚本が噛み合っていないかった。
image2「ファイナルイメージ」息子の友人アンドリューと隣人のお婆さんと一緒に映画を見ている。これはいいシーンだが、やはり過程が弱いのでとってつけたような感じが捨てきれない。
●感想
・役者の演技がビートの意義をつくり出すことがあること。
・一連のビートが噛み合っていないと、テーマも伝わらないし、シーン毎にいいものがあっても失敗する。
・「息子が自慰行為で死んだのを自殺に偽装して、それが話題になってしまう」というアイデア自体にはものすごくフックがあったと思う。
分析にご興味がある方は、ぜひビート分析してみてください。
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緋片イルカ2019/04/29
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