これまで言動決定要素の「テンション」について考えてきましたが。そのさいごとして「読者・観客のテンション」ということについて考えてみます。
【読者・観客のテンション】
「脚本は心理学である」というのは、映画『レインマン』の脚本家の言葉だそうですが、ここには二つの意味が含まれています。
1つはキャラクター、主に主人公の感情をていねいに描くということ。
もう1つは読者・観客の感情をコントロールするということ。
この2つは冷静に考えれば、全く別ものであることはお分かりになると思います。
例えば、主人公が便意をもよおしてトイレに行きたいと思っている。トイレに向かって走っている途中で上司が現れて話しかけられる。
主人公にとっては「怒り」や「焦り」が起こりますが、読者・観客は笑います。
あるいは、主人公が恋人にフられて悲しみの絶頂で号泣しているシーン。
読者・観客が、主人公に共感していれば同じように悲しい気持ちを共有できますが、
主人公の言動に、自業自得のようなところがあったりすれば冷ややかな目で、うんざりしてしまうこともあります。
とくに後者の例は、実際に映像になった映画でも多々あります(とくに感情描写が過剰な邦画に多い)。
クライマックスシーンとして、感情演技と音楽で盛り上げようとしますが、感情移入させるという基本的な構成ができていないために白けて見えるのです。
まずは読者・観客のテンションと、キャラクターのテンションは別物と考えることです。
【テンションをコントロールする】
主人公のテンションをコントロールするのはイベントです。
前回でも例を出していたように、宝くじが当たればテンションは上がるし、それが勘違いだったら、がっかりして下がります。
イベントをテンポよく配置することがプロットであり、それによって主人公が一喜一憂します。
さらに人生に関わるような難題にぶつけて、決断を迫り、変化させることでキャラクターアークとなります。
読者・観客はそれらを見て楽しみます。
ミッドポイントで上げるところまで上げるというのは、ジェットコースターで頂点まで上げてから落下させるのと同じ原理です。
同じような上げ下げのくり返しでは飽きてくるので、リズムに変化をつけていきます。
予想されないところで落とすとか、落ちそうなところであえて落とさないとか、読者・観客を驚かせるためのテクニックです。
ヒッチコックはこういったものを「コード」と呼んでいたそうです。
キャラクターアークが描かれ、読者・観客が楽しめる物語は、人気もあり名作となります。
エンタメ作品では読者・観客のテンションが優先され、キャラクターに不自然さがあっても演出で盛り上げます。
アートや文学作品ではキャラクターの感情が優先され、テンポが遅かったり、変化に乏しいものもあります。
けれど、名作と呼ばれるような作品には、両方の要素を含んでいます。
次回……キャラクター概論35「言動決定要素⑥目的:主人公のWANT」
緋片イルカ 2019/09/11
構成について初心者の方はこちら→初心者向けQ&A①「そもそも三幕構成って何?」
三幕構成の本についてはこちら→三幕構成の本を紹介(基本編)
文学(テーマ)についてはこちら→文学を考える1【文学とエンタメの違い】
文章表現についてはこちら→文章添削1「短文化」
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