プロットタイプとストーリータイプ
一般的にはプロットタイプとストーリータイプという言葉が同義に使われていますが、僕は二つを以下のように分けています。
プロットタイプ:物語の展開や変化による分類
ストーリータイプ:テーマや題材などによる分類
多くのストーリーに用いられる「恋愛」について、考えてみると、この違いがよくわかります。
具体的に見ていきましょう。
「ロミオとジュリエット」型のプロット
CAT2のブレイク・スナイダー10のストーリータイプでは「相棒愛Buddy Love」という大きいタイプの中に
叙事詩愛Epic Loveとして『タイタニック』
禁断愛Forbidden Love『ブロークバック・マウンテン』
という二つの派生があります。
これは僕の分類では「ストーリータイプ」による分類です。何が同じで、何が違うかは実際に分析してみると、よくわかります。
プロットポイントとミッドポイントだけの構造をとらえるなら『タイタニック』と『ブロークバック・マウンテン』は同じです。
PP1:恋が始まり
MP:愛の頂点
PP2:別れ
アクト3:もう一度、会おうとするが……
ビートまで細かくみても同じようなタイミングでそっくりな変化が起きていたりします。
しかし、違うところはたくさんあって、それぞれの作品の魅力につながるわけです。
すると「Epic」と「Forbidden」の違いは何なのでしょう?
この二つの作品でいえば、目に見えてわかる大きな違いは『タイタニック』では豪華客船という障害が二人の愛を妨げるところでしょうか。CAT2では同族として『風と共に去りぬ』や『ドクトル・ジバゴ』などが挙がっています。事故や戦争といった、人間にはどうしようもないものが二人を引き裂くようです。
一方、『ブロークバック・マウンテン』の同族には『ロリータ』(ロリコン=ロリータコンプレックスという言葉の語源です)や『招かれざる客』が挙がっています。同性愛、ロリコン、人種差別といった(当時の)価値観や倫理観といったものが障害となっています。『タイタニック』のローズには婚約者がいますが、その程度では「Forbidden」にはならないようです。
では『ロミオ&ジュリエット』はどっちに入るのでしょう?
キャラクターの設定は明らかに『タイタニック』に近いのですがCAT2の分類では「Forbidden」に入っています。基準がよくわかりません。というのも当たり前の話で、物語はひとつひとつ違うので、どこかで線を引くとしても、線の境界に近い作品があります。結局は主観的にならざるを得ないのです。
けれど、構成(ビート)という観点から見れば、上にあげた作品『タイタニック』『ブロークバック・マウンテン』『ロミオとジュリエット』はすべて同じです。だから、僕はまとめて「プロットタイプ」と呼びます。「ロミジュリ」型のプロットとでも呼んでおきます。
「ラブコメ」型のプロット
CAT2では同じ「相棒愛Buddy Love」という大きいタイプの中に、
ロマ・コメ愛Rom-com Loveとして『恋人たちの予感』
というものもあります。
CAT2自体が2007年なので古い本ですが『恋人達の予感』(1989)はさらに古いです。同族に挙げられている映画も、世代によってはまったく見たことない作品が多いでしょうが挙げてみます。
いわゆるラブコメ映画です。映画を見たことなくてもパッケージ画像から雰囲気が伝わってくると思います。「ロミジュリ型」の作品に比べて笑顔が多いです。「ロミジュリ」型はバッドエンドで終わる悲劇が多いのに対して、こちらはハッピーエンドで終わる喜劇ものが多いのです。
この型の古典的名作といえば、これです。
アカデミー賞の主要五部門(作品、監督、主演男優、主演女優、脚本)を同時受賞した作品です。
ラブコメはその時代ごとに量産されて、当時は人気があっても忘れ去れてしまう作品も多く、『或る夜の出来事』型といっても伝わりづらいので「ラブコメ」型と呼んでおきます。
このプロットタイプでは、
PP1:関係が始まる(無関心か嫌悪)
MP:お互いに認め合う
PP2:関係が終わる(寂しい)
アクト3:自分の意思で、再会
となります。
これは、男の友情にも当てはまるので、ロードムービー系の二人旅映画なんかも型としては同じです。ロミジュリ型とを分ける決定的な違いもあるのですがテーマやキャラクター論について触れなくてはいけなくなるので……気が向いたら記事にするかもしれません。まあ、それぞれの映画をビート分析してみたらわかります。読書会などで質問いただければ説明します。
サブプロットとしての恋愛要素
もう一つ、どんなプロットタイプにも入っている「恋愛要素」があります。トムクルーズ映画でも007でもいいのですが、アクション映画には必ずといっていいほど美人ヒロインが登場します。その方が華があって売れるから、というところからきたものです。こういった「恋愛要素」は構成上、サブプロットとして展開されます。
この違いはプロットポイントを見ればわかります。アクト2で起きている「非日常」は恋愛ではなくて、アクションやミステリーといった別のメインプロットです。そこに恋愛要素がサブプロットとして入っているのです。やや専門的な話ではサブプロットは通常、ピンチ1というビートから始まりますが、それだとヒロインの登場が遅くなるので、さまざまな工夫がなされて変則的になっていることが多く、そのせいでメインプロットに見えがちだったりするものもあります。
ちなみにCAT2の分類では「相棒愛Buddy Love」という大きな分類の中に職業愛Professional Love『リーサル・ウェポン』まで入っています。こちらはプロットタイプでいえば、バディ要素のある刑事・探偵ものです。これは「バディ要素」と「バディプロット」の違いをごっちゃにしているので紛らわしいところです。
CAT2の分類は、プロットタイプとストーリータイプが混同した分類なのです。
ではラブストーリーとは何なのか?
ラブストーリーとは?
改めて、二つのプロットタイプを並べてみます。
ロミジュリ型 | ラブコメ型 | 抽象化 | |
PP1 | 恋が始まり | 関係が始まる(無関心か嫌悪) | 非日常の始まり |
MP | 愛の頂点 | お互いに認め合う | 関係の最高潮 |
PP2 | 別れ | 関係が終わる(寂しい) | 非日常の終わり |
アクト3 | もう一度、会おうとするが…… | 自分の意思で、再会 | クライマックス |
「ロミジュリ型」も「ラブコメ型」も恋愛を扱っているという意味では同じです。だからストーリータイプでいえば僕は「ラブストーリー」と呼びます。サブプロットとして「恋愛要素」があるだけのものは入れるべきではないと思いますが、メインとサブの比率が5:5に近ければ、もはや「ラブストーリー」と呼んでしまって良いようなものもあります。
「ストーリータイプ」としてラブストーリーと呼ぶときにはテーマや題材が「恋愛」であると感じれば、含めていいのです。そこには主観が入ることも許容します。
一方、「プロットタイプ」と呼ぶときには、客観的に構成上の類似点が認められるものに限ります。その点から見ると「ロミジュリ型」と「ラブコメ型」は別のタイプといえます。恋愛をテーマにしている点は同じですが展開が違います。上にあげたように悲劇・喜劇という分け方もありますが「ロミジュリ型」でハッピーエンドもありますし、「ラブコメ型」で悲劇的に終わるものだってあるので、これは型を分ける要素になりません。
物語の抽象度合を高めていくと、ビートだけが残ります。音楽でいえばメロディがなくて「トン、トン、トン」という一定のリズムしかないようなものです。メロディがつくと「ハ長調」とか「イ短調」とかになって、物語にもプロットタイプができくるのです。このメロディの違いが「プロットタイプ」です。
ちなみに物語の型としてもっとも有名なのがモノミスやヒーローズジャーニーで、三幕構成のベースになっているものです。「物語はすべて旅である」というようなときには、あくまでストーリーの本質について説明するための喩えなのですが、そのまま「プロットタイプ」になっているものもなります。「ヒーローズジャーニー作品比較」で紹介したような作品です。
創作に役立てるには?
構成を考えるときには「プロットタイプ」がとても役に立ちます。
たとえば「ラブコメ型」は友情にも当てはまると言いましたが、それは「男×女」を「男×男」に変えただけです。それなら「人×ペット」でもいいし「人×ロボット」「人×宇宙人」でも使えるのです。
一例を示すなら、
PP1:機械なんか大嫌いな老人と最新型アンドロイドが暮らすようになり
MP:老人は、機械のいいところを認める
PP2:アンドロイドが故障する
アクト3:再起動して記憶がリセットされるが、取り戻す。
いま、僕が適当に考えたストーリーですが、どこかで聞いたことあるなと思ったなら、それこそが「プロットタイプ」が使い回されているという事実の裏返しです。型を使えば、いくらでも量産できるし、実際、このように物語はくり返されてきたのです。
小説やマンガ連載では長さゆえに、型に当てはまらないものや、複数の型がくっついたようなものが、たくさんあります。初めは学園ラブコメのような物語で始まったのが、いつのまにかバトル漫画になっているなんていうのはよく聞く話です。それでも切りわけて「プロットタイプ」に分けることはできます。
「ストーリータイプ」の方はテーマや題材としての発想のヒントになります。
「恋愛」は人気があるから「ラブコメ」は量産され、アクション映画には「要素」となってまで付いてくるのです。「ラブストーリー」は人気なのです。
テーマや題材は、歴史や文化の変化に伴い、変化していきます。
たとえばSFというジャンルは科学が発達する以前にはなかったものです。
グローバル化で未開の地への冒険物も少なくなりました(『80日間世界一周』なんて映画は、世界旅行をする人が少なかった時代だから通用した映画です。いまではレトロ趣味としての味わいがありますが)。
恋愛で言えば価値観が広がって「ロリータ」や「性的マイノリティ」が作品として受け入れられるようになってきました。SFと組み合わせて機械との恋愛も作られるようになりました。『her/世界でひとつの彼女』はアカデミー脚本賞作品です。
黒人のゲイという題材でアカデミー賞をとった『ムーンライト』もあります。
この「黒人のゲイ」というテーマを、古代ギリシアで描いたらどうなるでしょう? 男臭いスポーツチームの中なら? 戦場の軍隊の中で描いたらそれは「戦争もの」でしょうか?
テーマが前面に出ていれば同じ「ストーリータイプ」に分類できるでしょうが、物語の展開(「プロットポイント」)はどれも別物になるでしょう。
「戦争もの」という大きいストーリーから考えれば、その中にトロイア戦争から、第二次世界大戦があり、イラク戦争や9.11以降が入ってきました。これからはSFとは違う宇宙戦争が入ってくるかもしれません。けれど、その戦況下での、メネラーオスとヘレネーの恋愛や、名もない兵士の恋愛を描こうとしたら、構成上は「ロミジュリ」型という「プロットタイプ」の応用になるのです。
このように「ストーリータイプ」と「プロットタイプ」の違いを明確にわけることで「構成」と「テーマ」のそれぞれにヒントとなるものがあるのです。
緋片イルカ 2020/03/14
2020/03/25追記
はじめまして、うおと申します。
最近このサイトを知り、目から鱗な体験をしております。
これからも熟読し、理解を深めていこうと思います。
今日は「ラブコメ」型の第二幕に関して質問があります。
ご教示頂けますと幸いです。
例えば『或る夜の出来事』だと、PP1における主人公・ピーターの目的は何になると分析していますか?
このサイトを知る前は、単純に「相手役・エレンをNYまで連れていくこと」としていましたが、「ラブコメ」型という人間関係の変化を各ポイントと捉える型を知り、この目的は違うのではないか?と思いだしました。
悩んだ末に、「エレンをただの取材相手として接すること」が目的で、その目的を阻む敵が「魅力あるエレン」?と考えたりしましたが、解釈が間違っているような気がしてなりません。
メインプロットがラブストーリーの話がうまく掴めません…
(『或る夜の出来事』だとメインプロットは「ラブストーリー」で、サブプロットは「NYに行くまでの出来事」?それとも2つのラインで捉えるのが間違い?など)
長々と疑問をぶつけてしまってすみません。
よろしくお願い致します。