掌編『チャイム』(1758字/SoC5)
鳴る。チャイムが鳴る。スピーカーからプツン、スイッチが入った音がするからわかる。鳴った。四時間目のチャイム。昼休みに入る。一番のチャンス。やらなくてはいけない。誰を?……
鳴る。チャイムが鳴る。スピーカーからプツン、スイッチが入った音がするからわかる。鳴った。四時間目のチャイム。昼休みに入る。一番のチャンス。やらなくてはいけない。誰を?……
ああ、見たことある、このかんじ――デジャブ、デジャヴュ? どっちでもいい――「……ったんだけど、どう?」話しかけないで、消えちゃう――「ね、聞いてる?」……
どこかの旅先にいる。知っている場所ではない。起きてから考えてみても、思いあたる場所はなかった。空がなかった。晴れているのか曇っているのか、雨は降ってなかった。地方の駅というかんじで、降りると踏切があった。駅員さんに話しかけている女性がいた。ヒステリック気味に食べる店がないのかと詰問している……
いかにも日曜の午後という――むかつく。子ども、子ども、犬、子どもは嫌いじゃない。かわいい子どももいる。わがままになる時もしょうがない――俺だって子どもの頃は……
「人間って本当に伝えたいことの一割も言葉にしないまま死んでいくのかもしれない」
なんやかんやあってNくんとは後楽園のジョナサンでダベっていた。いろんな店で外国人の店員さんが多くなって、注文が通じなかったというNくんのエピソードから、「日本にいるからって日本語が通じると思っちゃいけないですね」
私は夢日記をつけることにした。首を吊ったり線路に飛び込んだり、確実な方法は怖くてできない。戯れにリスカするぐらいが私の限界だった。日記をつけるだけでゆるやかに死んでいけるなら、ありがたい。
ふと見上げると月が赤かった。三日月のように細く鋭い弧が赤く光って、空に開いた切り傷みたいだった。狂おしくて綺麗だった。どんなものでも月は好きだ。
なかなか明けない梅雨に、ぐずぐずとしていた。今日こそは三、四時間は書こうと思っていたのに、今になってもまだ一枚も書いていない。
試験官には髪の毛が一本入っている。わたしのものだ。産婦人科医は目を細めて確かめると、『ご主人はどうします? 最近では精子から受精させる方もいらっしゃいますけど』