クミが失恋した。
「元気だしなよ?」
「ありがとう。」
「今日カラオケでも行く?」
「そういう気分じゃないんだ。」
「そっか~。」
「あんたは、悩み無さそうでいいね?」
「ははは、まあね。元気だけがとりえだから、あたしは。」
あたしは笑顔を作るのが得意だ。
作り笑顔じゃない、笑顔を作るのだ。
誰にだって悩みはある。
友達が悩んでいたらあたしも苦しい。
誰にだって苦しい時はある。
友達が苦しんでいたらあたしも悲しい。
誰にだって…
だからこそ、あたしは笑顔を作るのだ。
悲しい気持ちは伝染するでしょ?
だったら、笑顔だって移ると思わない?
クミのことが嫌いな訳ではない。
でもクミはあたしのこと嫌いかもしれない。
どこか、あたしのことを見下している。
でも、
失恋したばかりでつらいだけかもしれないし。
「どうした? 元気ないじゃん?」
声をかけてくれたのマエダ君だった。
「そんなことないよ?」
「そっか? じゃあいんだけど。」
「うん。あたしから元気とったら何も残んないもん。」
「たしかに。」
マエダ君が笑って去っていく。
「マエダくん!」
「ああ?」
「ありがとう。」
「おう。」
わかってくれる人はいる。
ほんとにありがとう。
ヒマワリのピアス
元気なあたしにピッタリだと言ってくれたのも
マエダ君だった。
最近、してなかったのに気付いて、今日は付けることにした。
ピアスの効果かもしれない。
「おはよう。」
通学路、マエダ君が後ろから肩を叩いてきた。
「おはよう。」
「よかった。おまえに会えて。」
「え? なに?」
「実は話があったんだけど、教室だと、みんないるし、なかなかね。」
「なによ? 改まって。告白?」
「ばか、声でけえよ?」
マエダ君はクラスメイトがいないか慌てた。
「まさか、ほんとに…?」
「これ…。」
マエダ君はあたしに、周りに気付かれないよう、さっとラブレターを渡した。
あたしはもらったラブレターを見た。
「これって?」
「クミって最近別れたんだろ? おまえから渡してくれよ?」
「あ、ああ、そういうこと。」
「頼むぞ。」
そう言うと、マエダ君は走って先に行ってしまった。
あたしは休み時間、クミをトイレに誘って、そのラブレターを渡した。
「誰から?」
「マエダ君。」
「え~どうしよう。私、別れたばっかだし。マエダ君ってどんな人か知らないし…。」
「付き合っちゃいなよ? マエダ君すごくいい人だよ?」
「本当? そうしようかな…。」
「そうだよ。絶対そうした方がいいよ?」」
「うん、じゃあ、付き合ってみる。ありがと。」
クミは笑った。
やっぱりピアスの効果だ。
クミのこんな笑顔は久しぶりに見た。
(「ヒマワリのピアス」おわり)