「茶封筒」

 先日の同窓会で知人に金を貸した。知人と言ったのはもう友人とは呼びたくないがためによる。彼が金を返したいので今から会えないかと言ってきた。私は実のところ会いたくなかった。もうあいつとは会いたくなかった。金は捨てた気でいた。しかしそれが返ってくるということに少し誘惑された。金だけもらってくるのもいいではないか。なければ困る額ではないが、捨てるには惜しいのも確かだ。あいつにくれてやるのはさらに惜しい。私は彼に今から行くと答えた。早く来いという言い方が失礼極まりなかった。それで急ぐ気が削げた。待ち合わせのファミレスはそれほど遠い場所ではなかったが、彼に会う目的だけで行くには煩わしい。私は極力楽しい面を考えるようにした。返ってくる金をどう使おうか? もともと諦めていた金だから思い切りよく使うのもいいではないか? あるいは少しずつ使えば一月ぐらい裕福な気分が味わえるのではないか? どちらでもいい。地道に貯めた金では買うのに躊躇するものを買ってみるのもいい。使わずにまた貯めておくのもいいではないか。あれこれ考えていると彼から連絡が入った。また早く来いとの催促だった。その時はもう店の前まで来ていた。
「なんだ、ずいぶん早いな」
「ああ、今の電話のとき、もう店の前だったから」
「本当か? わざと俺を待たせていたんじゃないのか?」
「何だよ。その考えは」
「すぐそこなら電話代がかかるから出なくてもよかったじゃないか」
「そうだな、悪い」
 それから、この前の同窓会で話したばかりだというのに同級生の様子や、さらにあの場で話せなかった誰々はいくらもらっているとか、誰々の車は何処何処製だといった話が続いた。私は彼のことを内心で金に汚いやつだと罵りながら、借金の話を切り出してこない彼に苛立ちを感じている自分を意識しすぎて自分から切り出せないでいた。それがますます彼との会話をつまらなくさせ、次第に彼への相槌にもそれが表われ始めた。さすがの彼もそれを感じたらしく不自然に話をまとめた。
「そろそろ出るか」
「ああ」
 彼はこれから行かなくていけないところがあるんだと言った。私が自分の飲んだコーヒーの代金を払おうと財布を拡げたのに構わず彼は伝票を持って行った。彼が払ってくれるならそうしてもらおう。それが普通だとも思える。私はコーヒーいっぱいに対して彼は腹が膨れるほどの食事を取り、私が来てから追加でケーキまで食べていた。そして呼び出したのも用があったのも彼の方だし、恩というほどではないにしても、私の方から持つ筋合いはなかった。彼は事務的な茶封筒から逆さに振って出てきた札の一枚で払った。そのお釣りを小銭もごっちゃにまた封筒に入れた。それから会計を処理してくれた女の子に親しげな言葉をかけた。絡むような言い方ではなかったが女の子は苦笑いした。私は彼と同類に思われるのが嫌で先に外に出た。彼は私を追って出てきた。
「おいおい。待てよ。○○円でいいよ。コーヒー代」
彼はレシートを見ながら端数を切り捨てた値段を言った。私は言いたいことを言わずに財布から彼に言われた額を払った。
「はい、まいど」
 彼はしっかりと財布にしまいこんでから、件(くだん)の茶封筒を取り出した。
「はい。借りていた金。ありがとな」
 彼は別れ際に再会をほのめかしていたが私は二度と会うまいと思った。帰り道のゴミ捨て場を通りかかったときに封筒を丸めて叩き捨ててやりたい衝動に駆られたが、抑えて中身を抜いてから、そうした。
(了)

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