同じ作家にくり返し現れるモチーフがある。
わかりやすいのは、医者とか弁護士といった専門職をしていた人が、その分野のミステリーなりドラマをリアルに描いて作品を書いたもので、素人にはわからない専門性が蘊蓄的な魅力となって、読者も求められるため、くり返し同じ題材の作品が作られる。
キャラクターやテーマがくり返される場合もある。
ジャンルや展開が違うストーリーなのに、その作者の作品にはいつも「父親が暴力的」とか「優しい兄がいる」とか同じようなキャラクターが登場するといった場合である。
これを作者自身の体験とかトラウマなどと解釈するのは安直すぎる。
作者が意図的にそのキャラクターモデルを使っている場合があるからだ。書き慣れた作家はキャラクターに関して自分のストックを持っている。過去の作品で一度、描いたキャラクターは使い回すのは容易いので、ただ使い回しているだけかもしれないし、書き慣れた作家であれば、単に、別の作家の好きなキャラクターを模倣している場合だってある。
作品=作者と安易に決め付けるのは、作品のテーマを見誤る危険性がある。
たとえば、ある作家がデビュー作では「金持ちの嫌なヤツ」を悪役として登場させたとする。
この作者は「金持ちになると心が貧しくなる」という価値観を持っているのかもしれない。
その悪者を徹底的に打ちのめす作品が読者にウケたとする。
同じ作家が二作目では、似たような金持ちキャラクターが「改心」するシーンを描いたとしたら、どうだろうか。
エンタメ作品で、金持ちを徹底的にやっつけて欲しいと思う読者にはカタルシスに欠けるかもしれない。そういう人は、前作の方が面白かった、物足りないといった評価をするだろう。
この作者が、三作目でも同じようなキャラクターを登場させたら、どう描くだろうか。
デビュー作のような勧善懲悪ストーリーに戻していたら「二作目が売れなかったから、デビュー作に寄せた」と言われるかもしれないが、「やっぱり面白い」と売れるかもしれない。
二作目のような「改心」に拘って、また売れないストーリーを書いた場合、「落ち目」と言われるかもしれないし、「改心」の描き方に深みが出ていれば別の視点で評価する人がでてくるかも知れない。
評価はいずれにせよ、この作者は「金持ちの悪者」というテーマを通して、読者や自分と対話している。
意図的にせよ、無意識的にせよ、このように同じ作家の作品にくり返し現れるテーマを「ライターズコア」と呼ぶ。
同じ作者のいくつかの作品通して読んでみると、浮かびあがってくる。
テーマとして扱い、作家自身がそれと向き合っている場合は、「ライフワーク」となり作家性と呼ばれたりもする。
ライフワークは評価されようがされまいが、その作者にとって表現せざるを得ないものである。
緋片イルカ 2019/11/15
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