「プロットの焦点」(三幕構成24)

まずはストレスの話から……

「ストレス」という言葉は2つの意味を含んでいます。

1つは「ストレスがある」というように原因となる嫌いな人間や仕事があるという場合。
もう1つは「ストレスを感じる」というように、心身反応として感じる緊張感や苦しさを指す場合です。

心理学ではストレスの原因となる前者を「ストレッサー」、「ストレス反応」と呼びわけます。
どちらにストレスの原因があるかを見極めて対処していきます。
ストレッサーに対処することを「問題焦点化形コーピング」、ストレス反応に対処することを「情動焦点化コーピング」といいます。


物語の根本原理は「不均衡」→「均衡」なので、ストレスは「不均衡」状態と言い換えることができます。以下、それぞれのコーピングをストーリーに当てはめて考えていきます。

問題焦点化形ストーリー(プロットアーク重視)

ストレッサーに原因があるわかりやすい例は「ブラック企業に勤めている」「嫌な上司がいる」などです。ストレスを感じている人自身に問題があるのではなく、置かれている状況にストレスの原因があるのです。「DVされている」「戦争」「災害」といった命に関わる場合も同様です。
現実世界ではストレッサーから離れる、逃げる、保護されるといったことが問題解決の糸口になります。ブラック企業であれば転職してしまえば、あっさりと解決してしまうこともあるでしょう。

一方、物語では逃げて解決では面白くありません。ストレッサーと戦うことになります。
ストーリーにあてはめるなら、外的なものと戦うストーリーになります。アクション映画のようなものを想像するとわかりやすいかと思います。

「宇宙人が地球を侵略にきた」といったSFアクションや、「火災」や「事故」などCGをふんだんに使った災害アクションはその最たるものです。

もう少し日常な例では「犯人を追う」探偵や刑事、「裁判に勝つ」弁護士ものなども、物語の焦点は主人公ではなく、外的なものを制圧するかにかかっています。

こういったストーリーではキャラクターよりも、プロットアークが大きく構成を動かします。物語の焦点が「問題」なのです。

弁護士もので具体的に考えてみましょう。

PP1で「裁判準備開始」
MPで「勝訴の手ごたえ」
フォールで「大きな失敗が起きる」などして
PP2で「敗訴確実の状況に追い込まれる」
アクト3では「手を講じて逆転勝訴」となる。

といった構成になります。これがプロットアークとなります。
主人公のキャラクターアークは、このプロットに必ずしもリンクする必要はありません。

シンプルな熱血感な主人公では、(←がキャラクターの心理)
PP1「裁判準備開始」←被疑者のために全力を尽くします!
MP「勝訴の手ごたえ」←よし、行けるぞ!
フォール「大きな失敗が起きる」←なんだって!?
PP2「敗訴確実の状況に追い込まれる」←くそう、どうしたらいいんだ……
アクト3「手を講じて逆転勝訴」←正義のために全力を尽くす!

といった、キャラクターアークが考えられます。
しかし、やる気のないひょうきんな主人公であれば、どうでしょう?

PP1「裁判準備開始」←めんどうくせえな~
MP「勝訴の手ごたえ」←まあ、勝てるならいっか
フォール「大きな失敗が起きる」←やっぱり、こうなると思ってたんだよ
PP2「敗訴確実の状況に追い込まれる」←しょうがねえ、そろそろ本気出すか
アクト3「手を講じて逆転勝訴」←俺にかかれば、こんなもんよ

いずれにせよ、このタイプの物語のストーリーエンジンは主人公ではなく「裁判」というプロットの方なのです。主人公は魅力があれば状況にリアクションしているだけでも成り立ちます。

必ずしも主人公は変化しなくてかまいません。
キャラクターが変化していなければ、そのまま次の裁判で、続編がつくれます。
このようにして、テレビドラマに多い職業物のシリーズが作られます。

情動焦点化ストーリー(キャラクターアーク重視)

一方、大きなストレッサーがないのに主人公が「ストレス反応」を抱えている場合はどうなるでしょうか? これは程度の酷い場合は「パーソナリティ障害」のような状態です。

「電車に乗れない」「他人と食事ができない」「人間と会うことが怖い」といった日常生活に支障がでるレベルでは、環境を変えることは不可能です。本人が変わらなくてはいけません。

パーソナリティ障害の治療はカウンセリングを受けるべきことなので、ここでは言及しませんが、これを物語に当てはめていくなら、「問題を抱えた主人公が変化するストーリー」となります。

大切な人の死など「トラウマ」を経験した人の再生物語や、社会と折り合いのつけれらない「思春期」の少年の成長物語、結婚や離婚、中年の危機、老後の問題などと向き合うストーリーも含まれる。これらはエリクソンの発達課題がヒントになるように、人生における成長がテーマなのです。

こういったストーリーではキャラクターアークが重要になります。物語の焦点は「情動」なのです。

思春期からの成長を例にするなら、ログラインで言ってしまえば単純になります。
「貧しい家庭の少年が悪さばかりしていたが、仲間と決別して、大人になっていく」としてみます。

ある程度、年を重ねた世代からすれば、「まあ、誰でも若い頃はそういうところあるよね」ぐらいのストーリーにしかなりません。作者が説教くさい態度で、この主人公を描いていたら駄作になります。
主人公に共感させて、「ああ、若い頃は、そんなこと感じてたことあったな」とセンチメンタルにさせることができれば物語としては成功です。

この違いが、一重にキャラクターアークが丁寧に描かれているかどうかです。細かいビートも必要です。

具体的な構成で考えてみます。

PP1で「逮捕される」て、周りから更生を促され、
MPで決意して「仲間を裏切る」が、
フォールで「親友が急接近してきて」後戻りし始める。
PP2で「再逮捕される」
アクト3では「親友が死に、生きることを心から決意」となる。

とりあえずの構成としては、まずまずですが、この作品に共感できるかどうかは、構成よりもシーンや描写に大きく影響をうけます。たとえば、「周りから更生を促され」と構成上では簡単に書きましたが、シーンとして、あるいは、この主人公の心情として納得できるものかどうかが重要です。

たまたま、知り合っただけの昔ながらのおまわりさんが、「いつまでもこんなことやってられないだろ」なんて、ちょっと温かい言葉をかけただけで、更生していくような主人公では、観客・読者は興ざめです。もはやギャグでしかない「カツ丼食わせる」なんてのもありますが、ああいうベタなセリフで物語が展開していいのは、前に話した「問題焦点化形ストーリー」でのみです。

問題焦点化形ストーリーでは「問題」が焦点でした。大きな事件を解決して過程でサブキャラクターによるいくつかの証言が必要だとします。そういった場合であれば、あっさりと「取調べでオチ」てもいいのです。観客・読者が見たいのは、事件の真相であって、そのサブキャラがオチるかどうかではないからです。むしろ、早くオトすことで物語のテンポが上がります(それでも、作者の工夫はしたいところですが)。

話を戻します。
では「情動焦点化ストーリー」では、どのように主人公を変化させていけばいいのか。そこでビートは活用していけます。ビートのモデルになっている「ヒーローズジャーニー」の旅は、通過儀礼とも置き換えて考えられるからです。さきの構成で言うならば、この主人公に必要な「通過儀礼」は「落ちるところまで落ちること」だったのです。それが「逮捕」では足りず、アクト3の「親友の死」を経験して、少年は本気で変わろうと決意するのです。

具体的なビートシートは割愛させていただきますが、ビートをきちんと機能させていけば、少年の心の変化をより細かい構成として落とし込んでいけます。

プロットアークとキャラクターアークの両立

ここまで物語の焦点が「問題」なのか「情動」なのかということから、それぞれプロットアークが重要になるか、キャラクターアークが重要になるかというちがいを考えてきました。

これは、「構成」と「キャラクター」どちらが重要なのか?という意見の対立とも重なります。
僕は「構成ですべてが決まる」という人も「キャラクターこそが命」というような人も信用しません。
なぜなら、どちらも重要に決まっているからです。

ジャンルや物語のタイプによって、どっちに焦点を置いた方がよいかという違いはありますが、両方とも良くする方がいいに決まっています。つまりは「プロットアーク」も「キャラクターアーク」もきちんと両立させればいいのです。

さいごに、簡単な具体例を示しておきます。さきにご紹介した2本のアークを合わせただけです。1本だけのがいいか、2本ある方が深みが出るかの判断はお任せします。

オープニングイメージ:クスリの売人をしている少年グループが逮捕される。
カタリスト:弁護士に、少年の弁護の依頼。「めんどうくせえな~。悪ガキとか大嫌いなんだよ」少年の父親は金持ちで、口は悪いが優秀な弁護士をつけた。
PP1「裁判準備開始」弁護士、少年に接見。弁護方針を伝える。「グループのボスを裏切れば助けてやれる。嫌なら執行猶予がつくかは五分五分だな」
ピンチ1:(少年の)親友の恋人(幼なじみ設定)が来る。
MP「少年には執行猶予がつく」。弁護者「まあ、よかったな。俺も儲かったよ。賢いやつは法律に逆らわずに金を稼ぐんだぜ」。ただし親友は国選弁護人しかつけられず少年刑務所へ入る。父親には、親友とは縁を切るように厳しくいわれる。親友の恋人「これで、よかったのかも」
フォール:親友に会いにいく。頼まれていたものを差し入れ。
ピンチ2:親友が脱走してきて、匿う。弁護士に相談するが「俺の知ったことか。親父に頼め。弁護してほしければ金をもってこい」
PP2「逃亡開始」親友と恋人と三人で逃亡劇の末、親友死亡。少年は逮捕される。父親に勘当される。弁護士に金は働いて払うから弁護してくれと頼む。弁護士、自分も親父に勘当された。だから勉強して自分の力で弁護士になった。「裁判はたぶん勝てないが、ただで弁護だけはしてやる」。
エピローグ:少年は出てきたら更生することを誓って、刑務所へ入る。弁護士が見送る。

補足:2本のアークがあれば、当然、プロットポイントが前倒しになったり、アクト3が変わったりします。主人公が弁護士なのか、少年なのかといえば、少年になります。弁護士はメンターというキャラクターロールになっている。観客・読者はキャラクターアークが強い人物を主人公とみなすからです。弁護士にもキャラクターアークを入れていくこともできますが、それをやると構成自体が変わっていきます。(※キャラクターアークが2本になるとコントラストプロットになるが、その場合は弁護士と少年ではテーマにコントラストが生まれにくい。むしろ親友などでアークをつくった方がいい。このあたりはバランス感覚や物語の長さにもよる)。

緋片イルカ 2020/03/10

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