アンタゴニズム(中級編11)

三幕構成 中級編(まえおき)

三幕構成の中級編と称して、より深い物語論を解説しています。

中級編の記事ではビートを含む用語の定義や、構成の基本、キャラクターに対する基本を理解していることを前提としています。しかし、応用にいたっては基本の定義とは変わることもあります。基本はあくまで「初心者が基本を掴むための説明」であって、応用では例外や、より深い概念を扱うので、初級での言葉の意味とは矛盾することもでてきます。

武道などで「守」「破」「離」という考え方があります。初心者は基本のルールを「守る」こと。基本を体得した中級者はときにルールを「破って」よい。上級者は免許皆伝してルールを「離れて」独自の流派をつくっていく。中級編は三幕構成の「破」にあたります。

以上を、ふまえた上で記事をお読み下さい。(参考記事:「三幕構成」初級・中級・上級について

超初心者の方は、初心者向けQ&A①「そもそも三幕構成って何?」から、ある程度の知識がある方は三幕構成の作り方シリーズか、ログラインを考えるシリーズからお読みください。

アンタゴニズムとは?

アンタゴニズムantagonismという言葉はロバート・マッキーの本にあります。翻訳版では「敵対する力の原則」と訳されています。

わたしの経験から言うと、ストーリーを設計するうえで最も重要でありながら、最も理解されていないのが、敵対する力の原則だ。脚本とそれに基づいて制作された映画が失敗する最大の理由は、この基本原則を顧みないことにある。(『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』より)

この書き出しで始まる「敵対する力の原則」の章は、とても示唆に富んでいます。

葛藤の大きさや深さにおいて、登場人物の経験しうる極限までストーリーを展開するためには、「相反」、「対極」、「マイナスの中のマイナス」というパターンをたどらなくてはならない。(同書)

とあります。

複雑で僕が理解していないのか、ロバート・マッキーの定義にもブレがあるようにも感じます。

原書の言葉をあたってみますと、主人公がもつ一つの価値観「Positive」に対して、

「相反」=Contrary

「対極」=Contradictory

「マイナスの中のマイナス」=Negation of the Negation

というパターンを踏むということだそうです。

書籍では作品例を挙げながら、具体例がたくさん示してありますので、ロバート・マッキーの定義を確かめたい人は、書籍をあたってください(僕には説明しきれません)。

ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則

葛藤の基礎を確認

ここでは、ロバート・マッキーの定義を理解するのは放棄して、この「アンタゴニズム」のパターンを創作に活用できないかを考えてみます。

一番、効果的な方法は「ビートシート」に組み込むことです。

以下は、僕の使やすい用語をつかって考えさせてもらいます。

「アンタゴニズム」は日本で親しみやすい言葉でいえば「葛藤させる」ということです。

「主人公を葛藤させろ」というのは、どんな物語教本にも書いてある定番セオリーです。

具体的な方法を書いているものは少ないです。

しかし、葛藤させるだけであれば、実は簡単です。

「主人公に目的(want)を持たせることと、その障害(バリアー)を作ることです。

単純な力学で、進もうとしている道に、壁があれば進めなくなります。

そこで主人公はどうしようかと悩みます。

「この壁は越えられないから、もう引き返そうか?」

「いや、タックルすれば壊れるんじゃないか? 当たって砕けろだ」

「痛い。やっぱりダメだ。壊せない。どうしたらいいんだ……」

はい、葛藤しました。葛藤させるだけなら簡単なのです。

問題は、壁の「大きさ」「種類」です。

バトルマンガを考えてみましょう。どこかで聞いたような「世界征服をしようとしている敵」がいるとします。

その敵が「壁」です。

仲間達と協力して、なんとか倒します。

平和になったのも束の間、次の「壁」が現れます。

こんどは世界どころから「地球を征服しようと目論む宇宙人が敵」です。

前までは敵だった「世界征服を目指していた敵」も仲間になるかもしれません。

修行したり、方法を考えたりして、2つめの「壁」も乗り越えます。

次は宇宙征服を目論む……もう、いいですね。

いわゆる、バトルマンガの「敵のインフレ」というやつです。物語の力学として、連載ストーリーが陥る必然です。

いずれバブルが弾けて、連載が終わります。

具体例が長くなりましたが「壁」を大きくしていくというのは、こういうことです。

バトルマンガというのは「葛藤」=「バトル」なので、とてもわかりやすいです。

僕がビートシートで「バトル」という用語を使うのもわかりやすさのためです(※本来なら「トライアル」と呼ぶべきだと思っています)。

では、壁の「種類」とは何でしょう?

これがとても曖昧です。

たとえば、さっきのバトルマンガの主人公が「宇宙征服を目論む敵」も倒して、平和を導いたとします。

その後、彼は結婚し主夫になり、赤ん坊が産まれ、子育てに「葛藤」する。

これは壁の「種類」が違います。

宇宙一強いパパでも、泣き叫ぶ赤ん坊をおしめを変えるには悪戦苦闘するかもしれません。

僕は『ドラゴンボール』の孫悟飯のハイスクール編は嫌いじゃないですが、ファンが求めるのは、やはりバトルでした。

連載型ストーリーの主人公は「want」に基づいて突き進みます。

「強いやつと戦いたい」という主人公であれば、次々と強い敵を出すしかないのです。

主人公のwantが変わると、ジャンルが変わってしまいます。あるいは世代交代して主人公そのものをすげ替えるしかありません。

それに対して、読み切りマンガや、映画や小説のように、長さが決まっている完結型ストーリーでは、主人公の変化がストーリーの中心となります。

完結型ストーリーで使われる「壁」は「大きさ」「種類」よりも「深さ」が重要になってきます。

キャラクターアークは心理であり、表層意識からより深い領域の自分へと向き合う旅ともいえます。

あるいは「深さ」は「テーマ」の深さともいえます。

この「深さ」を考える上で参考になるのが冒頭に示したロバートマッキーの「アンタゴニズム」のパターンです。

アンタゴニズムを応用する

「相反」=Contrary

「対極」=Contradictory

「マイナスの中のマイナス」=Negation of the Negation

この言葉は、どうも扱いづらいように感じます。『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』を読み込むと、ロバート・マッキーの言わんとすることはわかってくるのですが、いざ、自分の創作に応用しようとすると、とても扱いづらく感じます。

そこで「バトル」のビートに合わせて、わかりやすい呼び方をしてみます。

「相反」=「ライバル」

「対極」=「ラスボス」

「マイナスの中のマイナス」=「隠しボス」

あまりゲームをやらない方にはピンとこないかもしれませんが、ドラゴンクエストのようなRPGゲームをイメージしてもらえるとわかりやすいかと思います。

わかりやすい「対極」=「ラスボス」から説明します。

これは、冒険の最終目的である相手です。主人公はラスボスを倒すために、冒険に出るのです。ちなみにキャラクターロールで呼ぶならコンタゴニストと呼びます。

そのラスボスの前には「ライバル」を倒さなくてはいけません。これは主人公と同じ「ラスボス」を倒す目的をもっているけど価値観が違うために相反したり、過去にはヒーローだったのに敵側に願えってしまった(いわゆる闇落ち)してしまった相手などです。

強力な相手で「ラスボス」に行く前に超えなくてはいけない壁です。キャラクターロールではアンタゴニストと呼びます。

そして、ラスボスを倒した後に現れる「マイナスの中のマイナス」=「隠しボス」。ラスボスを倒した後に現れる真の敵です。これはキャラクターロールとしての呼び名はありません。ロバート・マッキーが「ストーリーを設計するうえで最も重要でありながら、最も理解されていない」と言っている意味はここにあると思います。

RPGゲームでは「ラスボス」を倒した後に、ただ倒すことに挑戦するためだけのボスがいます。その「隠しボス」を倒すことは、ストーリーとは関係なく、ただ、ゲームをやり込んだ証として倒すような相手です。だから、めちゃくちゃ強い。

「こんなの、どうやれば倒せるんだよ?」

という気持ちにさせるような「隠しボス」です。

この「不可能性」が「マイナスの中のマイナス」のカギです。

「葛藤」のあまいストーリーがたくさんあります。

主人公の目的が提示された時点、たとえば「ラスボス」を倒す旅に出発した時点で、ほとんどの観客は内心では「どうせ倒してくれるんだろう」と期待しています。

親切な観客は、それを考えないことにして、主人公と一緒に冒険を楽しんでくれますが、その旅があまりに回りくどかったり、段取りくさいとイライラしてきます。(ビートの意義がわかっていない人はラスボスを「ビッグバトル」にもっていきがちです)。

観客は「隠しボス」が現れたときに「え、こんなの倒せないんじゃない?」と驚きます。

その瞬間に、ぐっと引き込まれ、最後まで目が離せなくなるのです。

サスペンスでは「真の敵」=信頼していた仲間(上司)だったという展開が、よく使われます。

ミステリーでも同じです。真犯人は「あいつ」だった、というような。

そういうオチが効果的に働くのは「不可能性」があるときです。

「あいつが敵なはずがない!」

「あいつが犯人なんて不可能だ!」

観客がそう感じるからこそ、驚いてもらえるのです。

いかにもな怪しい仲間が犯人だったところで、裏切り者にしかなりません(それだったら裏切りで驚かせようとするより、裏切っていく心理をていねいに描いた方がいいドラマになります)。

補足とまとめ

やや低俗にみえるかもしれないゲーム的な用語で「アンタゴニズム」を考えてきました。

主人公の目的によっては「ライバル」「ラスボス」という言葉が、逆にわかりづらくなることもあるでしょう。

ビートを理解するときに言葉に囚われるのは危険です。

抽象的な言葉でニュアンスを掴めるなら、その方が応用は利くかもしれません。

「相反」=Contrary

「対極」=Contradictory

「マイナスの中のマイナス」=Negation of the Negation

というロバート・マッキーの言葉で掴めるなら、それで良いと思います。

細かいことを補足しておけば、ロバート・マッキーがいう主人公が一つの価値観「Positive」は「want」ではありません。

ストーリー価値の「Positive」です。

これは似て非なるものですが、構成を考える上では「want」の方が活用しやすいので、あえて区別せずに話しています(気がむいたら違いについて記事にします)。

また、ビートシート上で「相反」「対極」「マイナスの中のマイナス」をどこに配置していくかということが、アンタゴニズム活用の胆ですが、僕の考えはここでは秘密としておきます。

けして正しい答えが、ひとつあるという訳ではないので、みなさんも考えてみてください。

緋片イルカ 2021/01/26

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