アーク実例(中級編没原稿)

ストーリー価値とアークの関係を説明しようとして書いたのですが、別の記事を書いてしまい没にしていた記事です。とりあえずあげておきます。

アークとエンディング

「生/死(alive/dead)」のストーリー価値はどんな人間にも共通するテーマで、文字通り「生きるか死ぬか」のストーリーとなります。

オリジナルストーリーをつかい、以前に示した「3本のキャラクターアーク(ポジティブ・ネガティブ・フラット)」との統合もかねて3つのパターンを考えます。

なお、説明はわかりやすいように外的なアークである「プロットアーク」を中心に考えます。厳密にはキャラクターアークと分けて、それぞれを深く掘り下げるべきですが、それをやると物語をまるまる一本しっかり創るのと同じことになるので、ここでは外的と内的をやや曖昧にしたまま、あくまで「ストーリー価値」の説明としていきます。

ポジティブなアーク


ポジティブなアークでは、主人公の状態はネガティブから始まります。つまり「死」に近い状態からスタートします。PP1以降、ミッドポイントに向けてポジティブになっていき、PP2で再びネガティブに落ちます。アクト3では再びポジティブへ上がっていきエンドを向かえるという型といえます。たいていはハッピーエンドです。

アクト1:主人公のスタート地点はネガティブ。「死」に近い状態から始まります。
「病気で死期が近い」は外的な死はもちろん、内的にも絶望しているかもしれません。
「貧困で生活ができない」でも同じく生きる希望を失っているかもしれません。
「拘束されている」などアクションやスリラーの展開もありえます。内的な「拘束状態」は、息苦しい結婚などで生活に囚われを抱えていることもありえます。
PP1~MP:あるきっかけからポジティブの方向へと向かっていきます。ミッドポイントに向かって、状況はいい方へと傾いていきます。
病気で死期の近い主人公であれば「病気を治す薬が発見される」ということがあれば、治るかもしれないから始まり、MPでは薬の効果が現れ始めたところまで行くでしょう。内的な展開であれば「病気は治らないが最期にやりたいことを見つけます」それは内的な「生」といえます。ミッドポイントに向かってやりたいことを一つずつ達成していきます。ぜんぶやり遂げてしまっても構成的にはOKです。
生活苦だった主人公は「仕事を見つける」という展開がありえます。今までやったことのない仕事かもしれません。「この年になって今さら……」と思っていた主人公は覚悟を決めて、新しいことに挑戦します。始めてみると、新しい発見や出逢いがあり、ミッドポイントに向けて、満足をしていきます。
囚われていた主人公は「脱出や逃亡」を始めます。ミッドポイントではいったん自由を手にするはずです。内的な拘束だった主人公であれば、離婚をするかもしれません。
いずれにせよ、ポジティブに上昇していくイメージで、ミッドポイントでは、すべてがうまくいったように見えます。
MP~PP2:しかし「フォール」が始まります。上手くいっていたことに翳りが見えはじめて、状況がネガティブに向かって落下していきます。
「薬の効果が一時的だった」とか「副作用が出始める」などもありえます。内的に「やりたいことをやり遂げた」主人公には病状が悪化して、改めて「死」と向き合わなくてはいけないでしょう。
仕事がうまくいっていた主人公は「大失敗」をしてしまうとか、会社が倒産して潰れてしまうといったことが起こるかもしれません。
脱出して自由になったと思った主人公は、改めて逃げ切れていないことを感じるでしょう。アクションであれば、再度、囚われて絶望に落とされる。内的な自由を得ていた主人公は、たとえば離婚して新しいパートナーを得て自由になったと思っていたのに、新しいパートナーからまた拘束が始まったりするかもしれません。
「フォール」以降、落下していきPP2では、ほとんと元のネガティブ状態に落とされてしまいます。
アクト3:そして主人公はエンディングに向かっていきます。エンディングにもポジティブ、ネガティブ(ハッピーエンド、バッドエンド)があり、その原因となる要素もあるのですが、それはいずれ解説していきますが、ここは素直にポジティブエンドになる場合のみを考えていきます。
病気で死ぬことは誰も逆らうことはできません。主人公が生きのびるという終わり方は通常はありえません。この場合、外的にはネガティブ(死)に落ちるわけですが、死を受け入れたり、人生に満足をして死んでいけば、内的にはポジティブといえます。ちなみに、このように、内外でポジティブ・ネガティブが反転しているものは「皮肉なアーク(Ironic Arc)」と呼び、外的と内的のアークをしっかり分けて設定することによって深みを生む効果があります。
仕事を見つけた主人公は会社がダメになっても、立て直すことに奔走したり、新しい仕事を見つけていけるでしょう。未経験の仕事にも挑戦するという体験を得て、成長しているのです。アクト1の頃の主人公とは違うのです。
アクションやサスペンスとして拘束されていた主人公は脱出するだけでなく、悪の根元を打倒して、新たな被害者を生むこともないでしょう。アクションでネガティブエンドはあり得ません。サスペンスやホラーでは怖さを残すエンドはありえます。内的な拘束にとらわれた主人公のエンドは作者の価値観が多分に影響しますが、元のパートナーとよりを戻したり、新しいパートナーとも別れて独りになる(本当の自由=生を得る)などが考えられます。

ネガティブなアーク


ネガティブなアークはポジティブの正反対。ポジティブな状態から始まって、いったんネガティブになるが、ポジティブに戻るという下降のアークを描きます。理屈は簡単ですが、一応の実例を示します。

アクト1:スタートは通常あるいは、よりポジティブな状態から始まります。たとえば「体は健康」、仕事も家庭も充実していて不満のないような状況です。主人公はこのままの日常が続けばいいと思っていたり、本人が自覚のないまま深層レベルでの虚しさを感じている場合もあります。後者の場合は「皮肉なアーク」となります。
PP1~MP:日常を一変させるような事件がおきます。「不治の病が発覚」して余命が3ヶ月しかないことを知る。それまで幸せだったものが、そう感じられなくなって下降していきます。「仕事がなくなる」「家族を失う」といった危機でも同様です。アクションストーリーであれば、突如、事件に巻き込まれる(ポジティブで説明した「拘束状態」になるとも言える)といった展開もあります。強盗の人質になるといった状況も「死」に向かってアークが下降していくといえます。
MP~PP2:ミッドポイントは「死」に向かって最も下った点といえます。しかし、主人公が外的に死んでしまうストーリーはほとんどないので、内的な死あるいは、サブキャラクターの死で代用されることがあります。内的な状態でいえば、落ちるところまで落ちた点といえ、あとは上るだけと言えます。ポジティブなアークで「フォール」は下降しはじめますが、正反対なネガティブなアークでは「フォール」から上昇を始めます。ベクトルの向きを考えれば、ポジティブなアークのPP1で起きる変化と似ています。つまり、この地点から「治る希望」が見えるかもしれませんし、内的な「生」を目指してやりたいことをやりはじめるかもしれませんし、仕事を無くしていた主人公であれば、新しい仕事に就く覚悟を決めるのです。
アクト3:下降のアークではエンドはポジティブ、ネガティブ、どちらもありえます。映画であればポジティブエンドになることが多いです。アクト3での「ビッグバトル」に勝利して、ハッピエーンドにになるのです。新しい仕事に就いた展開であれば、上手くいって終わるのです。
しかし、アクト3でさらに下降して暗いエンディングを向かえるものもあります。『ベストセラーコード』の7つのプロットでいえば、プロット2(ブッカーの悲劇)のようなものです。最後の最後にだけ希望を見せてエンドとするタイプです。外的に病気で「死」にむかっているアークだとしたら、PP2でやはり病気には逆らえず、死んでいきます。ここでもポジティブなアークで「フォール」で起きるようなことがズレて、PP2で起きているとも言えます。そのまま下りきり主人公は死にます。しかし主人公の残したものが周りの人間には希望となるようなおわり方です。新しい仕事に就いた展開で、再び失敗、何度やっても上手くいかないことで、社会の冷たさや不条理などを感じさせます。それでも主人公は諦めず希望を持って終われば、ラストだけはわずかに上昇します。

フラットなアーク

フラットというのは変化がないということですが、あくまで「キャラクターアーク」に変化がない=主人公の気持ちは変化しないと言えます。強い信念を貫いて行動していく形になります。その場合、主人公によって周りの状況が変化していくので「プロットアーク」は変化します。プロットアークはネガティブにもポジティブにもなります。

アクト1:「プロットアーク」がポジティブなアークを辿る場合、状況はネガティブから始まります。たとえば、手の付けられないような悪や不正がはびこるような状態です。アクションものであれば無法地帯、学校や会社であっても「死んでいる」状態といえるでしょう。また上に例をあげた「肉体の死」でいえば、主人公ではなく家族や恋人、友人が病気であるということもあります。
ネガティブなアークを辿る場合は、平和な状態です。「カタリスト」以降、事件が起こり下降していきます。
また、ミステリーの多くも基本的にはフラットなキャラクターアークをもった主人公です。
PP1~MP:ポジティブなアークを辿る場合、主人公の努力や行動によって、状況が改善していきます。無法地帯だったものが秩序を取りもどしていったり、学校や会社であれば健全化していきます。身内の病気であれば、それを治すために努力したり、友人のために何かするといった内的な上昇アークを描きミッドポイントを目指します。
ネガティブなアークを辿る場合、主人公の努力もむなしく、状況は悪化の一途をたどります。重い社会問題をテーマにしたものなどでは、簡単には解決しません。
ミステリーでは、犯人にぐんぐん迫っているならポジティブ、探れば探るほど謎が深まるような展開は下降していると、感覚的には捉えられます。
MP~PP2:ポジティブなアークを辿る場合、うまいいきかけていたものが「フォール」以降、また悪化しはじめます。秩序をとりもどしたアクションの世界に、新たなる強敵が登場したりします。学校や会社であれば、気の緩みや、こちらを立てるとあちらが立たぬといったように新たな問題が噴出したり、裏切りなどによって、悪化しはじめます。身内が病気の展開であれば、やはり病状が悪化しだします。
PP2にいたり状況は元の木阿弥のようになってしまいます。フラットなアークの主人公も「ダーク・ナイト・オブ・ザ・ソウル」あたりでは多少、落ち込むこともありますが、基本的には信念の強いキャラクターであるので、諦めずにアクト3へと突入していきます。
ミステリーで、ポジティブに上ってきていた場合は、じつは見当違いであったことがわかったりして、方向がズレます。謎が深まる展開であった場合は「フォール」でようやく糸口がつかめ、上昇に転じていきます。ちなみにミステリーでは『フォール」で真犯人が顔を見せることが多くあります。ミステリーのPP2は犯人を確定して(ただし外れている場合もよくある)、アクト3の「謎解き編」に入っていきます。
アクト3:ポジティブなアークを辿る場合、主人公は一人になっても戦います。ただし、アークを描いているのは周りの人間なので、主人公に引っ張られるようにして、周りの人間も勇気を振り絞り、悪と戦います。もちろんポジティブなアークであれば勝利します。主人公は犠牲となってヒーローとして神話化することもありますが、全体的にはポジティブに傾いてエンドを向かえます。学校や会社であれば、主人公だけが辞めることになったり、不幸な状況になったりしながらも、状況は改善します。身内が病気の展開では、彼(彼女)が死ぬことは避けられませんが、家族や主人公は前向きに生きていこうとするでしょう。
ネガティブなアークを辿る場合、ここでもエンドは2種類あります。ポジティブなアークと同じように勝利を掴むことはあります。苦しい戦いにようやく勝利するのです。主人公が犠牲になる場合があるのも同様です。ネガティブなエンドを迎える場合は「悪い奴ほど栄える」といった終わりになります。主人公や主人公に感化された仲間は諦めないでしょうが、物語内では解決しません。それはおそらく現実社会でも解決していないような問題でしょう。
ミステリーでは、通常は真犯人をつきとめて解決します。

ストーリー価値のまとめ

「生/死」というストーリー価値を軸に実例を挙げてきましたが、部分的には「生/死」というよりは、「善/悪」や「富/貧」といったりした方がいいようなところもあります。
これは一つのストーリー、一人の主人公がもつ、ストーリー価値が一つだとは限らないからです。

また、ストーリー価値というのも、抽象化してしまえば、ポジティブとネガティブという感覚的なものになってしまいます。

しかし、全体として軸となる「ストーリー価値」を定めることがテーマとなり、またその「ストーリー価値」を軸に葛藤をみていくことで、テーマが掘り下げられているかどうかが見えてきます。前半で「生/死」の葛藤になっていたものが、後半では別になっていたりする場合、ストーリーがブレているといえます。

緋片イルカ 2020/08/06アップ

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