ライターズルーム内であったQ&Aについて共有しておきます。
質問
「乱闘シーンみたいなのって、全て細かく書くんでしょうか? アクションシーンの書き方分からないなって思ってしまいました」
イルカの回答
脚本が書くべき事と、演出の範囲を考えると決まってくると思います。
細かすぎる描写と、雑な描写を、極端な例で示してみます。
●パターン1
太郎、右手でストレートパンチ。
二郎、左にスウェーして避けて、右手でアッパーカット。太郎に直撃。
太郎は仰向けに倒れる。
●パターン2
太郎が二郎に殴りかかる。
乱闘の末、太郎が負ける。
ボクシングなどのストーリーで、太郎の「ストレートパンチ」や、二郎の「アッパーカット」が意味をもっている(必殺技とか)なら、パターン1のようにきちんと書かなくてはいけませんし、ラブストーリーで太郎と二郎が三角関係でもめてケンカしているだけなら、戦い方まで細かく指定する必要はないので、パターン2でもOKの場合もあります(動きは演出に任せるという意味で)。
「書き方がわからない」というのが「ト書きの書き方がわからない」という意味であれば、常に「これは何の話なのか?」という視点で判断することができるはずです。この意識が弱いために、無駄な描写が多くなるのは(セリフもト書きも)、アクションというジャンルに限ったことではありません。
ラブストーリーでも、性格や感情に関係ない描写を事細かにする必要はありません。
たとえば、主人公が「どんな色のどんな服を着ていて、バッグはどこのブランドで……」といった描写がト書きにあると、それは衣裳さんへの指示になっていきます。
ストーリーやキャラクターがファッションに関係して、服装が主人公の性格や感情を象徴するものであるなら、事細かく書く必要があります。
その場合、主人公だけでなく、周りのキャラなども同様に意味を持たせて、作品全体で意味を持たせていく必要があります(ビートの「オープニングイメージ」は、こういう機能に関連させるべきものです)。
一方、関係のない部分を事細かに描写するのは小説的になり、読みづらさの原因になることもあります。情報量が多すぎると、重要なテーマが紛れてしまう(脚本を読む人に伝わらない)危険もあります。
脚本は、それ自体が作品ではないので、作者が自惚れてはいけません。「感情ドラマを中心とした、作品の方向性をしっかりと示す設計図」です。
ただし現場レベルでは、監督との相性や、オリジナル作品でSF設定などで、事細かに描写することが効果的な場合もあります。
コンクールなどでも、読み手のレベルが高くないときは、あえて描写してあげてイメージを掻き立ててあげることが評価につながることがあります(※これは、コンクールの脚本は読み物として扱われがちなので、いざ映像になったときにいい作品か微妙なときもある)。
話を戻します。
「書き方がわからない」というのが「アクションが想像できない」という意味であれば、単純に、その手の映画の引き出しの少なさだと思うので、たくさん観たり、かっこいいと思ったシーンの脚本お越しをしてみたらいいと思います。
この記事(マンガと三幕構成②「構図」)で紹介している『マスターショット』のような本を参考にするのも良いと思います。
演出家は、画的な面白さを狙って、無駄に殴り合いとかさせたがりますが、脚本家としては「そのアクションに意味があるか?」を考えなくてはいけません。
ラブストーリーであれば「パターン2」ぐらいのト書きで済む場合もありますが「そもそも殴り合いする必要があるのか?」という視点を持たないといけないのです。
殴り合いの中で、どちらかがケガをして、それがその後の展開に影響するとかであれば、ストーリー上、意味を持ちます。
しかし、演出的な意味で殴り合いをしているだけであれば、口ゲンカで済ませても、ストーリー上の意味はあまり変わりません。
むしろ肉体的アクションで、感情の処理をごまかしている危険性もあります。
たとえば、殴り合って、スッキリして、仲直りするといったクリシェシーンは、マンガなんかでありがちですが、人間が演じる実写では「殴る」という行為までのハードルは高いので(現実で、そんな簡単に殴りますか?ということ)、マンガ的やチープなキャラ、暴力的なキャラに見せてしまう危険もあるのです。
いずれにせよ、「何がテーマの話で、そこがどういうシーンなのか?」という視点を常にもつことで、どういうシーンにするべきかも、ト書きの書き方も決まってくると言えると思います。
オマケ:
パターン1も、しっかりと駆け引きを感情描写するのであれば、アップなどを入れたりすることで盛りあげることもできます。
●パターン3
太郎の鋭い視線。
太郎、右手でストレートパンチ。
二郎の口許がほんのわずかに動く。
二郎、左にスウェーして避けて、右手でアッパーカット。
太郎に直撃。大きく目を見開く。
そして仰向けに倒れる。
マンガのコマ割りにも似ています。
あまりやり過ぎると、演出の範囲に踏み込んでしまいますが、ほどほどにやることで、読み手に映像が浮かぶようになります。
緋片イルカ 2023.5.31