以前、比喩表現については一度、書きましたが、今回は改めて直喩と隠喩の違いに注目してみようと思います。
【「~ような」があるのが直喩で、ないのが隠喩?】
学校教育の文法では、「~ような」があるのが直喩、ないのが隠喩と習います。
そうすると、
「りんごのようなほっぺ」が直喩?
「りんごほっぺ」が隠喩?
学校では丸かもしれませんが、文章表現ということを考える上では、この理解では安易です。
この二つの文章は「ような」があるかないかで、語数のリズムに違いがあるだけで文章の意味は同じです。
「りんごのような赤い頰っぺ」が想像できるのであれば、どちらも直喩です。
そもそも比喩とはどういう表現技法なのでしょう?
【比喩はAとBの類推】
比喩というのは、AとBという二つの似ている部分を挙げて、関連付けることによって、イメージを働かせる表現です。
例文では、頰の赤(A)とりんごの赤(B)を関連付けています。
関連させているものが明らかな場合が「直喩」、明らかでない場合が「隠喩」です。
次のような例文はどうでしょう?
「ぶどうのようなほっぺ」
「りんごのような声」
どちらにも「~ような」がありますが、意味がわかりますか?
わかるという方は想像力が豊かな方かもしれません。ぶどうのような弾力を想像したかもしれませんし、りんごから青森や農家を連想して方言のイントネーションのある声を想像したかもしれません。
別の方は、また別の連想をしたでしょう。
つまり関連付けているものが不明なのです。これが本当の隠喩です。
【2つの直喩の上達手段】
一般の小説で使われている上手な比喩は、ほとんどは直喩か換喩なのです(※換喩については次々回で解説予定)。
比喩が巧みな作家は、物事の関連性を見つける「似たもの探し」のセンスが得意なのです。
あるいは、過去作品をたくさん読んだために、知らず知らずに喩えの引き出しをたくさんもっているのです。
もちろん、あまりに頻繁に使われる比喩は「滝のような汗」とか「足が棒になる」といった慣用表現になっているので、小説に使うのは吟味する必要があります。
比喩が上手くなる手段はこの2つです。
1つはたくさん読むこと。
もう1つは、喩えたいときに「赤いもの……なにがあったかな……」と連想ゲームをしていくセンスを養うこと。
今回は、直喩に注目しましたが、隠喩がわかりにくいダメな表現かというと、けっしてそんなことはありません。
上で書いたことと矛盾するようですが、本当に巧みな比喩表現は隠喩に近いものがあります。それについては次回、考えていきます。
次回……文章テクニック17「隠喩の効果」
緋片イルカ 2019/08/26
●書籍紹介
レトリック(=表現技法)に関する本では佐藤春夫先生が有名ですが、個人的には次の『レトリック事典』がオススメです。辞典形式ですが前から読んでいくこともできるし、例文も満載です。
レトリック辞典
この本はおそらく大学の講義に使っているものだと思うのですが、わかりやすくて入門書には最適です。
身近なレトリックの世界を探る―ことばからこころへ (慶應義塾大学教養研究センター選書)
ゆくゆくは佐藤春夫先生の本もおさえておきたいところです。
レトリック感覚 (講談社学術文庫)
構成について初心者の方はこちら→初心者向けQ&A①「そもそも三幕構成って何?」
三幕構成の書籍についてはこちら→三幕構成の本を紹介(基本編)
文学(テーマ)についてはこちら→文学を考える1【文学とエンタメの違い】
キャラクター論についてはこちら→キャラクター概論1「キャラクターの構成要素」
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