文章テクニック17「隠喩の効果」

前回、直喩と隠喩の表現技法としての違いを考えました。今回は隠喩について考えます。

【わかりづらいけど、決まれば効果的】
小説で使われてるほとんどは表現は直喩であること。また、隠喩は「喩えるもの」と「喩えられるもの」の関連性がわかりづらいと伝わりづらい表現になってしまうということを話しました。
しかし、隠喩は読み手の想像力を刺激します。わからない人にはわからないが、わかる人には絶妙に感じる。それが隠喩です。

【映像を喩える】
例文をあげます。先入観をなくすため誰の文章かは後述します。隠喩が2カ所ありますので探してみてください。

 夏だった。朝毎に上野の不忍池では、蓮華の蕾が可憐な爆音を立てて花を開いた。
 これはその池を横切る観月橋の夜のことである。
 橋の欄干は涼み客が数珠玉になっていた。南風だった。街の中では身軽な氷屋の暖簾でさえだらりと垂れて動きもしなかった。そんな時にもここは、池に写る月を二尺の金鱗の魚に見せる微風がある。でも、重い蓮の葉を裏返す程の風ではない。

 

「可憐な爆音」は誇張表現でしょうか。蓮がポンっと開く様子が浮かびます。「可憐な」という修飾がハスの花に合っていますが、爆音と合わないところも面白い表現だと思います。

問題は隠喩でした。一つめは「涼み客が数珠玉になっていた」。
橋の欄干に並んで、池を眺めている人々が浮かびます。丸い頭が並んでいて、それを数珠のように並んだ表現しているのですが、文章では「数珠玉になっている」と説明がなくバッサリと表現しています。

二つめは「池に写る月を二尺の金鱗の魚に見せる微風」です。
これは風の強さを表現しています。情報としては「南風の日で、街では暖簾さえ動かないほどなのに、不忍池では微風がある」ということを言っています。その微風の強さ加減を「池に写る月を二尺の金鱗の魚に見せる」と修飾しているのです。この表現、すっと映像が浮かびましたか? 僕はちょっと考えました。

水面に映っている月が微粉に揺れてゆらめく。それを二匹の金の魚のようだと喩えているのです。
「~に見せる」という言い方から、視覚情報であることはヒントが与えられているので直喩的であるとも言えるかも知れません。
もっと厳密に隠喩的にするならば「池に写る月を二尺の金鱗にする微風」などとなりますが、最初からこれだったら意味不明ではないかと思います。
見せるという、関連性のヒントが与えられてるにしても、「揺れる月」を「二匹の金の魚」に喩えるセンスはさすが文豪というかんじです。

【キャラとテーマを喩える】
もう一文、同じ作者から引用してみます。

 三月の午後三時の丘に、彼女は夕顔のように静かに咲いていた。彼女の身のまわりには、今朝初めて幼い肌を空気に触れさせた若芽が、生れて初めての夕が来るのを、木々の梢で悲しんでいた。

「彼女は夕顔のように静かに咲いていた。」これを隠喩と言っていいのかは、わかりません。
擬人法の反対で擬物法というレトリックもあるので、そちらに属するのかもしれません(いい文章を書きたいだけなので研究的な分類は僕はどうでもいいのです)。
ともかく情景としては公園の丘で立っている美人といったところです。

二行目も面白いですよね。今朝初めて芽をだした新芽が悲しんでいる。こちらは擬人法です。一体、何を悲しんでいるのでしょうか?

実はこの話、2ページほどの掌編で、彼女は「午後四時公園の丘でお待ちいたします」という手紙を、誰かれ構わず男に出して、やってきた男と一夜を共にするという話です。貧しさからか、寂しさからかは書かれてはいませんが、彼女はそうしないと生きていけないと思っているのです。

この彼女の美しさと悲しさを、引用の二行が表しているのです。待ち合わせ時間の夕方にだけ咲く「夕顔」であり、一瞬(一晩)だけ男に求められることが「咲くこと」に喩えられているのです。若芽たちの悲しさは作者の視点かもしれません。

もちろん僕の解釈に過ぎないといえばそうですし、別の人が別の解釈をしたら、それもまた正しいのです。
隠喩は関連付けを明示していないゆえに、読者があれこれと想像できる「あそび」があるのです。それは読書の楽しみでもあります。
それゆえ、一文ごとの表現だけでなく作品全体を通してキャラクターやテーマを連想させる効果があります。
全体を通して一人のキャラクターを花として喩えていくか、獣として喩えていくかで印象はまったく変わります。

作者が意図的に使っている場合もあれば、無意識が反映されている場合もあります。
意図的にイメージを統一していくのは、映画でいえば「オープニングイメージ」や人物にキーカラーを持たせる演出などと同じです。

次回……

緋片イルカ 2019/08/26

●書籍紹介
今回、引用に使ったのは掌の小説 (新潮文庫)でした。
1つめは『帽子事件』、2つめは『屋根の下の貞操』というタイトルです。

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