プレイステーション4のゲーム『Detroit: Become Human(デトロイト ビカム ヒューマン)』のストーリーが面白かったのでビート分析しました。ムービーシーンのショットから見ても映画を意識しているのは間違いありませんが、脚本もしっかり三幕構成になっています。残念ながらPS4を持っておらずプレイはしておらずyoutube動画で見ました(その動画は最下部に)。ゲームは選択肢によってストーリーが変化して、すべてのルートを把握している訳ではないので、あくまで下記の動画をベースに語りますが一部、他で見た分岐についても触れます。アクト3に関してはラストがテーマを決める部分であり(ログラインを考える)、選択がゲームの楽しみ方だとも思うのでイベントのみを拾っています。
三幕構成がゲームのストーリーにも応用できることを検証するのに参考になると思います。また、三人の主人公がいるため群像劇におけるビートの組み立て方としても参考になります。
●ログライン
主人公A:コナー
警察の捜査のための最新型アンドロイド。人間の相棒アンダーソン警部補とともに変異体のアンドロイドの事件を捜査していく。映画でいう「探偵プロット」のバディ型です。
主人公B:マーカス
画家である主人に仕える手伝い(介護?)アンドロイドが、自由を求めて戦っていくストーリー。映画では「革命プロット」の型です。このプロットは実在の人物の伝記に基づくことが多く厳密なセオリーはありません。
主人公C:カーラ
メイド型のアンドロイド。ヤク中の父親からDVを受けている少女アリスとともに、自由を求めて逃亡していく。映画でいう「逃亡プロット」の型です。
●第一幕(アクト1) ※()内はゲーム上のチャプター
「オープニングイメージ」と「ジャンルのセットアップ」
○2038年の進化したデトロイトの街並みやアンドロイドが生活に定着している反面、仕事を失った人間など反発している人間も多くいるといった世界観を見せることなどがセットアップにあたります。ゲームなので操作中に発見できるアイテムなどでも補完されています。
「主人公のセットアップ」
Aコナー:(1.「人質」)変異体というアンドロイドの異常行動による事件を解決することで、コナーの仕事とこれから追っていく事件をセットアップ。ティーザー(最初のシーンで観客の気持ちをつかむシーン)の役割もしている。
Bマーカス:(2.「色あふれる世界」、4.「画家」)画家である主人に忠実に使えている。「いずれ自由になる」と言われる。
Cカーラ:(3.「新たな我が家」)家事手伝いロボットであること。主人の父親はヤク中であり、娘のアリスに暴力をしかねないこと。
○群像劇のポイントの一つとして、主人公が複数いることによって多面的にストーリーを展開できる反面、一人一人の主人公を描く時間が減るという欠点があります。ゲームでは映画のような時間制限がないのでこの点は問題になりません。
また主人公が増えたときにテーマ的なつながりが弱い場合、群像劇ではなく寄せ集めの短篇のような印象を与えてしまいますが、このゲームでは主人公が3人ともアンドロイドであり、世界観やテーマとの関連もはっきりしています。
「カタリスト」→「ディベート」→「デス」→「プロットポイント1」
Aコナー:(5.「相棒」、8.「尋問」、11.「ハンク」)事件捜査のために人間の相棒マーカスとコンビを組む「カタリスト」。変異体のアンドロイドを尋問する「ディベート」。映画であれば尋問されたアンドロイドは「自己破壊」する「デス」が入るはず(※ゲームでは選択肢次第)。警察署のオフィスを訪れてハンクと再びコンビを組む「プロットポイント」を経て、次の捜査へ。
Bマーカス:(7.「失意」、10.「死の淵」)金をせびりにきた主人の息子の登場が「カタリスト」。その後、揉み合いになり「手を出すな」という命令に逆らい、警察に撃たれる「デス」で終わる。その後、廃棄場から脱出して自由を求める「旅」が始まる。
Cカーラ:(6.「夜のあらし」)娘のアリスを父親の暴力から守るため「動くな」という命令に逆らい助けようとする。殺されかけるのは「デス」。その後、アリスをつれて家の門「プロットポイント」を出て、旅が始まる。
○Aは事件を捜査する探偵プロットですが、相棒がいるバディの要素も入っています。バディものには正反対の二人が衝突しながら旅をするロードムービーのようなタイプと、口ではケンカをしたりしがらも信頼し合っている実は仲の良いタイプがあります。Aのコナーとアンダーソン警部補の関係は前者です。「事件捜査」をメインに置きながら、進むにつれて二人の関係が深まっていきます。ゲーム中の選択肢によっては二人が対立する展開もあるようです。Cのカーラと少女アリスの関係は仲の良いバディ関係です。二人の逃亡だけがメインの映画だとすると葛藤が弱くなりますが、ゲームでは逃亡するプレイ自体が葛藤になるので問題になりません。またBとCのストーリーではデスからアクト2へ入っていく展開が似ています。これは群像劇を書くときに気をつけるべき点にもなります。主人公が二人以上いると同じビートを叩く必要があり、似たようなシーンが入れなければならない時があります。テーマに対比があれば似ていることに意味がでますが、繰り返しに感じられてしまうことがあります。映画であれば工夫が必要なポイントです。
●第二幕(アクト2)
「バトル」→「ピンチ1」
Aコナー:(14.「鳥の巣」、17.「ロシアンルーレット」、19.「エデンクラブ」)捜査を続けるコナーとアンダーソン警部補。捜査中にアンダーソンの命を救い信頼を得る。家を尋ねた時にアンダーソンの過去や自殺願望に触れるのがサブプロットとしての「ピンチ1」。
Bマーカス: (13.「ジェリコ」、15.「決断の時」、18.「命をつなぐもの」)自由の地ジェリコに到着し、マーカスがリーダーとなっていく「バトル」が続く。新たなメンバーとの出会いが「ピンチ1」。
Cカーラ:(9.「あてどなく」、12.「逃亡」、16.「ズラトコ」)カーラと少女アリスは暖かい宿を求めて街を彷徨い歩き、警察からも逃亡という「バトル」を経て、ズラトコという男の元を訪れるが、その男はサイコ。助けてくれたルーサーという黒人アンドロイドが同行するようになるのは「ピンチ1」。
○Aの探偵プロットは捜査を進めながら、アンダーソン警部補の過去というサブプロットが展開される。探偵プロットでは捜査がメインプロット、家族などのプライベートな事情がサブプロットになることが多い。Bの革命プロットでは、新たな仲間とともに自由を求めて活動始めていく。仲間のノースとはゲーム中の選択肢によっては恋人に発展するのはサブプロットの典型。Cの逃亡プロットでは逃げながら安息の地を探していく。どれもセオリー通りの展開です。
「ミッドポイント」
Aコナー:(21.「ブリッジ」)アンダーソン警部補は愛し合うアンドロイドを目にして、迷いを生じる。コナーに銃を向ける。
Bマーカス:(22.「ストラトフォードタワー」)アンドロイドの権利をテレビ放送する。
Cカーラ:(20.「海賊の入り江」)閉園した遊園地で、アンドロイドに見守れてメリーゴーランドに乗る少女アリス。カーラが初めて見たという少女の笑顔。
○Aのストーリーではバディであるアンダーソン警部補に変化が見られます。バディプロットではケンカをしながらお互いを認めるうちに相手を認めるようになっていきます。アンドロイド嫌いだったアンダーソン警部補がコナーに人間味を感じはじめます。映画であれば、ここでアンドロイド嫌いになった過去を告白したりします。心を開いた証拠です。このゲームでは過去についてはアクト3で明かされるため雰囲気だけの語りシーンになっています。アンダーソン警部補の変化とコナー自身が自分も変異体ではないかという迷いが「宝物」にあたり、今後の展開のキーとなっていきます。Bのマーカスは存在を世界に示すことでアンドロイドの英雄として名声を得ます。もちろんFalse victoryですが、わかりやすい「宝物」です。この宣誓はゲーム全体のミッドポイントにもなっていて、これ以降の状況が一変します。今後はリーダーとしての決断を迫られていくことになります。Cのミッドポイントは逃亡の中の一息というかんじですが、ミッドポイントでは特別な場所へ移動するというパターンもよくあり、遊園地という場所がそれにあたります。初めてのアリスの笑顔というのはカーラにとっての「宝物」です。この少女の幸せを守るためカナダへの国境越えという次のステージへ向かっていきます。いずれのストーリーでも「旅」の折り返しが始まるのです。
「フォール」→「ディフィート or ピンチ2」→「オールイズロスト or プロットポイント2」
Aコナー:(23.「天敵」(26.「カムスキー」28.「最後の切り札」)。アンドロイドの生みの親ともいえるカムスキーに会いにいくと、そこにはアマンダと写っている写真がある。しかも彼女はすでに死亡している(=それまでに出てきたアマンダはアンドロイドだとわかる)。探偵プロットでは「フォール」で犯人が顔出しをするセオリーに合致。FBIが引き継ぐため捜査は終わりという探偵プロットの定番の「オールイズロスト」。
Bマーカス:(25.「キャピタルパーク」27.「自由への行進」29.「交わる運命」)マーカスは平和的に戦おうとするが仲間が人間の警察に撃たれてしまい「フォール」の開始。平和志向だけではうまくいかない。また仲間のノースの過去が明かされキスをするのは「ピンチ2」、街頭でのデモでは仲間と自分が撃たれる「ディフィート」、さらにジェリコが襲撃を受けて一気に壊滅に追い込まれる「オールイズロスト」。
Cカーラ:(24.「夜行列車」29.「交わる運命」)逃亡という下降アーク(マイナス方向)に進んできた二人はミッドポイントのメリーゴーランド以降、上昇に転じるので、カナダへの国境越えを手伝っているローズの家では暖かく迎え入れられる「ピンチ2」。
○群像劇のようにプロットが複数あるストーリーではミッドポイントで交差が始まります。AのコナーがBのマーカスの事件を捜査するところがそれにあたります。マーカスの仲間のノースが、コナーが捜査していた風俗店にいた過去も明かされます。Bのアンドロイドの自由への行進は、キング牧師のワシントン大行進のオマージュだと思われますが、革命プロットは歴史上の人物を描くときに使われる型なので、その人物の有名な事件がアクト2に置かれることが多くあります。アクト3ではその人物の最期が展開されます。革命プロットのシーンにセオリーはありませんが、構成としては型通りです。Cのカーラはピンチ2としてローズの家につきますが、これはピンチ1でズラトコの家を訪れたのと対比になっています。ここではローズの協力を得るのは新しい仲間ととらえることもできます。少女アリスが実はアンドロイドであったという情報がややディフィートかオールイズロストに見えますが、それによって旅が終わるほどのエピソードではないのでビートとしては機能していません。もし、オールイズロストを入れるとするならカーラが捕まるとか、アリスが保護されるなどして不本意に離ればなれになって旅が終わる状況が必要です。その後、二人は再会して一緒にカナダを目指すアクト3に入っていくなどが考えられますが、群像劇では他の主人公が叩いたビートは削っても良いので問題ありません。Aの捜査の打ち切り、Bの自由を求める活動がピンチになることは、それぞれ「旅の終わり」ですが、Cの旅は終わっていないのです。重要なビートが欠けているということは、Cのプロットはこの辺りからサブプロットにグレードダウンしているとも言えます。
●第三幕(アクト3)
「ターニングポイント2」→「ビッグバトル」→「ファイナルイメージ」
Aコナー:(29.「交わる運命」、31.「運命の分かれ道」)押収した証拠品からジェリコの位置を特定する「ターニングポイント2」。ここからマーカス(あるいは真の敵)と対峙する「ビッグバトル」=アクト3へと入っていきます。
Bマーカス:(29.「交わる運命」、30.「魂の夜」、31.「運命の分かれ道」)マーカスはダークナイトオブザソウルとして迷い、元の主人である画家に助言を求めにいき、決断する「ターニングポイント2」。最後の戦いはそのまま「ビッグバトル」。
Cカーラ:(29.「交わる運命」、31.「運命の分かれ道」)カーラと少女アリスが車で移動中はやや静かにオールイズロスト的に始まる。ジェリコ襲撃に巻き込まれつつもカナダへの国境越えをできるかどうかだけが「ビッグバトル」として進行する。
○アクト3は選択肢次第でまるきり別のストーリーになってしまうので「ビッグバトル」を示すにとどめます。とくにコナーは選択肢次第で敵にも味方にもなるようで、これはゲームならではです。バトルとビッグバトルにはテーマ的な関連がなくてはならないというポイントがありますが、選択肢次第ではかなり崩れます。一番のTRUEエンドにあたるらしい「全員生存ルート」が、ピタッとすべてがはまるストーリーになっていないのはもったいないような、物足りないような印象も受けました。やたらとアクションを入れて誤魔化しているようにも見えました。たとえば、カーラのCストーリーで全員生存するルートはドラマ的にはご都合に見えてしまい、別のルートのバッドエンドを何度かプレイした人のみが感動できるであろう展開に思えます。3本のメインストーリーを立てて置きながら、Cストーリーだけ失速してしまっているのは処理しきれていないともいえるかもしれません。少女アリスに人間とアンドロイドを繋ぐ別の役割を持たせる展開もつくれたはずです。そうでなければ群像劇として主人公にする意義が弱まります。
創り手が一つの答えとして明確なラストを示すことは、テーマを伝える意味でとても重要です。いろいろな選択肢があるというのはゲームのシステム上はよくても、ストーリー上では「あとはご想像にお任せします」と逃げているようにも見えてしまいます。ゲームと映画の違いといえば、それまでですが、最後に感動は足りなかったように思います。
分析に使用したyoutube動画
次回は『君の名前で僕を呼んで』を分析してみようと思っています。
分析にご興味がある方は、ぜひビート分析してみてください。
三幕構成の分析に基づく読書会も開催しています。興味のある方のご参加お待ちしております。
がっつり分析のリストはこちら
構成について初心者の方はこちら→初心者向けQ&A①「そもそも三幕構成って何?」
三幕構成の本についてはこちら→三幕構成の本を紹介(基本編)
キャラクター論についてはこちら→キャラクター分析1「アンパンマン」
文章表現についてはこちら→文章添削1「短文化」