映画『カイジ 人生逆転ゲーム』(三幕構成分析#65)

※この分析は「脚本講習」の参加者によるものです。

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【ログライン】

自堕落な生活を送るカイジ(藤原竜也)が遠藤(天海祐希)から多額の借金を請求され、借金をチャラにするギャンブルに挑むが、負けて地下施設で強制労働させられる。カイジは地下での搾取に耐えかね、賞金を懸けた鉄骨渡りに挑戦し成功するが、彼に人生の意味を教えたおっさん(光石研)から託された金券は無効だった。カイジは賞金を懸け、Eカードに挑戦し、一度は負けるも、土壇場の閃きと、遠藤からの借金で最後の勝負に挑み勝利し、元の生活に戻る。カイジは他人のために行動する人間に変わっていた。

【ビートシート】


Image1「オープニングイメージ」:「雷雨のスターサイドホテル」雷雨の都会で、ひときわ高くそびえ立つスターサイドホテル。その最上階で兵頭会長(佐藤慶)が社員に強者の条件とは何かを問う。遠藤が金だと答えるが、違う。その使い方だという。核シェルター、地下王国を作ることだと。利根川(香川照之)がそのための労働力に希望に満ちた若者がうようよいると答える。

CC「主人公のセットアップ」:「スクラッチは外れ、僅かな小銭」「適当な働き方」「恋人たちをうらやむ」「連帯保証人」宝くじ売り場でスクラッチを削るカイジ。ハズレた。金融のCMに目をやるが、まだ借金には手を出してはいない。しかし、それも時間の問題かもしれない。ポケットの僅かな小銭を見つめる。ところが、コンビニのアルバイトの働きぶりは適当だ。努力するつもりはないらしい。そんな彼も街中で恋人たちとすれ違えば、羨ましく見つめたりする。まだ人生の途中、チャンスさえあればと願っているが、ただ日々は過ぎていく。このまま死んでいくだけなのか。無気力、自堕落。彼は自分の毎日をこう思っている、「ゴミ」だと。彼が乗り越えるべき問題が提示される。しかし、一つだけ彼の憎めないところがある。さほど親しくもなかった同僚の連帯保証人になっていたのだ。なんというお人好しなのだ。そのために多額の負債を抱えてしまうことになるのだが。

Catalyst「カタリスト」:「エスポワール号の誘い、参加の決意」7分ほどたったところ。多額の借金をチャラにするため、遠藤からギャンブルクルーズ、エスポワール号乗船の誘いを受ける。「人生を変える」。遠藤に背中を押され、カイジは参加を決意する。これまでの自分の人生、ゴミの毎日を変えるために。たとえそれが権力者の罠であったとしても。

Debate「ディベート」:「エスポワール号での限定じゃんけん」10枚のじゃんけんカードというゲーム。このギャンブルシーンはこの映画の「お楽しみ」だ。さらに借金をさせられ、勝たなきゃゴミだとたきつけられる、高揚する参加者たちに違和感を覚えながら、カイジは船井(山本太郎)の勝ち筋の提案に勝利を確信する。しかし、喜びもつかの間、すべては船井の罠だった。窮地に立ったカイジだが土壇場の閃きで見事船井に勝つことが出来る。カイジは協力してくれたおっさん(光石研)にお礼を言う。「ありがとう、俺を信じてくれて」。おっさんはカイジの勝負師としての能力を知る「インサイダー」キャラクターになる。そしてカイジに人生の意味を教えてくれる、信頼について、自らを顧みずに他人のために行動することについて、この2人の関係がBストーリーとなる。
「ジャンルのセットアップ」「ギャンブル頭脳戦」)

Death「デス」:「カードがまだ1枚残っていた!」勝利に喜ぶカイジと石田だが、石田がカードはまだ1枚残っていることに気づく。ゲームはタイムアップになる。

PP1「プロットポイント1(PP1)」:「落ちた小銭を拾う、地下で強制労働するカイジ」32分たったところ。冒頭でカイジが利用していた宝くじ売り場で客が落とした小銭が地下深くに落ちていく。それを拾ったのは強制労働するカイジだった。彼は石田を見捨て、ゲームに勝利することが出来たが、それは彼の良心が許さなかった。そのために彼は負けた。地下の強制労働施設という「逆転した世界」に入ったカイジは肩には奴隷の焼印がされ、その下に監視のためのマイクロチップが埋め込まれている。ここで彼は勝負師としての能力を発揮して、持ち前の人を信じ、いつか出られることを信じている。

Battle「バトル」:「ビールは悪魔的なうまさ」地下の強制労働の日当は3500円、手取り350円。有り得ない薄給だった。地下から出るため、人生を変えるため、貯金する決意を固めたカイジだが、ハンチョウ(松尾スズキ)らに言いくるめられ、ビールやつまみに手を出してしまい、翌日後悔する。

Pinch1「ピンチ1」:「ハンチョウの搾取」崩落事故で負傷したおっさんを医務室で介抱するカイジ。そこで出会ったのは強制労働のため肺病を患った佐原(松山ケンイチ)だった。そこで明かされたのは言葉巧みに班員に金を使わせていたハンチョウの搾取だった。挙句、ハンチョウは給料の前貸しでピンハネしようとする。耐えかねたカイジはついに反抗、地下の強制労働に愛想をつかし、多額の借金を背負った者が行くブレイブメンロードに挑戦することを決意する。

MP「ミッドポイント」:「ブレイブメンロードに成功」ブレイブメンロードとはスターサイドホテルのツインタワーに架かる鉄骨渡り。落ちれば即死の狂気の見世物だった。恐怖で落下していく挑戦者たちにカイジも負けそうになるが、70分たったところで、AとBのストーリーが交差し、おっさんによるカイジと娘のための最期の行動に励まされ、「まやかしの勝利」を得て、見事成功するのだった。

Fall start「フォール」:「死んだ者のチケットは無効」おっさんが娘のためにとカイジに託した金券は死んだ者のチケットとして無効だった。納得のいかないカイジ。兵頭会長のEカードの誘いに乗る。

Pinch2「ピンチ2」:「担保はお前の身体」あくまで2000万円を狙うカイジは不利な奴隷側で賭ける。しかし、あっさり負けてしまうカイジ。残金は5万円。つまらない勝負に怒る兵頭会長はカイジに130年の強制労働を担保に39万円を貸し付ける。

PP2(AisL)「プロットポイント2」:「Eカードに負け、地下に連行されるカイジ」91分たったところで、カイジはやはり利根川に負けてしまい、地下戻りとなる。

DN「ダーク・ナイト・オブ・ザ・ソウル」:「マイクロチップに気づき泣くカイジ」地下へ連行されていくカイジ。なぜ利根川に負けたのか、違和感にゲームの様子を振り返る。そして、遠藤に触れられた肩の焼印で気づく。肩に埋め込まれていたマイクロチップで監視されていたのだ。どうあっても勝てないように仕組まれていたことに気づいたカイジは絶望し泣く。

BBビッグバトル:「Eカードの再挑戦」土壇場で限定じゃんけんを思い出し、閃くカイジ。AとBのストーリーが交差し遠藤に地下でのビールの約束をし、信頼を得て借金する。兵頭会長が勝負を承諾して、ふたたびEカードが始まる。限定じゃんけんのトリックを使って、優秀な男のおごりを利用したカイジは見事にゲームに勝利する。利根川は地下で永遠の労働を言い渡され、カイジは賞金5億円を得る。

image2「ファイナルイメージ」:「雑踏を行くカイジ」
賞金のほとんどを遠藤に利子として持っていかれてしまったカイジだが、残った残金はおっさんの娘に渡し、帝愛のCMが流れる街の人ごみに消えていく。元の生活に戻ったカイジだが、人生の勝者とは何かをつかみ、他人のために行動する人間に変わっていた。

【感想】

藤原竜也、香川照之ら役者の演技が素晴らしい。原作漫画のキャラクターの誇張された演技を映画のキャラクターとして魅力的に表現している。またそれが格差社会の有り様や人情について共感を得られる表現になっている。

プロットは「お楽しみ」である頭脳戦、勝ち組負け組のテーマの伏線がしっかり絡んで、張り巡らせられていて楽しめる。

(川尻佳司、2022.9.22.)

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