映画『エール!』(三幕構成分析#77)

※この分析は「脚本講習」の参加者によるものです。

※この作品は次回の「分析会」でとりあげる作品です。

※あらすじはリンク先でご覧下さい。
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【ログライン】

農場を営むベリエ家はポーラ以外の3人が聾唖者。
日々家業を手伝うポーラが、片想い相手の影響でコーラスに出会い、そこで才能を認められる。
一度は家の事を思い、諦めるが、家族の理解を得て歌の世界へと飛び立つ。

【ビートシート】


Image1「オープニングイメージ」:「子牛が生まれる」
早朝、牛舎に獣医・父親・ポーラ・牛の親子。
父親は生まれたばかりの子牛の世話をしながらポーラと獣医の様子を見ている。
→まだ日も出ていない時間にポーラが獣医と話をしている。
耳が不自由な父親のために父親の耳となり口となっている。
家業や家族のために動いているのがわかる場面。

CC「主人公のセットアップ」:「居眠り」
早朝には牛の出産・登校時には家業の電話。
睡眠不足のため、スペイン語の授業で居眠りしてしまう。
→ポーラは外の世界と家族を結ぶ懸け橋であり、多忙。
この後親友マチルドに「家族を交換して」と愚痴をいうぐらいには疲れている状態。

「ジャンルのセットアップ」
家での生活音が大きく、会話も手話。家で声を出すのはポーラのみ。
→聾唖者家族の中に生まれた健常者の話。

Catalyst「カタリスト」:「選択授業:コーラス」
片想い相手のガブリエルが選択授業をコーラスにした為、コーラスを選ぶ。
→この時点で歌への興味は全くなく、不純な動機で授業を選んだ。

Debate「ディベート」:「選抜試験に受かる」
一緒にコーラス選抜試験を受けるマチルドは一節も歌わずに失格。
トマソンに対し、「くだらない」と啖呵を切ったが、その声でポーラはアルトとして合格する。
→親友に対しひどい扱いをした教師に食って掛かった結果、合格。
マチルドとは逆に一節も歌わずに合格という、興味のない分野に取り込まれる瞬間。

Death「デス」:「高音域の声が出る」
歌唱方法の指導をされる。立ち方・腹式呼吸・発声練習。
その途中で非常に高い声が出て、驚き、その場から逃げる。トマソンはいい声だと褒める。
→未知の自分に驚く。高揚感がある。
逃げた先(トイレ)で最初少し微笑んでいたりするところから、歌うことへの魅力に気付いたように思える。歌の世界に魅せられて、踏み入れるしかなくなる。
PP1「プロットポイント1(PP1)」:「デュオが決まる」
ソプラノパートに移され、何かが目覚めつつあるとガブリエルとのデュオを提案される。
ガブリエルは快諾。
→片想い相手が快諾してくれたこともあり、歌うことを決める。歌の世界へ。

Battle「バトル」:「家族」
B1:練習している時にきた初潮をデュオ相手のガブリエルにバラされる(敗北)
B2:練習にいきたいのに父の選挙インタビューのために時間を取られて、トマソンに怒られる(敗北)
B3:コンサートに呼ぶが、他の観客と少しズレている(結果的に勝利)
→常に家族が足かせになり、うまく立ち回れない。ぶつかる。
B2までは家族に歌の事を話せていない状態で、B3は話した後。
コンサートを通して、ようやく勝利=理解を得られる。

Pinch1「ピンチ1」:「選挙活動1」
現町長との会話・仲間との作戦会議。
→ポーラが常に訳している。作戦会議では全員から応援される。

MP「ミッドポイント」:「歌いたい」
練習に行けず、事情を知らない母親は謝罪を求めてくる。
ようやくポーラは歌をやりたいと告白し、自分の心を吐露する。
→家族に黙っていた自分の気持ちを告白する。
家族を見捨てることにならないかと悩みながらも答えを見つけたと明確にわかる。
自分が抜けることによってできる穴の心配もしている→のちにマチルドに手話を教えるところに繋がる。

Fall start「フォール」:「マチルドの手話通訳がうまくいかなかった」
市場でマチルドがうまく手話が訳せなかったと母親に言われる。
母親はストレス性の湿疹が出ている。
なのにマチルドはカンタンと楽しそうにしていて、思わず八つ当たりをしてしまう。
→自分が抜ける穴が埋まらない。家族から離れられない。親友にも皮肉を言う。

Pinch2「ピンチ2」:「選挙活動2」
選挙の講演会。
→ポーラ不在。ロニシューが訳す。失敗に終わる。

PP2(AisL)「プロットポイント2」:「母親の訴え」
ポーラが生まれた時の喜び・不安を話し、育て方が間違っていたと責められる。
家族が聞こえないのに歌う。次は牛乳アレルギーにでもなって逃げていくのか。
→ポーラと母親の気持ちが噛み合わず、歌うことを拒否される。

DN「ダーク・ナイト・オブ・ザ・ソウル」:「歌をやめる」
トマソンに歌をやめることを伝える。
その後農場を手伝っていると、母親が美容院を提案してくる。
→トマソンとのやりとりから、納得できていないままやめるという結論を出しているのがわかる。
トマソンも事情を知らないままに、納得できていないことを見抜いている。
歌を諦めるだけで母親の機嫌がよくなる。

BBビッグバトル:「手話」
試験で家族と目が合う。手話で歌詞を伝えながら歌う。
→未だ納得できていない母親に、歌詞が刺さるシーン。
大きく構えていた父親にも、受け入れてくれていた弟にも、伝わり3人は手を重ねる。
家族が感動した上で認めてくれる(大勝利)

image2「ファイナルイメージ」:「家族に送り出される」
カンタンが荷物を運び、トマソンの車に乗り込む。
3人に見送られて車は動き出すが、ポーラは停車するよう言い、家族に向かって走る。
家族で熱い抱擁をし、ポーラはまた車のもとへと走り出す。
→心からの応援をされている。
家族との絆は更に深まり、自分の夢へと走り出している。

エピローグ:
写真→町長当選。結婚する教師カップル。ポーラとガブリエル・マチルド・カンタンは付き合い始める。

【感想】

障碍者が出てくるとどうしても湿っぽくて悲しい物語を想像してしまうのですが、予想を裏切る感動がありました。
家族は耳が聞こえなくても明るくオープンで、むしろ主人公のポーラが陰気に見えました。
その対比がポーラの悩みの輪郭を鮮明にしていた印象も。
心に残ったのは
・町長と話すときはマイルドに訳し、インタビューではいらだちに任せて雑に訳す。
・コンサートでは一番の見どころを無音。試験では手話を混ぜて家族に伝える。
このあたりはポーラの人柄と聾唖者の世界をうまく表していて好きです。
消化不良なのは、歌をやめると言いつつ、なぜ歌が聞こえない家族をコンサートに呼んだのか。
たとえば
・コンサートに来てほしいとお願いするシーン→自分が頑張ってきたことだからと伝える場面があれば、父親が心動かされて結果応援してくれるようになる。
・母親の湿疹が強く出てる演出→歌うのが許せないのが表すことができる
このどちらかがあればわかりやすいかな?と思いました。
※こういう子供の選択授業の行事には大体の家族が顔を出すという文化だとしたら、私の理解不足な部分にもなってしまうのですが……

ビートではカタリスト・ディベートを悩みました。
「歌に出会い・歌をやりたいと思い・諦めることも考えるが・歌の世界へ飛び立つ」と考えた時に、
カタリスト:歌との出会いの発端(事件)=選択授業で興味もないコーラスを選ぶ
ディベート:歌わずにアルトに合格
デス:歌唱指導で高い声が出る=未知の自分に遭遇
PP1:歌の世界へと入っていく
と最終的には定めたのですが、歌わずアルトに合格を最初の事件として、
カタリスト:歌わずにアルトに合格
ディベート:ソプラノへ移動・ガブリエルとデュオ決まる
デス:練習中に初潮を迎える=歌に自信がないままデュオ相手に嫌われる
PP1:黄金の声と言われて試験を受けるように言われる=認められて新しい世界へ
もアリな取り方では?と。

あと、ビート表に起こすと町長選挙・家族の絆・学校生活・歌・恋愛とみっちり詰まっていたことに気付きました。
家族の絆と歌以外はわりと雑な処理されているのかも?とあとから思いましたが、鑑賞中は全く気にならなかったです。
(雨森れに、2022.10.18)

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『映画『エール!』(三幕構成分析#77)』へのコメント

  1. 名前:川尻佳司 投稿日:2022/10/20(木) 22:48:51 ID:7ae8f5d4e 返信

    ご指摘の通り、障がい者の家族がコメディー調に明るく描かれて、主人公と対比されているのは面白いですね。
    合唱コンサートに家族が呼ばれるところはPP2が激しく終わるだけにちょっと違和感になってしまうのかもしれませんね。ご指摘のように、もう少し軟着陸するような形で自然に運ぶシーンも入れるといいのかもしれないですね。コーダの方はもう少し自主的な形で試験を後回しにするようになっていたので本人がコンサートに出ると決めるシーンもなかったです。それに比べると主人公の判断を後押しする恋人の存在があったりと「エール」の方が恋人の役割がしっかりと描かれていると感じました。

    カタリストとディベートについては「コーダ」同様デュオに入る前のところだと私も思います。

    Catalyst:6分「コーラスを選択」人前で歌うところにコーダとしての悩みは描かれず、あまり興味がないものとして葛藤がはじまります

    Debate:13分~「選抜試験」「恋敵カレーヌ」

    Death:22分「高音が出る」

    PP1:25分「デュオを任される」第二幕はトマソン先生やガブリエルと音楽の道に入ります

    Battle:32分~「ガブリエルとの練習、生理の暴露」「試験についてマチルドと相談」音楽と恋愛やコーダの葛藤です、これをきっかけにガブリエルとは離れますがピンチ1をつくり、そのあとマチルドとの相談を経るなどして、コーダとしての葛藤があります

    Pinch1:39分「黄金の歌声」歌声が増し、MPにつながります

    MP:46分「歌の練習」コーダとしての葛藤を越えて国営ラジオへの挑戦がはじまります

    Fall start:54分「テレビ取材日程変更」危険度アップです。これでレッスンも止まり、両親からパリ行きを反対されます。

    Pinch2:59分「歌の練習」この練習の代わりにマチルドの通訳がうまくいかないのと、ガブリエルとの仲直りがあってPP2に向かいます

    PP2(AisL):73分「トマソンに試験をやめるという」

    DN:73分~「トマソンとの話」「牧場で母と話」「ガブリエルたちと話」「合唱コンサート」「父への歌」

    BB(TP2):88分~「父親の決意」「試験」

    「コーダ」と比較すると恋人のガブリエルが歌への動機をつくるBストーリーとしてより明確な代わりにコーダとしての悩みが抑えめだという感じがします。「コーダ」は恋人の役割を抑え、また弟を兄して自立に肯定的なところなど、コーダのテーマをより強調したのだと感じました。

  2. 名前:緋片 イルカ 投稿日:2022/10/29(土) 00:45:12 ID:59850deac 返信

    雨森さん、川尻さん、コメントありがとうございます。

    「PP1」=「デュオが決まる」は全員一致していますね。僕も同感です。

    PP1から「旅」「非日常」の始まりと考えると、PP2は旅の終わりと考えてみてください。

    「歌うこと」の旅が始まるので、川尻さんがご指摘の「試験をやめると言う」ところが終わりと捉えられます。

    旅の途中で「デュオ」が「歌の試験」に変更していますが「歌うこと」なので同じです。物語上、アクト3があるので、本当の意味で「終わり」ではないですが、PP2というのはいったん終わったように見える地点です。

    雨森さんはMPが苦手そうな様子を感じますが、まずは「PP1」「PP2」が定まると、その「中間地点」「折返し地点」といった捉え方ができるようになってくると思います。

    ログラインは以前よりとても良くなったと感じました。

    極めて、短く物語の中心をだけをとるなら、以下の赤字部分だけつなげればOKです。

    農場を営むベリエ家はポーラ以外の3人が聾唖者。
    日々家業を手伝うポーラが、片想い相手の影響でコーラスに出会い、そこで才能を認められる。
    一度は家の事を思い、諦めるが、家族の理解を得て歌の世界へと飛び立つ

    ポーラが、
    コーラスに出会い、
    歌の世界へと旅立つ。

    これを軸に、重要な設定(作品のフック)を付け足していくと良いです。(まあ、ビート分析している場合は、これぐらいのログラインでも構わなかったりします)

    家族が聾唖者で農場を手伝わざるを得ないポーラが、
    コーラスに出会い、才能を認められていき
    家族の理解を得て歌の世界へと飛び立つ。

    ポーラに付ける形容詞と、アクト3での「家族の理解を得る」が変化の前後になるようになると、よりログラインらしくなります。
    プロットポイントの話と関連しますが、真ん中の行「コーラスに出会い」が「カタリスト~PP1」あたりの文章だとすると、「才能を認められていき」が「PP1~MP」あたりの文章になるはずです。
    「才能を認められていく」過程と一緒に、「自分のやりたいことを見つけていく」過程も出来れば拾って入れたいところです。

  3. 名前:緋片 イルカ 投稿日:2022/10/29(土) 00:57:48 ID:59850deac 返信

    川尻さんへ:

    『コーダ』でのコメント同様、今回の分析会では「イメージ」をテーマにしたいので『エール』でのイメージについて伺わせていただく予定です。
    ビートに関しては、ピンチの定義がやや怪しいかなという印象を受けましたが、大きな問題ではないです(PPなどしっかりつかめています)