映画『樹海村』(三幕構成分析#85)

※この分析は「脚本講習」の参加者によるものです。

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【ログライン】

元カレの輝(神尾楓珠)を諦められず、霊感を持つ妹の響(山田杏奈)を理解できずに疎んじる姉の鳴(山口まゆ)は、樹海村の呪いの箱の出現によって、響と共に亡母の記憶を辿りながら、呪いを祓おうとして、解除方法を知るが、周囲の者が次々と呪い殺されてしまい、かつて呪いから助けてくれた母と響を守る約束を思い出し、成仏できない亡者たちの呪いから逃れて真二郎(倉悠貴)と結婚する。

【ビートシート】


Image1「オープニングイメージ」:「樹海で助けられた幼い姉妹」青木ヶ原樹海。一台の車が走っている。樹海監視員の出口(國村隼)と助手の中田(山下リオ)がパトロールしているのだ。「人間いつどうなるかわからない」死の空気が立ち込める中、突然道路に二人の幼い姉妹が飛び出す。出口が慌ててブレーキを踏む。ひどく怯えて逃げ出す姉妹を保護する。

CC「主人公のセットアップ」:「輝の引越し手伝い」オカルト動画配信で樹海に踏み入った配信者が何者かの気配の後に倒れて配信が切れてしまう。それを見ていた響は母の琴音(安達祐実)にとがめられる。そして、元カレの輝に未練がある鳴は結婚祝いを兼ねた彼の新居引越しの手伝いをするが、霊感のある響を理解できず、きつく当たってしまう。鳴は元カレへの未練を絶って、響を理解することで自分を救うことが出来る。
「ジャンルのセットアップ」「樹海村の呪いによるホラー」)

Catalyst「カタリスト」:「呪いの箱を発見」輝の引越しの手伝いをしていると、響がじっと床下を見つめている。輝と妻の美優(工藤遥)が調べてみると風呂敷に包まれた黒く傷んだ木箱を発見する。美優が箱に触れようとすると、響が「ダメッ!」と叫ぶ。

Debate「ディベート」:「コトリバコの怪談」「不動産業者が跳ねられる」「呪いの箱についての動画」「アキナについての事情聴取」本当に呪いの箱なのだろうか?真二郎がネットでコトリバコの怪談を発見する。直後、箱を処分しようとした不動産業者がトラックに撥ねられてしまう。その後、響きが箱についての動画を見ていると、また琴音に止められる。配信者アキナが失踪したことで警察がリスナーに事情聴取に来た。箱と樹海とはどんな関係があるのだろうか?

Death「デス」:「美優が流産」響がアキナのリスナー達とネット通話をしていると突然ノイズが入り、様々な樹海の自殺者の画像や梢の音がする、そして、赤ん坊の手が彼女の肩に置かれて、声がする。響は美優の身に何かあったと察して鳴に告げる。美優は引っ越しでケガをして病院にいた。響が赤ちゃんと言うと輝が泣きだす。赤ん坊のことはまだ誰にも言っていなかったはずだった。

PP1「プロットポイント1(PP1)」:「良道のお祓い」鳴たちは「暗黒の世界」に入った。真二郎の父親で住職の良道(高橋和也)が鳴たちと呪いの箱をお祓いすることになる。

Battle「バトル」:「良道のお祓い」「リスナー達の樹海探検」「寺の焼失」良道が読経し、お祓いするのを響が見ていると、突然数珠が切れ、亡者の呻き声はやまない、しかし、鳴が響に声をかけると何もなかったかのように境内は静まり返った。その後、響はアキナのリスナー達と樹海探検に行く。しかし、響が樹木に腕を掴まれて逃げ帰ってしまうと、部屋でおぞましい呪いの箱の悪夢を見る。この呪いとの戦いや探求のホラーがこの映画の「お楽しみ」でもある。夜中、鳴が気付くと真二郎の家の寺が燃えている。

Pinch1「ピンチ1」:「寺を燃やしたのは響」真二郎のいる病室に警察が来る。そこで見せられたのは現場にあったという焼け焦げた鳴のライターと響が境内で呪いの箱に火をつける寺の監視カメラの映像だった。医療観察のために入院する響。鳴は美優や真二郎の母・弓子(黒沢あすか)から絶縁され、家に帰ると、家の周囲は悪戯でひどく荒らされていて、中では祖母の唯子(原日出子)が霊感のある響や琴音のことを理解できなかったことを後悔している。鳴は母が勝手に自殺して子供を道連れにしようとしたのだと慰める。

MP「ミッドポイント」:「呪いを解く方法」面会で響は鳴に謝る。そして、箱が置かれた家は絶えると話し始める。ただある女の人が箱を樹海に戻して子どもを助けたのだと。鳴が誰から聞いたのかと問うと響が母から聞いたと答え、ABストーリーが交差する。しかし、鳴はまだ信じきれない様子だ。

Fall start「フォール」:「唯子の死」響は病室で梢の影でうなされている。そして、祖母の唯子が仏壇に手を合わせていると、突然倒れ、鳴が見ると死んでいる。「危険度アップ」だ。一方、美優が赤ん坊をあやしている様子が見えると、彼女が持っているのは呪いの箱だった。美優がそれに気づいた途端箱を放り出す。唯子の遺影の前で鳴が泣き崩れ眠ると、ABストーリーが交差して、幼い頃の鳴が呪いの箱を発見し琴子が止める夢を見る。鳴が目覚めると響の声で肩に手がのり、美優が危ないことを示唆する。美優と輝、真二郎がGPSを頼りに樹海へ行くと、美優の携帯は出口が持っていた。出口から樹海に集まった孤独な想いの行き先について聞く。

Pinch2「ピンチ2」:「響が火をつけた意味とは、祓えなかった」夜の樹海に阻まれ、引き返す途中、箱の意味について考える。響が箱に火をつけたのはなぜか、良道が最期に祓えなかったと言っていたのを思い出す。ミッドクォーター1と対だ。箱はまだどこかにある。響の精神科医と輝が謎の死を遂げる。そして、出口たちが樹海の木の中に埋め込まれている美優の遺体を発見する。

PP2(AisL)「プロットポイント2」:「真二郎が首を切る」二人の死に悲しむ間もなく、真二郎が自ら首を切って、病院に運ばれる。死には至らなかったが、これが「半人前」の死になる。

DN「ダーク・ナイト・オブ・ザ・ソウル」:「箱とは何か」出口が心配して鳴のもとを訪れる。そこで鳴は箱とは何かを訊く。箱は樹海で死にきれなかった者たちが作った村でできた、呪いの箱だ。そして、出口は昔救助した幼い姉妹の話を思い出す。その妹の目が印象的で、森で村を見たのではないかと話す。響のことだ。

BBビッグバトル:「呪いの箱を樹海村に戻す」鳴は響の部屋の絨毯の下に樹海村の地図を発見する。鳴は絵を手がかりに箱を樹海村に戻しに向かう。そこでアキナやリスナーと出会うが、彼らはすでに亡者達だった。樹海村にとらわれた鳴は樹海村の亡者となった輝と美優に薬指を切られそうになるが、琴音が代わりに自分の小指を切り落として、一緒に逃げる。途中、2人は穴に落下してしまい、そこでかつて琴音が鳴と響を逃がす代わりに穴に落ちていたことを思い出す。気づくと琴音は腐敗した遺体の姿となり、亡者達が鳴を襲う。そこに突然響が姿を現して、鳴と共に逃げる。もう後がなくなると、響は自分の薬指を落として鳴に逃げるよう言う。響は亡者に呑み込まれると、樹木となって成長し、地上に穴をあけ、鳴は光に照らされる。病室では響がこと切れている。

image2「ファイナルイメージ」:「樹海で助けられた姉」樹海の中でトラックの走行音に振り向く鳴。地上に出られたのだ。そこで、出口に発見される。しかし今回は妹の姿はない。

エピローグ:
幼い音々が何かを探している。洗濯物を干している母親の鳴、BBQをしている父親の真二郎の横を通り抜けて、音々は探し物を見つけたようだ。「ひびきちゃん」、音々の影にあの箱が。「来ちゃダメ」響の声がする。呪いからは逃げられないようだ。

【感想】

コロナ禍で撮られた映画。社会に虐げられた人々というテーマはタイムリーで良いし、各シーンに面白いと思う個所がある。箱のCGはとてもよく出来ている。
クライマックスはインディジョーンズのような屋台崩しになって、中盤までの日常に突如と現れる暴力的なホラーとちぐはぐな印象を受けてしまった。それはただアクションに変わったことだけでなく、鳴がなぜ記憶喪失だったのか、記憶を取り戻す過程、響が犠牲となる決意の過程、そのカタルシスが弱いところが、うまくクライマックスに入り込んでいけなかった理由だと思う。
罪悪感とそれが追い詰められて最後に解放に向かう過程をしっかり描かないと、せっかくコロナ禍とリンクしたテーマになってもうまく映画にならない。プロットにもう少し工夫の余地があったように思う。

(川尻佳司、2022/10/30)

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