映画『最強のふたり』(三幕構成分析#95)

※この分析は「脚本講習」の参加者によるものです。

※あらすじはリンク先でご覧下さい。
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【ログライン】

ドリス:失業保険目当てで面接を受けに来たが、試用期間を経て本採用になる。
芸術に触れることで視野が広がるが、家族のために辞め、問題解決後フィリップの元へ駆けつける。
フィリップ:障碍のある大富豪が気を使わないドリスの言動に感化され気楽に過ごすようになる。
ドリスの家庭環境を考え暇を与えるが、後任とうまくいかず、結果ドリスに助られる。

→住み込み介護を通してお互いの知らない世界に触れ、毎日を楽しく過ごす。
フィリップはドリスの為を思い離れることを決断するが、ドリスは問題を解決してからフィリップの為に動く。互いを思い合う本当の友情になる。

【ビートシート】

CC「主人公のセットアップ」:「失業保険」「車椅子」
「ジャンルのセットアップ」
ドリスは失業保険が欲しい。フィリップは介護者が欲しい。
→働き詰めの母親のために家を守りつつお金が入る状況が欲しい。
首以外動かない体を住み込み介護してくれる、自分に容赦ない人間を求めている。
2人のコア+want。

Catalyst「カタリスト」:「面接」
最後の不採用通知を貰うために興味のない介護者の面接を受ける。
→介護へのきっかけ

Debate「ディベート」:「家を追い出される」
母親の為に高価そうな置物(たまご)を盗んでくるが、喧嘩になり、家を追い出される。
スラム街の仲間とひとつの食べ物を分け合い、大麻を吸う。
→家の事を考えているのが伝わらず、悩む。逃避する。

Death「デス」:「試用期間」
好待遇な環境に揺れている中、働ける人間だと思うか?の煽りと試用期間。
→住むに困らず、試用期間も設けてくれるという状態。
介護という旅に出るしかない。

PP1「プロットポイント1(PP1)」:「自室に荷物」
まだ返事をしていないが、与えられた自室に荷物を置いてベッドに寝そべる。
フィリップの部屋に行き、マッサージを習う。
→言葉にはしていないが、荷物を置いて向かうことで試用期間(介護への旅)が始まる。

Battle「バトル」:「ドリスをよく思わない人達」
マガリー、イボンヌ、介護医師、友人、エリザはドリスのことをよく思っていない。
不躾、乱暴者、セクハラ、前科者、素行が悪い。
→毎回ドリスは気にも留めずマイペース。
フィリップも遠慮がないのがいいとしているが、周囲の不安は消えない。

Pinch1「ピンチ1」:「美術館」
フィリップに連れられて美術館にいく。
鼻血のような絵に高額な値がつくことに驚く。
→ドリスには衝撃的。
「唯一残せる足跡だから」という言葉の意味が理解できている描写はないが、このキッカケがなければ絵を描かないだろう。

MP「ミッドポイント」:「本採用」
試用期間が終わり、ついに本採用となる。
→使用試験から始まる介護の旅なので、本採用はMP。

Fall start「フォール」:「たまごがない」「弟の勾留」
本採用と同時にたまごの返却をお願いされる。
返そうとするが、ミナからたまごはなかったと告げられる。
弟は麻薬所持で勾留されていて、迎えに行く。
→たまごは死んだ妻からの贈り物。これを返さないわけにはいかないが、どこにもない。
悪いやつらと手を組んでいる弟が捕まって家の状況も芳しくない。

Pinch2「ピンチ2」:「絵を描く」
自分の気持ちのまま絵を描く。
→美術館の影響。気持ちの変化。

PP2(AisL)「プロットポイント2」:「もうやめよう」
ドリスの電話の内容が聞こえ、介護生活に終止符が打たれる。
→介護の旅終了。ふたりの関係が一旦終わる。AisL。

BBビッグバトル:「退去」
ドリスは退去し、2人は別々の道を進む。
ドリスは家庭の問題を着実に片づけ、フィリップはドリスがいた楽しさが恋しくなる。
→戦っているものは違うが、2人とも自分(と周囲)との戦いを始める。

image2「ファイナルイメージ」:「再会」
OPの続きに繋がり、2人は海辺へ。
そこには文通相手が招待されていて、裏でドリスがフィリップのために準備していたことだった。
→形は違うがお互いに思いやりを持ち、真の友情の終着点に。

エピローグ:
実際の人物の紹介。物語の続き、2人の未来をモノローグで。

【感想】

語彙力なくなるほどよかったです。
人が人とのふれあいで人間としての変化をしていく繊細さは、フランス映画特有のものでしょうか。
貧困・麻薬・障碍・セクシュアリティ・養子……などなど社会問題もしっかり絡んでいて、見ごたえがありました。
会話もテンポよくて「え?それ言っちゃう?」ぐらいなこともポンポン言うし、それでお互い大笑いしているのが何だか救われます。
細かいアイテムがしっかりショットに含まれていたり、パラグライダーやたまごの話とかもしっかり回収されていたように思います。
車の映し方ひとつにしても寄りと引きがあって、カメラワークも楽しめました。
ただ、サブだからとは思いますが、弟の麻薬売人の部分をもう少しセリフか映像で説明されたかった気もしました。様々な社会問題が含まれているだけに、30グラム・勾留・悪そうな車、これだけだと少し難しいかと。
いっそのこと麻薬部分無くして、暴れまわるとか万引きさせるとよかったかもしれません。

私のビートの取り方の問題かもしれませんが、アクト2が長い気がします。
誕生日会が入っているのでダレずに進む印象。誕生日会は私の中では2つ目のMPです。
アクト2を①試用期間→本採用、②介護→誕生会→退去、③介護→本採用→退去と候補があったのですが、①はMPが取れず、②MPが関係者と良好な関係を築く誕生日会になるのでキャラクターアーク、③ならばプロットとして筋が通っていると判断しました。
①でいけたらBBが2つで誕生日会・退去となるので、私が気付かないポイントがあったかもしれません。

面白く見た後でリメイクがあると知りました。
リメイクに縁があるみたいなので、また個人的に比較してみようと思います。

(雨森れに、2022/11/12)

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『映画『最強のふたり』(三幕構成分析#95)』へのコメント

  1. 名前:しぃみや 投稿日:2022/11/19(土) 19:09:22 ID:e9dc084c1 返信

     素人質問になるので恐縮なのですが、これ、主人公をフィリップとして取ったほうが良いと思うのですが、どうでしょうか?作中においてドリスは徹頭徹尾フラットな視点であり、内面と葛藤することもほとんど無いと感じました。しかし、フィリップは殻に閉じこもっている状態かつ待ち人であるところから、自分から電話をかけてデートを行おうとする&能動的に交流し始める(素の自分を見せるようになる)ので、キャラクターアークを考えるとフィリップの方が主人公らしいと思うのです。
     
     実際、フィリップのキャラクターアークを、PP1:仮雇用→MP:電話をかける(受動から能動へ変化)→PP2:パラグライダー(吹っ切れる)で取ると、かなりきれいになる上にビートシート的にも収まりが良いと思います。

     また、アクト2が長いことは私もそう感じましたが、その分アクト3が駆け足にならないのが不思議でした。けれど、よく考えればアクト3にあるドライブシーンをフックに持ってきているので問題ないのかもしれません。脳内で勝手にあのシーンだ、と補完されるので、短くても駆け足にはならないのではないでしょうか?ちょっとした伏線としても機能しますし(このシーンにつながるのかという衝撃が、フックのシーンを忘れた頃にやってくるから)。どうなのでしょう?

     分析も映画鑑賞も初心者なので頓珍漢なことを言っていたらすみません(o_ _)o

    • 名前:雨森れに 投稿日:2022/11/25(金) 14:02:14 ID:e7f0b3a61 返信

      しぃみやさん、初めまして!
      この度はコメントありがとうございます。
      そして川尻さん、同作品の分析ありがとうございます!
      反応するのが遅くなり、大変申し訳ございません。

      仰る通り、主人公をフィリップで取るのもわかりやすいと思います!
      ドリスの変化と比べると心情的に大きい変化がありますよね。
      川尻さんの言うように、互いに成長していくストーリーなのでどちらで取ったとしても納得いくものかとは思います。
      観客としてどちらに心揺らされるか。
      どちらが動いた時に物語が動くか。
      こう考えた時に私はドリスを選択しました。
      誕生日会のシーンなんて最高でしたし(笑)
      加えて、しぃみやさんと同じように、ドライブシーンもこう繋がるのかと唸りましたね。
      自然と笑みがこぼれる、いい映画だったと思います。

      しぃみやさんが主人公はフィリップでは?と思えたのは、この作品が『相棒愛』の『両手打ち』をしっかり描いているからかもしれませんね。
      なのでしぃみやさんの疑問を経て、作品の完成度に触れた気分です。
      ありがとうございます!

      私も分析がまだまだでこのような返信しかできないのですが、これからも一緒に分析できたら嬉しく思います。
      ぜひこれからもコメントしてくださいm(_ _)m
      ご興味あれば、ぜひ分析会もいらしてください!

  2. 名前:川尻佳司 投稿日:2022/11/20(日) 02:23:13 ID:d00f2df76 返信

    しぃみやさんはじめまして、川尻と申します。私も作品を見てみまして、感じたところがあったので横からですが、コメントします。
    主人公はキャラクターアークからドリス、フィリップどちらともとれるように思いました。ドリスは強盗の前科者で家族とうまくいっていません。彼はフィリップの介護を通して、この内面の問題とも葛藤することになります。
    ドリスがアクト1でのディベートを担っているのもあり、アクト2に入ってからも彼の視点が強めになっているかなとは感じました。
    つまり、この作品は「相棒愛」のストーリータイプで2人が成長する「両手打ち」だと思いました。
    ですので、作品を通したスリーポインツは雨森さんがとった点なのだと考えます。
    おっしゃる通り、アクト2が後半の二人それぞれのサブプロットや脇役たちのサブプロットが多いせいで長く、危険度アップのシーンが少なめで、ちょっとだれてしまうなと感じました。
    アクト3のドライブシーンはご指摘の通り、冒頭のシーンにつながるんだと意外でしたね。駆け足という感じもなくきれいにまとまったと思いました。

  3. 名前:しぃみや 投稿日:2022/11/20(日) 17:53:07 ID:6d71a6e23 返信

    なるほど、「相棒愛」のストーリータイプで2人が成長する「両手打ち」だという見方はありませんでした。かなり理解が進みました。ありがとうございます!