映画『ラストマイル』(三幕構成分析#249)

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※あらすじはリンク先でご覧下さい。

※分析の都合上、結末までの内容を含みますのでご注意ください。

【ログライン】

巨大配送センターのセンター長として赴任したエレナは、そこに勤める孔とともに連続爆破事件の真相を追いながら、自身のトラウマと向き合い、犯人に辿り着く。そして、会社に反旗を翻してエレナはクビになり、孔が新たなセンター長に任命される。
【フック/テーマ】
1ダースの爆弾・ブラックフライデー/長時間労働・うつ病

【ビートシート】

Image1「オープニングイメージ」:「孔は謎の文字を見つめている」
今後の伏線として、早速ロッカーに記された謎の文字『2.7m/s→0』『70kg』の文字を孔が見つめているシーンから始まる。
GenreSet「ジャンルのセットアップ」:「最初の爆発」
配送業者がとあるアパートに荷物を届けた直後、爆発が起きる。これにより、配送や爆発といったことがこの物語の核となることが示される。
Premise/CQ「プレミス」/「セントラル・クエスチョン」:「犯人は誰か。その目的は何か」

want「主人公のセットアップ」:「エレナと孔の出会い」
エレナが西武蔵野ロジスティクスセンターのセンター長として赴任。対照的な2人。相容れない様子。『時差ぼけ』『飛び降り禁止』などのエレナの言葉から、何か目的があると推察されるが、具体的なことは伏せられている。
Catalyst「カタリスト」:「オフィスで爆発」
最初の爆発よりさらに大規模、オフィスで爆発が起き、多数の人に被害が出る。
Debate「ディベート」:「デリフォンの回収に走る」
前2件の爆発がデリフォンに関係していると考え、エレナと孔はデリフォンを回収しようとセンター内を駆け回る。
Death「デス」:「爆弾は1ダースあるとわかる」
デリファスを模した偽のアカウント『DAILY FAUST』の投稿から、12個の爆弾が仕掛けられていることに、エレナと孔は気づく。
PP1「プロットポイント1(PP1)」:「エレナ、『山崎佑』の人事データを削除」
この『山崎佑』という人物が物語に大きく関わっていることが示唆される。
Battle「バトル」:「倉庫内の商品を証拠物として差し押さえ」「爆弾は12個ないかもしれない」

Pinch1/Sub1「ピンチ1」/「サブ1」:「なし/六郎、初登場」
病院に勤める六郎。デリファスから医療器具がまだ届いていない。
MP「ミッドポイント」:「エレナは誰かとリモート通話」
エレナとつながりのある“誰か”の存在が示される。そしてエレナの心のうちに潜む闇が垣間見える。
Fall start「フォール」:「エレナの正体判明&爆弾の被害」
孔に『山崎佑』の人事データを削除したことを問い詰められ、エレナは自身がアメリカ本社から来たと明かす。そしてその直後、エレナが買った商品に爆弾が仕掛けられており、スイッチを押してしまう。
Pinch2/Sub2「ピンチ2」/「サブ2」:「なし/六郎、メディカル便が届かない」
通常配送でけでなく、最優先であるはずのメディカル便も届かずてんやわんや。患者の身にも危険が迫る。
PP2(AisL)「プロットポイント2」:「エレナ、ある決意を固める」
エレナは羊急便の八木に現状を打破するために闘う決意と、その方法を告げる。
BB(TP2)「ビッグバトル(スタート)」:「エレナ、五十嵐と対峙する」
エレナは羊急便と結託して、ストライキを起こす。
Twist「ツイスト」:「爆弾は全部見つかったが…」「筧まりか(真犯人)は死んでいる」
デリフォンだけ、爆弾を事前に仕掛けることができない。つまり、最初の爆発は不良品を使ったことがわかり、その爆弾を使って犯人は死んだ。そしてまだ爆発していない爆弾が1個残っている。
Big Finish「ビッグフィニッシュ」:「佐野息子が身を挺して大爆発を回避」
爆弾が松本家にあると知ったエレナや佐野親子はそれぞれの方法で止めようとする。最終佐野息子の機転で、大爆発を回避。『日ノ本電機』のドラム式洗濯機の伏線が回収される。
Epilog「エピローグ」:「エレナ、本社のサラとリモート通話」
MPの通話相手はアメリカ本社のサラだとわかる。エレナはデリファスジャパンから解雇される。
Image2「ファイナルイメージ」:「孔、謎の文字を見つめている」
文字の意味を知った孔は冒頭と違い、どうするべきなのかと悩む。その孔の決断は明かされずに幕を閉じる。

【作品コンセプトや魅力】

 脚本家:野木亜紀子×監督:塚原あゆ子×プロデューサー:新井順子とTBSのヒット作を手掛けてきた黄金トリオによる満を持しての映画作品。『アンナチュラル』や『MIU404』と世界線を共有するシェアードユニバースムービー。おまけに主題歌は前記2作品でも担当した米津玄師。TBSの本気度がこれでもかと窺える最強の布陣。もはやお祭りムービーである。
 そこにブラックフライデーの裏側、長時間労働やうつ病と日本が抱える社会課題を内包させ、エンタメ作品として昇華させている。
 また、山崎佑や筧まりかを演じるキャストは公開当初伏せられており、PP1で山崎佑を演じるキャストが初めて明らかになった。それも相まってPP1は大きな盛り上がりを演出できていたように感じる。

【感想】

「好き」5「作品」4「脚本」4
 ACTひとつにつき、1日になる構成が取られていてわかりやすい。そして日付の変わり目、つまりPP1,MP,PP2はどれも事件が大きく動くシーンではなく、エレナの心が動くシーンとなっていることがわかる。これは事件を追うことが重要ではなく、エレナの抱える心の闇=うつ病や長時間労働から来るストレスといったことが物語の本質であると意図しているよう思えた。
 また、前述の魅力は裏を返せば、世界線を共有しなければ作品は成立しなかったともいえるだろう。原作のない作品でありながら、ドラマの続編要素もある日本では珍しい構成。オリジナル実写邦画の難しさを象徴しているように感じた。
 とはいえ個人的にはファンにとって心躍るポイントがいくつも盛り込まれており、それらを堪能するだけでも十分に見る価値のある作品であると感じる。一方で、ファンサに時間を割いた結果、本筋が薄くなってしまった感は否めない。
 犯人は誰か。どのようにして爆弾を送り付けたか。そのあたりを考えながら作品を追っていくだろうが、明らかになったところでひねりはない。 そもそもフーダニットやハウダニットに重きを置いた作品ではないにせよ、ツイストが必要だったように感じる。
とはいえ、これほど多くの人間を的確にさばききる手腕は野木亜紀子氏だからこそなせる業であるだろう。
 様々な角度から見ても、とても意義のある作品だった。
 
(山極瞭一朗、2025/10/17)

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