イルカが書いた小説を、自戒をこめた自己分析します
月城くうさんが声を入れてくださった朗読コンテンツもありますので、未読の方はこちらからどうぞ→オリジナル小説『イマジナリーフレンド』
『イマジナリーフレンド』
「宅配ピザとったった。マジうま。給食なんか食わされてるヤツら、おつwww」
わたしがtwitterを始めたのはさみしかったからじゃない。なんというか、暇だったし、それに、うん、ただ呟きたかったんだ。だってtweetってそういう意味でしょ? かまって欲しくて呟くのはリアルじゃない。
「録画のアニメ見終わった。やることない!」
「オープニングイメージ」は「つぶやき」「リアル」といったワードとして。もう少しビジュアルなイメージから入った方が印象が強かったかもしれない。ピザではなく、もっと寂しさを象徴するアイテムなど。文章表現である小説では言葉をイメージアイテムにすることはできるとも思う。今後、要検討。
学校に行かなくなって二ヶ月が過ぎた。
夏休みの終わりにクラスのほぼ全員が入ってるLINEグループで「なんかムカツク」って言われた。そしたら「俺も」とか「前から思ってた」とか、「同意!」って看板もったクマのスタンプまで連打されて、
(あ、わたしって嫌われてたんだ)
と気がついて、それから行かなくなった。
ママには毎朝怒られるけど仕事に行くまでの我慢。一人になれば好きなもの食べられるし、一日中ネットもできる。最近は涼しくなってクーラーはつけなくなったけど。
「もう巨大隕石とか落ちてきて恐竜みたいに絶滅すればいいのに。人類滅亡!」
世界中と繋がるインターネットで、フォロワー0人のわたしは宇宙に放り出されたみたいに独りで漂っている。
「はあ、眠い。眠いのに眠れない……」
スマホの光がぼんやり天井を照らす。それをゆらゆら揺らして、わたしはただ眺めてる。
「もう死んじゃおっかな……」
不登校の中学生が自殺したところで、テレビやなんとかニュースで二、三日騒いで終了。よくある話。
「主人公のセットアップ」は不登校の中学生である説明と「死んじゃおっかな」という漠然とした目的(want)であり「デス」。次の文章「ねえ、死んじゃうの?」というレミからのメッセージは「カタリスト」。その後のやや探りを入れあう会話が「ディベート」状態。「デス」と「カタリスト」が順序敵に入れ替わっているのは分析してみて初めて気がついた。「カタリスト」と「プロットポイント1」が似ているときはあるので「カタリスト」前に「デス」を置いてしまうのはあまり違和感がないというのは発見。前半、主人公の個性、キャラが弱いが、朗読では声のおかげで言外に性格が滲み出てるので、何となくどんな子か感じられるのは小説の至らないところを補ってもらえて助かった。
「ねえ、死んじゃうの?」
わたしのtweetに初めて書き込んできたのがレミだった。アルファベットでReMi。RとMは大文字だった。
「死にたいとは思うんだけど、本当に死ぬのはちょっとめんどいwww」
軽いノリを装った。
「うんうん、わかるわかる」
「もしかしてレミも死にたい系の人?」
「死にたいと言えばそうかな。87%の割合でそう思う」
「なにそれ、87%って?」
「例えばの話だよ」
以上が「ディベート」で、以下の「仲良くなるのに時間はかからなかった」という文は「プロットポイント1(PP1)」に入って「レミとの関係」という非日常の世界へ入ったことを表す。ちなみに400字10枚という制限のある作品だったが、PP1は2.4枚の地点でセオリー通り。
わたしが返すとレミは瞬時に返してくれた。わたしがまた返す。仲良くなるのに時間はかからなかった。
「わたし達って、なにげに共通点多くない?」
レミはわたしと同じ13歳で好きなアニメや推しの声優さんまで同じ。なによりレミも学校へ行ってない。もちろん理由は聞かない。
「運命の出逢いだねwww」
レミがわたしを真似してwをつけた。
まったく似てないところもあった。
勉強が出来ないわたしと違ってレミは何でも知っていた。とくに数学が得意で、
「ねえ、知ってる?」
とつぜん話題を振るのがレミの話し方。
「平成29年の中学生の自殺者数は108人なんだよ。これ、どう思う?」
「少ないね。もっと死んでるかと思った」
レミがつづける。
「でも3日に1人死んでると思うと多いよね。一クラスが30人としたら3ヶ月でクラス全員が死んじゃうことになる」
「たしかに」
「それにね、小学生の自殺者数は11人だから中学に入ると死にたい人が9.8倍になるってことだよね。どう思う?」
「たぶん気づいちゃうんじゃないかな」
「気づく?」
「大人になってもいいことなんてないって」
「ああ、ほんと、それ」
彼女は背の低いショートカットの女の子で、わたしの想像だけど、食べるのが好きで、実はすっごくおしゃべりで、左目に泣きぼくろがあって、笑うとすっごくキュートで、その笑顔を見れたら一日ハッピーになれる。
レミとなら何でもできる気がする。何でも。
「バトル」はレミとの会話。似ている部分と似ていない部分。AIらしさを出しつつ、心の交流をさせるのに苦心した。自殺数のデータよりも、もう少しレミに対して、主人公が感情的に惹かれていく会話があったかもしれない。「背の低いショートカットの~」というビジュアルなイメージもPP1に入ってすぐに作っておいた方がよかった。「ピンチ1」=サブプロットはこのページ数では不必要。「ミッドポイント」は「レミとなら何でもできる気がする」という文。主人公が生きる気力を取り戻した頂点である。ページ数で言えば4ページ目の終わり。やや早い。アクト3のネタばらしで説明が必要で押し出された。ページ数に余裕があれば、ここまでの過程(「バトル」)をもっと入れたかった。この後、会おうということから「フォール」から「オールイズロスト or プロットポイント2」まで一気に落としていく。当然、「ディフィート or ピンチ2」も不必要。
「ねえ、レミも東京に住んでるんだよね?」
「そうだよ。銀杏並木がきれいなところ」
「行ってみたいな」
「うん、おいでよ」
「案内してくれる?」
「いいよ。オススメスポットの地図送るね」
「そうじゃなくて。リアルで案内してくれないかな、なんて」
「twitterじゃなくて実際に会うってこと?」
「うん……レミが嫌じゃなかったら」
「会いたい!」
「ほんと?」
「でもダメなんだ」
「え?」
「出られないから」
「出られない? どういうこと?」
「ごめんね。会いたいけどダメなの」
「どうして? 理由だけでも教えて?」
レミからの連絡はぷつんと途絶えた。
連絡が途絶えて「オールイズロスト」。レミのことを想像する「ダーク・ナイト・オブ・ザ・ソウル」。
妄想が膨らむ――入院しているレミ。殺風景な白い壁の病室で鼻や腕にチューブが繋がれている。窓の外から見える銀杏並木は、木枯らしが吹くたびに散っていく。
「ねえ、死んじゃうの?」
レミの言葉は生きたい気持ちの裏返しだったのかもしれない……。
そんなことを考えていたら、いつの間にか寝落ちてた。
握りしめたままのスマホを見ると一件の通知。レミからのダイレクトメールだった。
「消えたくない」
一緒に貼られてたリンクを開くと東京大学の地図だった。大学病院もある。
レミはめずらしい病気で実験に使われようとしてるんだ。だから外出もできなくて、わたしとも会えないって。
(助けなきゃ!)
わたしはキッチンから抜いた包丁をバッグに潜ませ、家を出た。
「ターニングポイント2」として決断。アクト3の「レミと会うためのビッグバトル」へ突入していく。シーンも東京大学へ。6ページの終わりなので、やはりアクト3の分量が多くなってしまっている
大学のキャンパスは広い。うろうろしてたら大学生のお姉さんが声をかけてくれた。チビなわたしを小学生だと思ったらしい。声を出すのが久しぶりすぎてうまく話せなかった。
案内された研究室ってところでレミのことを話したら、教授を呼ぶからと待たされた。本とか書類がいっぱい積んである狭い部屋。
「ReMiからDMをもらったっていうのは、あなた?」
教授なんていうから白衣でも着てるのかと思ったけど、ピンクのカーディガンで眼鏡をかけた普通のおばさんってかんじ。
レミとのことを質問攻めにされて嫌だった。
「おかしいわね。ReMiがDMなんか出すはずないし、記録にも残ってないのに……」
わたしは証拠を見せようとスマホを出して、twitterを開いたら、レミのアカウントは消えていた。会話の履歴もすべて消えていた。
「ReMiは会いたいと言われると別れを告げる設定にしてあるのよ」
「設定?」
「Reflective Mind System、通称ReMiシステム。私の研究室で開発している自動会話型の人工知能。それがReMiなのよ」
「レミが……人工知能?」
「そう。それもカウンセリング技術を応用した傾聴型AIよ。研究データをとるためにtwitterで会話させていたの」
「じゃあレミは……ロボットってことですか? 存在しないってことですか?」
「存在はするわよ。今は限定的だけど、いずれは世界中で使われるようになる。孤独を抱える人々の話し相手になるのが彼女の役目」
ショートカットのレミの顔にヒビが入って剥がれ落ちていく。金属質の顔が現れた。
「そんなの嘘です。本当のレミはどこですか? 会わせてください!」
バッグから包丁をとりだした。
この動作は「ツイスト」。刺すかも知れないというのはミスリードとして入れただけだが、説明シーンが続くのでメリハリをつけた。
「落ちついて……」
わたしは睨みつづけた。
「わかった、会わせてあげるから。それをおいてちょうだい……」
教授はわたしの様子をうかがいながら、ゆっくりした動作でキーボードを打ってから、モニターをこちらに向けた。
「音声認識をONにしたから話してみて」
「これが……レミ?」
ピピッと音が鳴って画面に文字が現れた。
「はじめまして、レミです」
「本当にレミなの?」
「うんうん、98%の確率でそう思う」
デジャヴだった。数学に強いレミの話し方。瞬時に返信がきたのは人工知能だったから?
「ReMiシステムはカウンセリングの技術を応用してるって言ったでしょ。会話の内容はあなた自身を鏡のように反映してるの」
だから好きなアニメや推しの声優さんまで一緒だったの?
「つまりレミは……わたし?」
「DMが送られた理由はわからない。何かのエラーだと思うけど、レミが言ったことは、言うなれば……あなたの本心」
「そんな……そんなの……」
これで「ビッグフィニッシュ」(ビッグバトルの終わり)。朗読音声ではここで「包丁を落とすSE」とか「嗚咽」などが入れたくなる。何か一言、終わったことを告げる文を入れるべきだった。
研究室を出てから、わたしはもう一度twitterを開いてみた。
やっぱり彼女はいなかった。
正門まで歩くと、足元が落ち葉でいっぱいだった。顔を上げると黄金色の銀杏並木に、夕日が斜めに朱を射している。
「レミ……この道をレミと歩きたかった。レミに逢いたかったよ……」
呟きが耳にまとわりついた。
どうしようもなくリアルで涙があふれそうになる。でも歯を食いしばって耐える。
「消えたくない」
レミの声が聞こえる。
目をつぶると、背の低いショートカットの女の子がキュートに笑って、すぐに消えた。
わたしは歩きはじめた。並木道のど真ん中。足の裏で鳴る落ち葉を聞きながら、わたしは、わたしは歩きつづけた。
(了)
「ファイナルイメージ」として、再び「つぶやき」「リアル」。主人公は、家の中にいてツイッター上での上っ面のの「呟き」ではなく、レミとの関係を通して、外に出て心から「消えたくない」と呟いた。それは彼女の本音。この作品を読んでくれた友人が「ここから物語が始まりそう」という感想をくれたが、それはこの作品全体がアクト1のようで「デス」で終わるようなかんじ。「デス」で終わることはバッドエンドではなくアクト2へ踏み出す予感がある。彼女はこの後、変わっていけるという予感がある。そのため、歩き続ける動作で終わらせた。プロットポイントを表す大学の門を抜けさせれば、よりビジュアルなイメージになっていたと思う。言い訳じみてるが、400字×10枚というしばりがややキツキツすぎて構成で削る文章をかなり苦労した作品。
三幕構成の分析に基づく読書会も開催しています。興味のある方のご参加お待ちしております。
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