短編映画『紙ひこうき』(三幕構成分析45):ビートの教科書のような短編

感想・構成解説

7分弱のディズニーの短編アニメです。リンク先が無効な場合は、ディズニープラスか『シュガー・ラッシュ』のDVDに収録されています。

この作品を使って、ビート解説をしてみます。

「オープニングイメージ」:特別な描写はありませんが、しいていえば「風」がイメージとしてあるといえるかもしれません。トップシーンの主人公は風に抗うように立っています。うかない顔をしているのは、それだけで「主人公のセットアップ」になっています。

「カタリスト」:「飛ばされた書類を追いかける女性との出会い」最初の事件が起こりました。短編映画なので、本編が始まって10秒ほどで起こります。表情だけで、二人の感情が伝わってくるのはディズニーアニメの表現力だと思います。お互い、意識しつつも声はかけないところから、一連の「ディベート」シークエンスがつづきます。男性の書類が飛ばされる→笑い合う→女性は電車へ→会社で口紅のついた書類を眺める→山盛りの仕事→口紅の書類が飛ばされそうになる。

「デス」:「向かいのビルに女性を見つける」。PP1~ミッドポイントへ向けて上昇していくアークを描くときは、デスではネガティブなイベントが起きますが、この作品は下降していくアークなのでデスではポジティブなイベントが起こります。

「プロットポイント1」:「紙ひこうき飛ばし開始」仕事の書類を使うところから、男性が非日常の世界に踏み込んだことがわかります。もちろんBGMも変わります。女性に出会う前の社会人としての彼であったら、書類を紙ひこうきにして飛ばすなんてことはしなかったでしょう。それが、今では、仕事よりも彼女が大切なのです。

「バトル」:「届かない紙ひこうき」何度投げても女性には届きません。上司に邪魔されても負けじと投げる。ゴミ箱に入ったり、別の部屋に入ったり、鳥に邪魔されたり、こういった描写は、構成とは別の部分による魅力です。作家や監督の腕が出るところです。

「ピンチ1」:短編なのでサブプロットはありません。

「ミッドポイント」:「彼女が去る」とうとう書類は尽き、最後の一枚=口紅の書類を投げるしかない。しかし、「風」に吹かれて落としてしまいます。面接が終わった彼女は部屋を去っていきます。目的を達成できなかったミッドポイントです。

「フォール」:「男性が部屋を飛び出す」デスがポジティブで、下降するアークを辿った場合、フォールは反対に上昇へのきっかけとなります。紙ひこうきなんかに頼らず、自分の足で会いに行けばいいと、踏み出します。

「プロットポイント2」:「女性が見つからない」時すでに遅し、彼女はもういません。悔しまぎれに、落ちていた口紅のついた紙ひこうきを、投げ飛ばします。

「ダーク・ナイト・オブ・ザ・ソウル」:「裏路地紙に溜まったひこうきの山」ふわふわと漂った紙ひこうきは、彼女に届くこともなく、ゴミ捨て場のような裏路地に落下します。そこには、それまで投げた紙ひこうき達も敗者のように積み重なっています。届かなかった思いのかたまりでもあります。

「ターニングポイント2」:「紙ひこうき達が動きだす」紙ひこうきを動かしているのは「風」です。その後の、人格をもったような動きは、アニメーションならではの表現で、リアリティを求めるのはヤボでしょう。紙ひこうき(あるいは風)に押されて、二人は出会えるのかという「ビッグバトル」に入ります。もちろん、出会って映画は終わります(短編のような短いビッグバトルではツイストは必要ありません)。

「ファイナルイメージ」:風の力で出会い、風の力で再会した二人。風は「見えない力」「運命」といった言葉に言い替えてとらえることもできるかもしれません。けれど、再会できたのは、ただの偶然ではなく、「紙ひこうき」を投げるというアクト2があったからこそなのです(※ここが構成上、大切なポイントです)。風手助けをしただけに過ぎません。二人を動かしたのは「思いの力」とも言えるのです。

エピローグ:「エンドロール中の映像」カフェでおしゃべりでしょうか。出会ったところで終わってしまうと、会ったものの振られる余地を残してしまうので、しっかりと見せておくことが必要なショットです。

いかがでしょうか?

10分にも満たない短編映画でも、すばらしいものは感動を生みます。

分析してみると、無駄がなく、きちんとアークを辿っているのがわかります(プラス、描写力も素晴らしいところを忘れていけないのですが)。

SNSシェア

フォローする

『短編映画『紙ひこうき』(三幕構成分析45):ビートの教科書のような短編』へのコメント

  1. 名前:トトロ 投稿日:2022/06/17(金) 01:42:51 ID:4bae2ec76 返信

    記事を読んでいてわからないところがあるのですが、プロットポイント2は落ちていた口紅のついた紙ひこうきを投げ飛ばすことなのですか?
    またフォール以降上昇するアークというのは、全部見終わったあとに結果的にこの部分がハッピーエンドに繋がるからという考え方ですか?(男は女に会えず、悲しげなシーンなのにフォール以降上昇しているという解説がよくわかりません)
    どのように考えればいいのか、よろしければ教えていただきたいです!

  2. 名前:トトロ 投稿日:2022/06/17(金) 02:07:03 ID:4bae2ec76 返信

    記事を読んでいてわからないところが2つあります。
    まず、フォール以降上昇しているという解説がわかりません。男は部屋を飛び出すが時すでに遅しなのに、なぜ上昇のアークになるのかがわかりません。最後まで見た後で、部屋を飛び出したことが結果的にハッピーエンドに繋がっているという考え方から上昇のアークなのですか?
    また、プロットポイント1が紙ひこうき飛ばしで非日常の開始なので、プロットポイント2は一旦非日常が終わったと思える、女を見失うところで合ってますか?
    以上2点、よろしければ教えていただきたいです!

  3. 名前:緋片 イルカ 投稿日:2022/06/17(金) 07:28:53 ID:1748b4d3d 返信

    トトロさん、コメントありがとうございます。ご質問頂いた順番にお答えします。

    PP2は「女性が見つからない」という状況と僕は捉えます。オールイズロストという感覚です。具体的なショットでいうなら3:56あたりのゴミ箱を前に頭を抱えているところなどでしょうか。「口紅のついた紙飛行機を投げ飛ばすこと」も、同一シーン内、それも数秒後の出来事なので、こちらでとっても大差はないと感じます。

    「フォール以降で上昇する」は「MPの紙飛行機を使い果たすところまでが落下してきている」という感覚が前提にあります。「フォール」はMPまでと逆の方向に進む地点と捉えることができますし、上下というアークの向きを無視して掴むなら、プロットポイントに近い動きをする地点ともいえます。この映画では、紙飛行機で気づいてもらおうとMPまで来たところから、次の手段として「直接会う」という行動に出るところで、ストーリーの次の展開が始まっていると掴むことが、まずは重要だと思います。

    上昇や下降と捉えるのは主観的な感覚です。そもそもアーク自体が主観的です。物語をイメージしやすくするための目安とお考えください。また、書籍などでは綺麗なカーブの図画が描かれていますが、シーンレベルで厳密に考えれば、小さな上下が何度も繰り返されているものです。「フォール」から上昇するといっても、最後まで上昇だけに進むという意味ではありません。

    男が「直接会う」ためにビルを出て、走り出したところまでは勢いがあり上昇(女性と出会える方向)に向かいますが、ゴミ箱の前で「女性が見つからない」ところで、再び下降したという感じが僕にはします。

    PP1から「女性に気づいてもらう」ため、飛行機を投げるというアクト2が始まり、「女性が見つからなかったこと」で、その非日常の時間はいったん終わってしまったという感覚は、その通りだと思います。

  4. 名前:トトロ 投稿日:2022/06/17(金) 14:26:26 ID:4bae2ec76 返信

    ご返信ありがとうございます。
    フォール以降上昇のアークでも、シーン単位だと上下があり、オールイズロストもあるということが勉強になりました。