※あらすじはリンク先でご覧下さい。
※分析の都合上、結末までの内容を含みますのでご注意ください。
【ログライン】
しばらく疎遠になっていたデイビッドとベンジーは、亡くなった祖母が暮らした地、ポーランドでの歴史再訪ツアーに参加したことをきっかけに、ホロコーストの記憶と向き合う中で、お互いの本当の痛みと対峙し、旅を終える。
【フック/テーマ】
正反対の兄弟・ポーランドの歴史再訪ツアー/人の痛み
【ビートシート】
Image1「オープニングイメージ」:「空港で変人観察」
ベンジーは、空港でじっと座って変人の観察をしている。そこに『A REAL PAIN』のタイトルが重なる。
GenreSet「ジャンルのセットアップ」:「デイビッドとベンジーが再会」
何度もベンジーに電話をかけるデイビッドベンジーはじっと座って変人観察。そして2人は再会するが、温かいヨーグルトやハッパについての会話を通し、2人の性格は正反対であり、これはそんな2人の物語であることが提示される。
Premise/CQ「プレミス」/「セントラル・クエスチョン」:「他人の痛みを本当の意味で理解することができるのか?」
want「主人公のセットアップ」:「祖母の家を訪ねるのが目的」
空港の待合室で、ツアー日程を確認するデイビッドとベンジー。デイビッドはベンジーに近況を問い、祖母の家に行けることを喜ぶが、ベンジーは日程を見てもよくわからない。ここでも性格の違いが示され、うまく会話がかみ合わない。
Catalyst「カタリスト」:「ポーランド着」
デイビッドとベンジーは、旅の地ポーランドに到着する。
Debate「ディベート」:「ツアー参加者との出会い」
様々な痛みを抱えた人たちが各々自己紹介をする。ベンジーも自身の身の上について語る。祖母が死んで、辛い思いを抱えている。
Death「デス」:「ゲットー蜂起記念碑/“痛みのツアー”」
旅の始まりの場所。ナチスと戦ったユダヤ人の英雄を讃える記念碑である。ツアーコンダクターのジェームズから、これは“痛みのツアー”であることが告げられる。
PP1「プロットポイント1(PP1)」:「ゲットー蜂起記念碑を去る/ツアーの始まり」
一行はゲットー蜂起記念碑を後にし、これをもって歴史再訪ツアーがスタートする。
F&G「ファン&ゲーム」:「街を歩いて回る」
ポーランドの街を歩いて回る一行。ベンジーは参加者たちとみるみる距離を詰めていくが、一方でデイビッドは独りぼっちに。
Battle「バトル」:「ワルシャワ蜂起」「ベンジー、参加者たちと衝突/後ろの車両へ」「ベンジー、またしても違和感/ジェームズと衝突」
MP「ミッドポイント」:「コぺルマンの墓に石を供える」
ポーランド最古の墓石とされるコぺルマンの眠る墓を訪れた一行。そこで、“あなたを忘れない”という意味を込めて、一行は墓に石を供える。
Reward「リワード」:「参加者たちと夕食」
参加者たちと距離が縮まったデイビッドは、祖母の話をする。
Fall start「フォール」:「ベンジーは自殺しようとしていた」
よくないムードが流れたのち、ベンジーは離席。デイビッドは今まで抑えていたものが溢れ出すように、ベンジーへの想いと自身の痛みを赤裸々に告白する。そして半年前、ベンジーがオーバードーズで自ら命を絶とうとしていたことが明かす。
Pinch2/Sub2「ピンチ2」/「サブ2」:「なし」
PP2(AisL)「プロットポイント2」:「参加者たちとの別れ/ツアーの終わり」
強制収容所から戻った一行。デイビッドとベンジーはこれにてツアーは終了となる。参加者たちとの別れを惜しみ、ベンジーはジェームズとハグをする。
DN「ダーク・ナイト・オブ・ザ・ソウル」:「どうしてバカなマネをしたのか」
屋上でハッパを吸うデイビッドとベンジー。今後の計画についてベンジーに問うデイビッドだったが、彼はまともな返答をしない。次第にデイビッドは感情を露わにし、自殺を図ろうとした真意を問い質す。しかしベンジーは答えを返さない。
BB(TP2)「ビッグバトル(スタート)」:「祖母の家到着」
わだかまりを抱えたまま特に会話をすることもなく、デイビッドとベンジーは祖母の家に向かう。そして到着。ベンジーは祖母との思い出を懐古する。それを聞いたデイビッドは石を玄関先に置くことを提案。2人で石を探す。
Twist「ツイスト」:「隣家の住民から声をかけられる」
石を置くことの意味を住民に話すが、今の住民にとって危ないと言われてしまい、仕方なく石を持ち帰ることにする。
Big Finish「ビッグフィニッシュ」:「帰国」
デイビッドはベンジーにうちで食事することを提案するが、ベンジーは断る。そしてデイビッドはベンジーの頬を引っ叩き、あつくハグをかわし、別れる。
Epilog「エピローグ」:「デイビッド、帰宅/階段に石を置く」
家族と再会する。
Image2「ファイナルイメージ」:「空港で変人観察」
冒頭と同様、ベンジーは空港でじっと座って変人の観察をしている。そこに再び『A REAL PAIN』のタイトルが重なる。
【作品コンセプトや魅力】
痛みにフォーカスした構成が最大の特徴。デイビッドとベンジーが抱える心の傷を、ポーランド、およびユダヤ人がかつてナチスから受けた痛みと交錯させて描き、歴史の痛みを感じ取る彼らの感情を汲み取りやすくさせる。それはすなわち彼らの痛みを理解しようとする姿勢と同値であるが、本当の意味で彼らの痛みを理解することは難しいのだと矛盾した思いも抱く。
また暗くなりそうなテーマを、デイビッドとベンジーのコミカルな掛け合いやリズミカルで軽妙な音楽によって中和させ、随所にクスッとくるシーンがあることにより、全体が悲しみに包まれた物語とならないように配慮されている。その点、本作の魅力といって差し支えないだろう。
【感想】
「好き」5「作品」5「脚本」5
この作品は矛盾に満ちていると感じる。
不思議な魅力を感じ取った作品だった。むろんポーランドに足を運んだことはない。しかし彼らとともに旅をしているような気分になり、どこか懐かしささえ感じた。ホロコーストを受けた人々の痛みもダイレクトに伝わった。“理解した”のだ。しかしそれはきっと本当の意味で理解したことにはならない。本当の痛みは当事者にしかわからないのだろう。すなわちデイビッドがベンジーの痛みを本当の意味で理解できないのと同様に、私はわかったつもりになっているだけかもしれないとも感じる。矛盾しているとはこのことである。
オープニングイメージとファイナルイメージをよくよく見比べると、ベンジーの見ている方向が左右逆になっている。それに合わせてタイトルの位置も反対となっているのだが、偶然と処理するにはあまりにもできすぎているだろう。私はそこに解釈の余地が残されていると考える。旅を経て、ベンジーは変わったのか。つまりもう自殺をしないのか。デイビッドに大丈夫だと伝えこそすれ、本当に大丈夫なのか、ラストのベンジーを見ていると不安がよぎる。いやそれは取り越し苦労で、変化をしたのだという見方もきっとできるだろう。安直に答えを出さないといった姿勢に私はこの作品の真髄を見た。
(山極瞭一朗、2026/02/17)
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