映画『ひつじ探偵団』(三幕構成分析#300)

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※あらすじはリンク先でご覧下さい。

※分析の都合上、結末までの内容を含みますのでご注意ください。

【ログライン】

推理が得意な羊のリリーは、牧場主・ジョージの死を他殺と疑い、まぬけな警官・ティムを上手く誘導してジョージの娘・レベッカを逮捕させる。しかし推理に不安を抱き、仲間を失いつつも真相をティムに伝えて事件を解決させる。

【フック/テーマ】羊が殺人事件を解決する/偏見や願望によって現実を直視しないことからの脱却

【ビートシート】

Image1「オープニングイメージ」:「牧場でのびのびと暮らす羊たち」

GenreSet「ジャンルのセットアップ」:「羊飼い・ジョージの手紙」「羊たちの会話」牧場の小屋で手紙を書くジョージの文面に、「人生はミステリー」との言葉。また、羊たちに推理小説を読んで聞かせるジョージの描写や、小説の真相を推理する羊・リリーの様子から、ミステリーものであることが示される。加えて、温かい手紙の内容や牧歌的な牧場の空気感、羊たちによる軽快な会話から、ハートフルコメディ的な要素を含むことも伺わせている。

Premise/CQ「プレミス」/「セントラル・クエスチョン」:「リリーをはじめとする羊たちは、飼い主・ジョージの死の真相を突き止め、人間に事件を解決させることができるか」

want「主人公のセットアップ」:「推理が得意な賢い羊・リリー」

Catalyst「カタリスト」:「ジョージの死」

Debate「ディベート」:「ジョージの死に対する反応と推理」羊たちにはショックな出来事を集団で忘れる能力があり、リリーたちは真っ先にジョージの死を忘れようとする。しかし孤高の羊・セバスチャンに止められ、ジョージは誰かに殺されたのではないか?と推理し始める。そして殺人犯を突き止めると決意。

Death「デス」:「生まれて初めて牧場の外へ出る」牧場の敷地内外を隔てる道路を渡れるか否か、が通過儀礼的に描かれている。

PP1「プロットポイント1(PP1)」:「町に到着」

F&G「ファン&ゲーム」:「モップルが会場で大暴れ」、「警官・ティムによる捜査」
後述するバトルの他に、布で視界を塞がれたモップルが遺言状開示の場で大暴れしてしまうシーンなど。
警官・ティムがレベッカに事情聴取したり、ベスが盗んだ手紙を目撃したり、記者・エリオットとタッグを組んだり、牧師から献金の真相を聞くといった一連の調査も、ファン&ゲームかつバトルの一部といえる。

Battle「バトル」:「ジョージの遺言状開示を盗み聞き」、「警官・ティムに推理小説を渡す」、「セバスチャンの来歴を聞かされる」、「犯人を推理し、レベッカが犯人と断定」、「ティムを牧場へ誘導し、レベッカの腕輪を拾わせる」
主にリリーによる推理。偽の勝利(レベッカを誤認逮捕)までの過程が描かれる。
その他、孤高の羊・セバスチャンの来歴を聞くことに。彼が冬生まれであり、自分たちが悪気なく差別してきた対象であったことを知る。

MP「ミッドポイント」:「レベッカを逮捕」ジョージの娘・レベッカが犯人であると誤解したリリーたちは、警官・ティムを誘導し、レベッカを逮捕させる。

Reward「リワード」「ケイレブの牧場との合併」: 偽の勝利(誤認逮捕)によって得られる、偽の報酬。実は、ケイレブの牧場は肉屋と提携しているが、リリーたちはそのことに気づいていない(冒頭で羊たちは合併を良きものとしている)。

Fall start「フォール」:「ケイレブの羊たちに会いに行き、屠殺の可能性に気づく」、「犬に襲われる」、「セバスチャンの死」レベッカが誤認逮捕されたことで、リリーたち羊は近隣の羊飼い・ケイレブへ売られることに。リリーはモップルに誘われてケイレブの羊たちへ挨拶に行くも、「逃げろ」と忠告される。直後、ケイレブの牧場が肉屋と提携していることに気づく。ケイレブの牧羊犬に襲われ、リリーたちを庇いに飛び込んできたセバスチャンが死亡。

PP2(AisL)「プロットポイント2」:「仲間たちが記憶を消去」セバスチャンの死体を置いてケイレブの牧場から逃げ帰る。仲間たちに「ケイレブの牧場と合併すれば殺される、逃げよう」と提案するも、仲間たちは辛い事実から逃れるため記憶を消してしまう。

DN「ダーク・ナイト・オブ・ザ・ソウル」:「モップルだけが悲しい過去をすべて覚えていたことに気づく」、「記憶を消そうとするもジョージの幻覚を見て踏みとどまる」

BB(TP2)「ビッグバトル(スタート)」:「真犯人を推理」 真犯人に気づいたリリーが、冬生まれの子羊と協力してレベッカの拘留所にヒントを残す。翌日、レベッカの引き渡し直前に警官・ティムが真相に気づき、推理を披露する。

Twist「ツイスト」:「エリオットが逃走」真犯人であると言い当てられたエリオット、突然逃走し車に乗り込む。

Big Finish「ビッグフィニッシュ」:「エリオットが逮捕される」双子の羊がエリオットの車に追突し、逃走を阻止。真犯人・エリオットが連行される。

Epilog「エピローグ」:「レベッカが両親の話をベスから聞く」、「レベッカがケイレブの牧場を買い取る」、「リリー、冬生まれの子羊に名前をつける」釈放されたレベッカは、父親の元恋人・ベスから両親の話を聞かされる。
ケイレブとハムから商談を持ち掛けられたレベッカが、商談を断り、逆にケイレブの牧場を買収してケイレブの羊たちを救う。リリーたちはケイレブの羊たちと合流。
リリーは、これまで仲間外れにしてきた冬生まれの子羊に話し掛け、死んだ飼い主「ジョージ」の名前を付ける。

Image2「ファイナルイメージ」:「空に浮かぶセバスチャンの形をした雲」、「寄り添うリリーと子羊・ジョージ」

【作品コンセプトや魅力】

ベストセラー小説を原作とした作品。羊がどうやって殺人事件を解決するのか?というキャッチーなコンセプトが魅力的だ。イロモノ感強めかと思いきや、ハートフルコメディの側面もあり万人が楽しめそうなエンタメに仕上がっている。差別問題をも取り上げており、それが教訓的な要素となっているが、あくまで子ども向けのシンプルな問題定義と解決に留まっているともいえる。

【問題点と改善案】(ツイストアイデア)

前提として、私は原作小説を読めていないため、映画だけを見たうえでの分析となる。

当初、カタリストを「夜になってもジョージが羊たちの前に現れない」、デスを「ジョージの死」と分析すべきか迷った。しかし、その場合ディベートが「羊は死なず、雲になって雨を降らせるという話をする」くだりになり、あまりディベートらしくないように感じた。

それよりは、カタリストを「ジョージの死」とし、それを受けて忘れようとする、しかし仲間に反対されて忘れるのをやめる、他殺疑惑が浮上する、他殺であることを確信するまでの最初の推理、犯人を突き止めると決意する、の方がディベートらしいと考えた。

上記を前提とした場合、構成としてはカタリスト、PP1、MPが遅めとなっている。ジョージや羊たちの情報だけでなく、容疑者候補となる町人たち全員を含めたセットアップや、推理に必要な情報の提示、MPまでの推理そのものに尺が割かれている。その分フォールがかなり短めになっているが、ショッキングな出来事を端的に複数詰め込んでフォール感を出すことはできているように思う。子どもでも楽しめそうなハートフルコメディの側面も強い作品であることを踏まえると、ネガティブなフォールパートが短尺であることにも納得感はある。
ビッグバトルである真犯人の推理もテンポよく進み、そこまで複雑な内容ではない為さらっと終わった印象を受けたが、これにも同様の理由を見出せそうだ。

個人的にはかなり好きな作品であるため、問題点や改善点を挙げることに若干苦心しているが、気になるのは、テーマの描き方についてだ。

今回、「偏見や願望によって現実を直視しないことからの脱却」をテーマとして挙げた。しかし正直、これが明確に今作のテーマである、と断言して良いものか迷う。作品を構成する要素の一つとして差別問題を取り入れており、その点も個人的には非常に好きな部分だが、一方でそのテーマが全面に出ているというよりは、エンタメ性の強さが前に出ている印象も受けた。

リリーたち羊は、「羊は死なずに雲になる」と考えている。また、特定の記憶を集団で一斉に忘れることができるため、悲しい出来事に直面すると積極的に記憶を消してしまう。さらに、羊たちの中には「冬生まれの子羊は仲間ではない」という共通認識があり、主人公・リリーを含め誰もそのことに疑問を抱いていない。これが分かりやすく差別描写として盛り込まれており、リリーたち羊が事件を解決する中で、その偏見を改めるという成長線が描かれている。

「羊は死なない」、「嫌な記憶を積極的に消す」、「冬生まれの子羊は仲間ではない」という、自分たちに都合の良い思い込みや習性、あるいは根拠のない偏見などを複数抱え現実を直視していないリリー(たち)が、「人間は死ぬ」、「羊も死ぬ」、「自分たちは都合よく嫌なことを忘れていた」、「仲間だと思っていた羊が冬生まれで、そのことにより孤独を抱えていた」といった事実に気づき、それらに向き合うドラマが展開されている。しかし、その流れと殺人事件解決の流れがそこまでがっちりとはリンクしきっていない印象も受けた。

上記のテーマをより明確に打ち出す場合、偏見や都合の良い思い込みによって誤認逮捕に陥るという側面を、羊サイド・人間サイド共に、より強調させても良いように感じた。誤認逮捕されるレベッカは、養子に出された女性で、髪の色は赤毛っぽく見えないこともない(欧米において「赤毛」の定義はかなり広範という印象を持っているのだが、誤りであれば申し訳ない)。更に元カレが犯罪者であるなど、偏見や差別にさらされやすそうな要素を複数もっている。羊たちがレベッカを疑う中で、「彼女は冬生まれに違いない」と言い出すくだりもあり、冬生まれの羊に対する差別と、レベッカへの偏見・冤罪を結び付けようとしていることは一応読み取れる。レベッカを庇う冬生まれ子羊の言葉に耳を貸さない描写も狙ってのものだろう。しかし警官・ティムの度を超えた間抜け具合や、羊たちの知性の中途半端さが戯画的に強調されているあまり、「偏見や先入観が冤罪を生んでいる」という構造が明確に示されているというよりは、コメディ的な間抜けさにより「やらかした」印象が強くなってしまっているようにも感じた。

レベッカが逮捕されたことにより、羊たちはケイレブの牧場と合併することになる。羊たちはこれを良いこととしてきたが、合併の先にあるのは屠殺であった。偏見も手伝っての誤認逮捕が、リリーたち自身の首を絞めることになる、という構図だ。ケイレブの野蛮な牧羊犬に襲われ、冬生まれであることを告白したばかりのセバスチャンがリリーたちを守って犠牲となる。冬生まれであると知らず仲間に入れていたセバスチャンが、自分たちのために命を落としてしまったことが、偏見や差別意識を捨てるきっかけとなる。個人的に、このセバスチャンの来歴、ジョージとの出会い、そして死に至るまでのドラマは特に魅力的だった。が、リリーたちが過ちを改めるための装置として都合の良い存在になってしまっている印象が全く無いとも言い切れない。リリーたちの過ちに対するしっぺ返しを食らったのが、リリーたちではなく被差別属性をもったセバスチャンになってしまっている、という見方もできなくはない(だからこそ罪悪感を抱き、偏見を改めるほどのきっかけとなる訳だが)。なお、良くも悪くもこうした構成は様々な作品で見られ、本作に固有の課題という訳ではない。

ただし、冒頭でジョージがセバスチャンを「俺に似ている」と評しており、これには巧さを感じた。今作で死ぬのはジョージと、彼に似ているとジョージ自身が評したセバスチャンだけなのだ。似た者同士のふたりは同じタイミングで去り、空の上で再会していると読み取れる(死に際のセバスチャンが「ジョージが見える」と言い残したことや、ラストで雲の形としてあらわれたことから)。ふたりを似た者同士としたことで、セバスチャンが死ぬことの納得感をある程度補強しているようにも思える。

コメディ色の強いエンタメ作品として、そこまで重いテイストにしたくなかったであろうことから、差別や偏見にまつわる描写を重点的には掘り下げすぎず、子どもでも分かるようなシンプルさで描いた点は必ずしも欠点とは言い難い。こうした社会的テーマとミステリーとしての本筋が、ろくに接続されていないとも思わない。むしろ、丁寧に見ていけば思った以上に接続しようした意識も垣間見える。

ただ、最初から差別されていた冬生まれの子羊自身とのドラマはそこまで無い中、差別意識を捨てたことの証としてラストだけ協力したり、羊たちと警官・ティムとの関係性構築はあまりないまま事件解決に至って何となく雰囲気だけフワっと仲間意識っぽいものが芽生えていたりと、若干の物足りなさはあった。ミステリー、ファンタジー、コメディ、ヒューマン(羊)ドラマという多くの要素を短尺に詰め込んだことで、各所の掘り下げがあっさりしたものになっているとは思う。ただしターゲットや作品のテイストを踏まえて敢えてそうしているであろうし、これだけの要素を冗長的にならず処理できている点はむしろ長所ともいえよう。

【感想】

上記で欠点めいたものをつらつらと記載したが、根本的にはかなり好印象な作品だった。ジャンルをコメディとし、警官・ティムを「おおまぬけ」と紹介することで、「羊たちが事件解決のヒントを提示してきている」という異常事態にティムがそこまで疑問を持たず素直に誘導されることへの納得感を上手く醸成している。「羊は死なず雲になる」というアイデアも面白く、「死なない」のは間違いだった一方で「雲になる」ことはあながち間違いでもないというラストの回収も小気味良い。冒頭はジョージが手紙を読み上げる声で始まり、ラストはジョージが執筆した著作を娘が読み聞かせる声で終わるという気の利き方も好きだ。

各所の掘り下げがあっさりしていると書いたが、裏を返せば「もっと見たい」と思わせる箇所が沢山ある作品だった。ジョージが魅力的な人物だったため、(仕方ないことだが)冒頭でサクッと死ぬことへの残念さもあったし、セバスチャンのエピソードや、羊たちとティムの関係性がより深まっていくような話ももっと見てみたくなった。原作小説には続編もあるし、(どのような話になっているかは不明だが)非常に興味が湧いた。

社会的テーマを盛り込みつつも暗くなりすぎず、朗らかなテイストでまとめた点も個人的には好きだが、それは私にとって当事者性がそこまで強くない問題だからこそ無邪気に賞賛できてしまうだけかもしれない、という懸念も頭の片隅には入れておきたい。決して社会問題を軽く扱っているようには思わなかったが、見る人によっては踏み込みが浅いという印象にもなり得るだろう。

「好き」4「作品」4「脚本」4

(しののめ、2026.7.11)

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