10分脚本における「ログライン」と「狙い」

「ライターズルーム」の脚本課題では人物表の後に「ログライン」と「狙い」を書いてもらっています。

ルールのように限定したくはないのですが、やや形骸化してきている印象もあるので、改めて意図を考えてみようと思います。

10分脚本用ログライン

ログラインというのは「誰が、何して、どう変わる」を端的に言う文章です。

「誰が」は主人公であり、「何して」はアクト2での出来事、「どう変わる」はアクト3のビッグバトルの末の結末が入ります。

分析記事でも書いてもらってもらっているので、このことは理解できているかと思います。しかし、10分脚本にしたときには、すべてのビートが入ると限らないので、一致させるのが難しいと感じている人もいるのではないかと思います。

まず、10分の脚本で三幕構成になっている「短編」の場合を考えます(参考:『紙ひこうき』)。

これは、長編映画の分析と同じように結末までのログラインを書けば良いので、「ログラインを書くこと」は難しくないと思います。

ですが、先にログラインを書いてみても、いざ脚本本文にとりかかってみると「10分で収まらない」とか「カタリストも始まらない」といった自体になってしまうことが多いでしょう。

コンパクトにビート処理をするのは、相当なテクニックがいります。ちなみに『紙ひこうき』はアカデミー短編アニメ賞のレベルです。

ましてや60分ものや120分ものを書いたことがなく、10分のショートムービーを見たり分析したことがない人であれば、ログラインと一致しないのは当然と言えるでしょう。

そこで、10分脚本は完結する「短編」ではなく「シークエンス」として捉えても構わないとも伝えています。

本質的には「10分完結の短編」と「シークエンスとしての10分」は一緒です。

ですが、その本質が掴めていない人はどちらかの意識に偏ってしまいがちです。

「短編」としてまとめようとして強引なクライマックスをつけてしまっていたり、「シークエンス」という感覚のせいで、説明的なシーンばかりでドラマが何も起こっていないといった作品になってしまうのです。

10分完結の「短編」といっても、たった10分で長編映画並みの大きな変化などする必要はありません。そんなことをすればリアリティが失われます。

『ドラえもん」や『クレヨンしんちゃん』の通常回と映画版を較べてみると、想像しやすいでしょう。展開されるドラマや事件は、尺によって変わります。当然です。

一方、「シークエンス」としての10分と捉えた場合でも、シークエンスとしての見せ場は必要です。

「シークエンス」での見せ場は、「短編」でいえば「ビッグバトル」のようなものです。

10分の中で感情をフックされれば、観客はつづきを見たいと思います。

10分で興味を惹けなければ、2時間はおろか、30分ものですら見てもらえないでしょう。

長編の分析をするとき「最初の10分」でどんなことが起きているか、よく分析してみてください。分析は批評やわかったような気分になるためではなく「書くための勉強」だということを、お忘れなく。

さて、ここからは提案です。提案ですので従わなくても構いません。有効だと感じたなら使ってください。

「10分脚本用ログライン」の形式です。

「〇〇な(主人公)が、××をきっかけに、△△し始める。」

この形式に当てはめるように「ログライン」を書いてみてください。

まず「ログライン」ですので、主人公が誰なのか明確にしてください。

これすらズレて「AとBが」といった書き方をする人もいますが、初心者は10分で群像劇など書こうとしないで、主人公が明確な「アークプロット」を書いてください。これは基本です(はっきり言ってアークプロットが書けない人には面白い群像劇は書けません)。

その上で主人公の前の「〇〇」には、形容詞的な文言を入れてください。主人公の特徴を表す形容詞です。(もちろん「〇〇である」などでもよい。細かいことは各自で応用)

ただ「明るい性格の」とか「イケメンの」とか、メインプロットに関係のない設定を入れても無意味です。

そこで注目するのが、最後の「△△し始める」の文章です。

川尻さんの『気になるやつら』からお借りしてみます。

「ゆのが数馬と恋愛する」とあります。

形式に当てはめるなら

「〇〇なゆのが、数馬との恋愛をきっかけに、△△し始める」

となるでしょう。

「狙い」には「ゆのが数馬との出会いによって自分を信じる」とあるので、

「〇〇なゆのが、数馬との恋愛をきっかけに、自分を信じ始める」

が、作者の書きたいものではないかと想像できます。

こうなれば「〇〇」に何を入れるべきか、もう分かりますよね?

「明るい性格のゆのが、数馬との恋愛をきっかけに、自分を信じ始める」としたところで「明るい性格であること」にプロット上の意味がありません。

「暗い性格なゆのが」でも「タピオカ好きのゆのが」でも入れ換えられますが、入れ換えられるということは、入れる意味がないとも言えます。

どんな「〇〇」な主人公が「自分を信じ始める」とドラマチックかと考えれば、自ずと答えが見えてくるはずです(答えは一つではありません。作者ごとの答えがあるはず)。

ちなみに、この時点でジャンルはドラマになります。「自分を信じ始める」ことがメインプロットでありテーマだからです。

元々のログラインにあった「ゆのが数馬が恋愛する」と書いてしまったらラブストーリーになってしまいます。

もしラブストーリーとするのであれば「〇〇」に入る言葉も当然、変わります。

「〇〇なゆのが、数馬に声をかけられたのをきっかけに、恋愛し始める」

このように書けば、何を入れるべきか明確です。セットアップするべきものが変わるのです。

ドラマなのかラブストーリーなのか定かでない「ログライン」と「狙い」を書いている時点でブレてしまっていると言えます。

「ログライン」と「狙い」は作品の方針みたいなものなので、最初から方針がブレていれば、本文がブレるのも当然です。

もうひとつ言えば、タイトルの付け方も、どちらのジャンルに相応しいかも疑問です。

明確でシンプルなメインストーリーとしての「ログライン」があり(人体でいえば背骨)、それに沿ってシーンが魅力的に描かれていれば(人体で言えば筋肉、肉付け)、それだけで充分ドラマとしての力を持つはずです。

その作品を一言で表すようなラベルとして「タイトル」がついていれば、尚よいのは言うまでもありません(が、ネーミングなどはセンスなどもあるので難しくもある)。

ついでに、形式的なコツを言っておくと、主人公の「〇〇」はトップシーンでわかるように描いてください。

きちんと描写できていればwantも自然と見えます。ビートでいえば「主人公のセットアップ」です。

そして「きっかけ」となる事件(要はカタリスト)は1ページ目ないしは2ページ目の半分までに起こしてください。10分脚本であれば、これぐらいのテンポ感でストーリーを進めてほしいところです。

この2つができるだけで、だいぶ脚本が引き締まると思います。

狙い

「狙い」という項目はある時期から脚本に入れてもらいましたが、明確な定義はしていませんでした。

ここで、あえて定義するなら「作者が何を書きたいのか?」「読者にどんな気持ちになって欲しいのか?」などです。

今度は月三さんの『いつかお姫様が』からお借りしてみます。

「純粋なオタク男がリアルな恋愛に戦いを挑む」とあります。

月三さんは「狙い」の説明を受けていないまま書いてくださってるので意図がわからなかったと思いますが、この「狙い」はあらすじの言い換えです。

「狙い」としては、もっと作者の思いとして「オタク男が恋愛に挑む様に笑ってほしい」とか「応援してほしい」とかまで意識できてくると、本文の描き方も変わってくるはずです。

「笑ってほしい」のであれば、どうすればもっと「笑ってもらえるか?」という方向性が定まってきます。

「一途なかっこよさ」とか「純情さを見せたい」とか「モテない哀しさ」とか、描きたい思いによってキャラクターやシーンの見せ方の方向性も変わります。

物語は、作者から読者への手紙のようなものです。

伝えたい思いがなければ「誰が、何して、どうなった」と描いたところで、無味乾燥なニュースにしかなりません。

ただし「みんなに共感してほしい」とか「楽しんでほしい」などという無難な表現には注意が必要です。

抽象的で、当たり障りのない思いは、実質、メッセージが何もないのと似ています。学校の標語のようなもの。

「みんなに楽しんでほしい」などと掲げても、何でもファンもいれば、アンチもいます。むしろ、アンチに絡まれる覚悟ぐらいなくては、面白いものなど書けません。

「みんなに」は理想ではありますが、実質、誰の心にも刺さらない危険性があります。

誰にでも通じるような当たり障りのない「ラブレター」より、「あなたへ向けたラブレター」が刺さるのは当然です。

個人へ向けたラブレターは、それが自分宛ててでなくても、素敵に(ときに気恥ずかしいぐらいに)感じられるはず。

また、「狙い」は見せ場につながります。ログラインの項で書いた「シークエンスの見せ場」のことです。

「笑ってほしい」が「狙い」であれば、10分脚本のなかで「ここが笑いどころだ!」という箇所が欲しくなります。

シーンでも、セリフやト書きひとつでもいいでしょう。

ここが「見せ場」だという意識があれば、そのシーンの描写は丁寧度も変わるはずです。

10分の中の「クライマックス」と捉える必要はありません。変に「ビッグバトル」のようにする必要はありません。

「純粋なオタク男」というセットアップを見せ場にだってできます。いかに、魅力的な「オタク感」を描けるかです。

実際、キャラクターのセットアップに成功すれば、10分なんてもちます。

観客が主人公を好きになってくれれば、だらだらとストーリーが進んでも見てくれます。逆は苦しいのも想像に難くないでしょう。

理想を言うなら、すべてのシーンが「見せ場」ぐらいの勢いで描いてほしいのです。すべてのシーン、すべてのセリフが魅力的でなければいけないのです。

とはいえ、それが出来るなら最初から書いているでしょう笑

だから、まずは10分の中に「見せ場」を1つ作る意識。1つができたら、2つ、3つと増やしていけばいいのです。

「狙い」に関しては、自由に書いてほしいので、変に形式は決めません。意図とズレても構いません。

この項目で、しっかりしたことが書けるようになってくれば、作家性が養われてきたことに繋がっていくと思います。

自分が「何を書きたいのか?」

10分脚本を書きながら突き詰めていけると良いと思います。

そんなことを、ぼんやりとでも意識しながら「狙い」を考えてみてください。

一回の脚本でビシッと決めるというより、たくさん書いて繰り返していく中で、自分の「狙い」が見えてくればいいでしょう。

自分の「狙い」が固まってくれば、そのために身につける技術も自ずと見えてくるはずです。

こうなってくれば、グンとレベルアップするのでないでしょうか

緋片イルカ 2023.7.15

10分脚本における「狙い」についての補足

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