今回はストーリーサークルの「物語」について説明します。
その他の要素については以下のリンクからご覧ください。
「ストーリーサークルとは何か?」という概略は1「題材」にて説明しております。
ストーリーサークル目次
1「題材」(概略含む)
2「人物」
3「視点」
4「構成」(題材∩人物)
5「テーマ」(題材∩視点)
6「描写」(人物∩視点)
7「物語」(構成∩テーマ∩描写)
ストーリーサークルをつかう意義
これまで大きな3つのサークル「題材」「人物」「視点」から始まり、それぞれの共通部分「構成」「テーマ」「描写」について説明してきました。
ストーリーサークルのうち、3つの大きなサークル「題材」「人物」「視点」は主に企画を立てる段階で役立ちます。
大きいサークルからアプローチして「テーマ」「構成」「描写」と集約していくかんじです。
両手で円を小さく凝縮していく動きを想像してください。
すべての要素が凝縮されて「物語」(小説や映画)が出来ています。
今回の図は色の三原色で表現してみましたが、三色が混じり合って黒くなるように、各要素が混じり合って「物語」になるともいえます。
各要素は細かく切り離せるようなものではありません。
たとえば「オオカミに育てられた少年」という「題材」は、同時に「人物」でもあります。どこまでが「題材」で、どこまでが「人物」と切り離して定義する必要などありません。
ここに作者の「視点」が加わることで物語が変わります。
この少年モーグリを「たくましい!」と思うか「かわいそう!」と思うかで、描き方ががらりと変わります。
「テーマ」も定まっていきます。
「親に捨てられても力強く活きていく生命力」を描くか?
「人間社会になじめなかった不幸な子供の悲劇」として描くか?
テーマが定まれば、主人公のキャラクターアークが決まります。(※2「人物」の記事参照)
キャラクターアークはすなわち「構成」になります。
構成が決まれば、どう演出するかを含めた「描写」も決まっていきます。
ストーリーサークルの各要素は、たがいに影響しあって、ひとつの「物語」に集約されていくのです。
物語が行き詰まったり、魅力に欠ける場合は、どこかの要素が欠けていたり、反対に過剰だったりする可能性があります。
それを、客観的にみるモデルとしてストーリーサークルの捉え方が役立つのです。
客観的に「物語」をみる
多くの人は「物語」をみるときに「好き・きらい」「面白い・つまらない」などの無意識的な判断に任せています。
ただの観客であれば構わないのですが、そういった態度は「自分の作品」をみるときにも影響します。
自分が面白いと思っていても、他人に面白いと思ってもらえないのは、自分だけが面白いと思っているからです。
作品を鑑賞したときを思い出してみてください。
気分が、作品の評価に直結していることがほとんどでしょう。
多少、三幕構成の用語などを知っている人は客観的な意見を述べているように見えますが、その実、多くの人が「面白い」と感じたら「面白い理由」を探しているだけ、「つまらない」と感じたら「つまらない理由」を探しているだけのように思います。
専門用語で、感想を代弁させているに過ぎない主観的な意見です。
客観的に物語をみることが、創作に役立ちます。
そのための指針が「ストーリーサークル」です。
もちろん主観的な感想は捨てる必要はありません。むしろ捨ててはいけません。
主観は「視点」につながり、作家として大事なセンスです。
一方で、「構成」などは客観的に分析するべきです。
主観と客観を履き違えないように注意する必要があるのです。
「自分は好きだけど、多くの人には評価されない作品」があっても構いません。
「みんなはわかってない!」などと怒る必要もありません。多くの人に評価されないには、されないなりの要因があるからです。
そして、多くの人に評価されないからといって、その物語の価値が低いことにはなりません。
「自分は嫌いだけど、多くの人に評価されてるいる作品」もあります。
「俗っぽい!」などと切り捨ててもいけません。多くの人に評価されるには、それなりの要因があります。
自分が嫌いでも、売れている作品には経済的な価値はあります。
どちらにせよ「好き・嫌い」はひとまず置いておいて、客観的に分析することで「要因」が浮き彫りになってきます。
他人の作品を客観的にみていくことは、書く能力の向上につながります。
書くのがうまくなりたければ「たくさん読め」というのは、誰もが思うところですが「きちんと読む」ことも大事なのです。
「構成」は客観で、「視点」は主観
改めて、ストーリーサークルのうち「視点」と「構成」を見てください。
この二つの要素だけを見ると、「視点」と「構成」の共通部分に「物語」があるようにも見えます。
「構成」は客観性の強い領域です。
「視点」は主観性の強い領域です。
どちらも大事です。
自分の作品が観客・読者から、どう思われるかという客観性は大事です。売れるということにも影響します。
けれど、自分の書きたいものや拘りという作者の「視点」も大事です。
たとえ、売れなくとも、作者が書きたいテーマなら書くべきです。
オオカミに育てられた少年モーグリを「たくましい!」と描くか、「かわいそう!」と描くかは作者の価値観であり、自由です。
しかし「視点」を決めて、テーマが定まれば、構成は必然的に決まってきます。
「逞しさ」を描きたいなら、少年がクヨクヨしてるシーンばかり描いていてはダメです。その構成では「可哀想」にみえます。
反対に「可哀想そう」として描きたいのに、元気で活発なシーンがあれば、観客・読者は「逞しさ」を感じとるでしょう。
「構成」は客観的で、テクニックも影響する領域なのです。
だから「構成」を分析することは、「テーマ」をみる上でも、「描写」を判断する上でも基準にできます。
(参考記事:「物語を構成から分析する意義とは?」)
「分析」と「読書会」
すでに完成した作品や、自作のブラッシュアップのためには「構成」から客観的にアプローチしていくことで、「テーマ」や「描写」の判断もできます。
具体的には「ビート分析」をしてみることです。
「専門用語で、感想を代弁」するようなことではなく、頁数(映画なら時間)を計って、全体の比率からビートを掴んでいくことです。(分析例は「がっつり分析」シリーズにあります。)
これは、客観的な計測です。
2ヶ月に1回のペースで開催している「読書会」では、この「ビート分析」をベースにしながら、「テーマ」や「描写」までを読み解いています。
また、読書会と同時に「合評会」として、参加者から提出されたプロットや作品をブラッシュアップすることも行っています。
どちらもストーリーサークルを実践的に活用している集まりです。ご興味のある方は、どうぞ、ご参加をお待ちしております。
過去の読書会は音声ファイルがあります→「読書会」一覧
緋片イルカ 2020/12/10