※あらすじはリンク先でご覧下さい。
※分析の都合上、結末までの内容を含みますのでご注意ください。
【ログライン】
傲慢なアスガルドの王子ソーは、自身の戴冠式を氷の巨人たちに邪魔されたことに激怒し、友人と共にヨトゥンヘイムへ報復に向かう。しかしその行動が王オーディンの怒りを買い、ソーはアスガルドを追放され地球へと転送される。地球に落下したソーは、天文物理学者ジェーンの助けを借りて、共に地球へ転送された武器ムジョルニアの元へ辿り着くものの、引き抜くことができない。自分には王の資格がないことを知り、絶望する。その後、ソーの元に現れたロキから「もうアスガルドへと戻ることはできない」と告げられるが、ソーを探しに来た友人からそれがロキによる策略だったことを知らされる。ソーたちはロキが地球へと送り込んだデストロイヤーとの戦いに臨むことになる。ソーは、事の発端である自身の命をロキに差し出したことで、傲慢さを捨てた王に相応しい人間となり、ムジョルニアの力を使ってデストロイヤーを撃破。アスガルドの異変を察知し、ジェーンと別れる。ロキは、ビフレストの力を使って氷の巨人を根絶やしにし、アスガルドを守った英雄となろうとするが、ソーはビフレストを破壊し、ロキの企てを阻止する。
【フック/テーマ】北欧神話/王の資質、傲慢さが身を滅ぼす
【ビートシート】
GenreSet「ジャンルのセットアップ」:「プロローグ」
アスガルドの民とヨトゥンヘイムの氷の巨人たちの戦争の歴史についてのプロローグ。アクションファンタジーとしての本作の世界観がセットアップされる。
Premise/CQ「プレミス」/「セントラル・クエスチョン」:「自分は王に相応しいのか?」ソーが物語の過程で傲慢さを捨て、ムジョルニア、ひいては王に相応しい人間となるまでの人間的成長の過程が描かれる。
want「主人公のセットアップ」:「戴冠式から王オーディンの怒りを買うまで」戴冠式に横柄な態度で臨む自信満々なソー。氷の巨人に邪魔されたことに腹を立て、王オーディンの忠告を無視して勝手に報復へと向かうが、多勢に無勢な中、ロキの忠告も無視して自らの鬱憤を晴らし強さを誇示するために戦闘を始め、仲間は怪我を負う。傍若無人で身勝手、自己中心的なソーを、オーディンは王に相応しく無いと考えて、追放する。
Catalyst「カタリスト」:「氷の巨人がアスガルドに侵入」戴冠式の最中、氷の巨人がアスガルドに侵入するが、デストロイヤーによって迎撃し、「箱」は守られる。
Death「デス」:「氷の巨人たちと交戦」ヨトゥンヘイムで氷の巨人たちと交戦し、ソーが戦いを続ける中、仲間たちは痛手を追う。
PP1「プロットポイント1(PP1)」:「アスガルドを追放」「ハンマーの力はふさわしき者が授かるであろう」という王オーディンの言葉と共に、ソーとムジョルニアは地球へと転送される。
Battle「バトル」:「ムジョルニアを探してクレーターに侵入」ムジョルニアを手に入れるためにクレーターに侵入し、警備員らと交戦する。
Pinch1/Sub1「ピンチ1」/「サブ1」:「ロキ:玉座で友人たちと会話」王を名乗るロキにソーの追放を取り消すよう頼む友人たちだが、ロキはこれを拒む。
MP「ミッドポイント」:「ムジョルニアが抜けない」ムジョルニアを抜くことができず、自分が王に相応しく無いことを知ったソーは絶望する。
Reward「リワード」:「王の資質について考える」傲慢なソーは、ムジョルニアが抜けなかったことではじめて自分に足りないものがあることに気づき、王の資質について考える。
Fall start「フォール」:「ロキから父の死を告げられる」地球に現れたロキは、父・オーディンが死に、ソーの追放を条件に氷の巨人との和平を締結したと嘘をつく。
Pinch2/Sub2「ピンチ2」/「サブ2」:「友人たちがソーを迎えに地球へ」友人たちはロキに逆らってソーを迎えに地球へ向かう。
PP2(AisL)「プロットポイント2」:「ムジョルニアを手にする」ソーは、発端である自身の命をロキに差し出したことで、傲慢さを捨てた王に相応しい人間となり、ムジョルニアの力を使ってデストロイヤーを撃破。
DN「ダーク・ナイト・オブ・ザ・ソウル」:「なし」自身の命をロキに差し出したことが、ソーにとってのオールイズロストと言えるが、それによって逆説的にムジョルニアの力が使えることになったため、リアクションとしてのダーク・ナイト・オブ・ザ・ソウルはない。
BB(TP2)「ビッグバトル(スタート)」:「ジェーンとの別れ、帰還」アスガルドの異変を察知し、地球からアスガルドに戻る。ジェーンと別れのキス。
Twist「ツイスト」:「ロキと決闘」ロキの狙いは、氷の巨人をも欺き、ビフレストの力を使って氷の巨人を根絶やしにすることで、自身がアスガルドを守った英雄となろうとすることであった。力で倒すことが全てではないと知ったソーは、これを食い止めようとする。
Big Finish「ビッグフィニッシュ」:「ビフレストを破壊、決着」ソーはビフレストを破壊し、ロキの企てを阻止する。ロキは自ら死を選ぶ。
Epilog「エピローグ」:「ヘイムダルとの会話」破壊されたビフレストを前に、ヘイムダルと会話。ヘイムダルの目にはフォスター理論の研究に打ち込むジェーンの姿が見えている。
Image2「ファイナルイメージ」:「エンドロール」宇宙を飛び交う映像。時空を超えた出会いの可能性についての示唆。
【作品コンセプトや魅力】
マーベルのマイティ・ソー初登場作品。北欧神話をモチーフにしたファンタジーの世界が、時空を超えた移動を可能にする装置・ビフレストによって現代のニューメキシコと繋がるという壮大なスケールで描かれるアクションファンタジー。物語の終盤でジェーンが研究に没頭する姿は、二人の再会を予感させる。
【問題点と改善案】(ツイストアイデア)
ソーとジェーンのストーリーが、ソー自身の成長と変化にほとんど関係していない点が腑に落ちない。ニューメキシコでもソーが傍若無人ぶりを発揮する姿はいかにもという感じがするが、結局はムジョルニアが抜けなかったことが彼に変化をもたらしたのであって、ジェーンはソーの成長においては傍観者である。ジェーンとどのように愛を育んだのかという過程についてもほとんど描かれないため(ジェーンにとって研究対象としてのソーがいつ愛する男に変わったのか)、PP2でのキスシーンは唐突に感じた。
ツイストアイデアとしては、ピンチ1でソーの傲慢さによってジェーンがなんらかの迷惑を被り、MPはそのままに、ピンチ2でソーが傲慢さを捨てた姿でジェーンの前に現れ、仲直りの印としてノートを渡すというもの。例えば、研究機材などをSEALDsに没収されるのではなく、その一部を激昂したソーが意図的、あるいは感情的に破壊してしまうとかである。激怒したジェーンはソーに態度を改めるように言うが、ソーはどこ吹く風。MPでムジョルニアを抜けなかった後、内省的になったソーはジェーンの喪失の大きさについて博士から知り、謝罪と共に偶然手にしていたノートをジェーンに返す。ここではじめて研究内容を知ったソーはフォスター理論に繋がる会話をする。二人は本作ではラブには発展しない。
【感想】
「好き」3「作品」3「脚本」3
ソー、ジェーン、ロキ、ソーの友人たちの四つの視点による群像劇として進行するが、どれも深い感情移入に至らないため、ただ視点の変更が忙しないように感じる。「問題点と改善点」でも記した通り、ジェーンのストーリーだけがソーの感情にあまり関係なく進んでいる印象があり、異世界アスガルドと地球との価値観のぶつかりや人間的な交流という趣向を期待していたところに十分応えてくれはしなかった。ロキとソーの確執についてもバックストーリーが幼少期の描写のみであるため、十分に感情移入できなかった。ロキの苦しみの原因であるソーとの確執についても、映像的に描写してほしかった。
好きな点として、北欧神話を翻案したソーのアイデア、ムジョルニアを使った戦闘、デストロイヤーの造形などアクション要素は概ね楽しく見ることができた。ジェーンが理論を完成させ、再び出会う未来を予期させるラストも自作以降への期待を膨らませてくれた。全体的にコンセプトやアイデアが魅力的で優位な企画であり、脚本が弱い点が惜しいように思う。
(さいの、2025/07/31)