映画『ファーストキス 1ST KISS』(三幕構成分析#279)

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※あらすじはリンク先でご覧下さい。

※分析の都合上、結末までの内容を含みますのでご注意ください。

【ログライン】

晩年不仲だった夫・駈を不慮の事故で亡くした硯カンナは、15年前の二人が出会った日に戻れる不思議なトンネルを使って、過去を変えることで駈を救おうと何度もタイムスリップするが立て続けに失敗し、どうしても駈は死んでしまう。ついには最初から自分との結婚を選ばないことで死なない未来を迎えるよう15年前の駈を説得しようとするも「死んでもいいから、君との結婚生活をやり直したい」と言われ、駈が死ぬまで二人は幸せな結婚生活を送る。

【フック/テーマ】
15年前の夫との恋/結婚相手に先立たれた悲しみ

【ビートシート】

Image1「オープニングイメージ」:「駈が電車に轢かれる」
線路に落ちたベビーカーを助けて電車に轢かれる駈の最期。(0分)

want「主人公のセットアップ」:「夫・駈と不慮の事故により死別したばかり」
部屋には駈の遺影と簡素な祭壇がある。インターホンの音で目覚めるカンナ、3年待ちのお取り寄せ餃子を受け取る。(1分)
餃子を冷蔵庫にしまうと写真が落ちる。若き日の駈とのキャンプでの一枚。(2分)

GenreSet「ジャンルのセットアップ」:「トンネルが崩落」
家で餃子を焦がしていると、仕事先である2.5次元ミュージカルの現場から小道具が破損したと呼び出しを喰らう。(7分)「餃子を焼く前に戻りたい」と呟きながら車に乗って高速道路のトンネルを潜ると、天井が崩落。15年前の高原のホテルの映像がフラッシュカットされていく。(8分)不可思議な出来事が演出され、SFとしてセットアップされる。

Premise/CQ「プレミス」/「セントラル・クエスチョン」:「駈の命を救えるのか」

Catalyst「カタリスト」:「15年前の高原のホテルへ」
気がつくと15年前の高原のホテルへ。(9分)自分と出会った日の駈と出会う。(12分)

Debate「ディベート」:「15年前の高原のホテルへ(2回目)」
駈と過ごした結婚生活が思い出される。恋に落ちて結婚したものの駈の晩年は不仲で、死んだ日には離婚届を出すことになっていた。二人が結婚してから駈が死ぬまでの回想。(16-25分)
15年前の駈と再び出会うためトンネルに向かうカンナ。(26分)

Death「デス」:「15年前の自分と出会う」
15年前の自分と鉢合わせしそうになり、命の危機を感じるカンナ。(38分)
動揺し、現代に戻る。

PP1「プロットポイント1(PP1)」:「再び15年前へ」
キャンプの写真に映ったとうもろこしが皮付きに変わっているのを見て、過去の行動を変えることで未来の駈の行動を変えられると気が付く。(42-44分)過去を書き換えることで駈の死なない未来を作るため、再び15年前へ。(45分)

Battle「バトル」:「過去を変えて駈を救おうとする」
列車に轢かれる直前の駈の行動を変えようとするカンナ。コロッケを買わせないようにしたり、本を注文させないようにしたり、パン屋を始めようとしたりと、何度も何度も過去へ。しかし駈の死を避けることはできず、未来は変えられないのではと半ば諦め始める。(45-61分)

F&G「ファン&ゲーム」:「過去の駈との恋愛」
自分のアドバイスを聞き入れてもらおうと建前として駈の気を引こうとするカンナだが、次第に15年前の駈との会話を楽しむように。

Pinch1/Sub1「ピンチ1」/「サブ1」:「なし」

MP「ミッドポイント」:「脱線事故のニュース」
カンナはわざとロープウェイのホームから転落し、緊急停止ボタンを押すよう駈に促す。(62分)
しかし駈の死は避けられず、あの日、駈が停止ボタンを押したことで脱線事故が起き、悼ましい事故が起きた未来に変わってしまっていた。(63分)

Reward「リワード」:「駈の死は変えられない」
過去を変えても駈が死ぬ未来は変えられないと気づく。

Fall start「フォール」:「里津がカンナの元を訪れる」
カンナは仕事場でトンネル崩落事故の復旧作業があと1日で終わる見込みというニュースを見る。タイムスリップがあと1回しかできないと悟る。(64分、Fall Start)そこに突然、里津がカンナの元を訪れる。会うなり「彼は幸せだったか」とあの日偶然出会った駈のシャツの襟が黄ばんでいたことを話し、自分と結婚していれば全てがうまく行っていたはずだと語る。(65-68分)

Pinch2/Sub2「ピンチ2」/「サブ2」:「なし」

PP2(AisL)「プロットポイント2」:「赤い糸を切る」
里津の話を聞いてカンナ、最初から駈が自分と出会わなければ助かるのではないかと考える。付箋紙が繋がれた赤い糸を切る。(68分)

DN「ダーク・ナイト・オブ・ザ・ソウル」:「二人で暮らした部屋を眺める」
「私たちは出会わない」「結婚しない」と言い切り荷物をまとめるカンナだが、部屋を出る前、ふと立ち止まって二人で過ごした部屋を眺め、逡巡する。(69分)

BB(TP2)「ビッグバトル(スタート)」:「里津と駈が結ばれるよう再び過去へ」
里津と駈が結ばれるようにするため、再び15年前の高原のホテルへ。(70分)

Twist「ツイスト」:「駈がカンナの正体を知る」

かき氷屋へ行くも足から落ちた「スズリカケル死亡」の付箋紙を駈に見つけられ、カンナの正体についてを詮索される。(81-86分)一度未来に戻って無かったことにしようとするも、15年前のカンナと鉢合わせして倒れ、駈に助けられる。(87分)ホテルの一室で話す二人。カンナは自分の正体を打ち明ける。(88分)

Big Finish「ビッグフィニッシュ」:「現代に戻る」
カンナは自分との結婚を選ばないことで死なない未来を迎えるよう勧めるも、駈は「15年後に君に出会えるなら結婚だって死ぬことだって間違いじゃない」「死んでもいいから結婚生活をやり直したい」と言う。(100分)誰もいないチャペルでキスをする二人。(101分)カンナ、現代に帰る。(103分)

Epilog「エピローグ」:「駈からの手紙」
15年前の駈、15年前のカンナと出会う。(104分)その後、二人は幸せな結婚生活を送り15年後、同じように駈は死ぬ。(108分)カンナ、死んだ駈が遺した手紙を見つけ、一人涙を流す。(112分)

Image2「ファイナルイメージ」:「餃子が届く」
駈が注文してくれた餃子が届く。遺影に向かって「いただきます、ありがとう」と語りかける。(118分)

【作品コンセプトや魅力】

王道のタイムトラベルものの文法を借りて展開する坂元裕二らしいラブストーリーが魅力の劇場作品。監督は塚原あゆ子、脚本は坂元裕二のタッグという地上波テレビドラマを代表する製作陣に加え、松たか子、松村北斗、吉岡里帆ら当代きっての実力派俳優陣が名を連ねる。

【問題点と改善案】(ツイストアイデア)

坂元裕二脚本の魅力は雑すぎるプロットアークと、丁寧すぎるキャラクターアークの魔術的な融合にあると思う。坂元裕二といえばいわゆる「何も起こらない話」の代表的な旗手であり、お得意の恋愛ドラマでは60分丸々、登場人物たちがウダウダ恋愛をするんだかしないんだかの悲喜こもごもを展開し、そのまま何も起こらずに終わったりする。終わりがけにようやくクリフハンガー的に何かが起こったかと思えば、次話の冒頭で登場人物の勘違いであったとかで済まされたりして、話は一向に進まない。そんな体たらくで終盤まできて流石にそろそろ出来事を起こさなきゃ物語が終わらないと焦ったのか、突如荒唐無稽な展開を起こしては、それに対するオチを着けて一件落着大団円で終わるという具合である。指摘したいのは、何も起こらなくても、というか何も起こらないからこそ描ける圧倒的に魅力的な人物描写が坂元作品の唯一無二の強みということである。
本作は「未来を変えるために何度も過去改変をするが失敗する」というベタすぎる王道タイムスリップSFの展開を借りている。坂元作品は展開ではなく描写で魅せるものであるから、確かに大きなプロットは借り物の文体で構わないし、その点では潔さすら感じる。描くべきは完成度の高いSFなどでは全くなく、坂元裕二にしか書けないラブストーリーであり、二人の15年間の結婚生活の悲喜こもごもなのである。その上での問題はやはり、120分という劇場作品の尺が地上波ほど何も起きないことに対して寛容でないと思ったのか、本作ではやや展開を作ることが優位になってしまい、これぞ坂元作品という人物描写が鳴りを潜めたように思う点である。
 そういう意味ではツイストアイデアとして、本作の世界を描くには地上波ドラマの方が向いていたのではないかと思う。何も起こらないことを許容されている尺と媒体を使うことでこそ、多くの視聴者が慣れ親しんだ坂元作品らしさをストレートに味わうことができたのではないか。複数回展開される回想を複数話に分けることで冗長さを避けられるし、触媒的に使われるのみとなっている吉岡里帆演じる里津や、森七菜演じる同僚の杏里との会話などを描くことに、視聴者の関心はあったように思う。いわば本作は地上波ドラマを二時間でダイジェスト的にまとめたような性急な仕上がりになっており、後にはベタなSFの趣向だけが色濃く残ってしまったように感じる。人物描写とのバランスを取ろうとして苦心した様は、セオリーに比べるとやや歪なビート配置にも現れているように思う。

【感想】

 ベタなSFの展開を借りて描写で作家性を発揮するという例だと『ブラッシュアップライフ』を思い出した。タイムトラベルの結果、家族で過ごす時間の大切さに気づくという展開から『アバウト・タイム〜愛おしい時間について〜』のことも想起した。
 個人的に、松たか子はかなり好きな女優である。それでも、松たか子が15年前の結婚相手である松村北斗と恋に落ちるというコンセプト、キャスティングにはあまり乗り切れなかった部分がある。「赤い糸」を切る場面などは演出にもチープさを感じてしまったし、王道でベタな展開に対し、人物までストレートな言葉を口にする場面が続くと、特にフォール以降、まるで凡庸な普通の作品を見ているかのような気持ちにさせられてしまった部分がある。それでも本作が良い作品だったと思うのは、坂元裕二らしい会話劇の妙を随所に感じられたからこそである。きっとこの尺に収めるまでにも沢山カットされてきたであろう珠玉のシーンの数々を、坂元ファンとしては妄想せずにはいられない。
「好き」3「作品」3「脚本」3

(さいの、2026.04.02)

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