キャラクターの設定資料にたくさんのことが書かれていても、読者・観客には伝わりません。セリフや行動として「シーンで見せる」ことによって初めて、キャラクターは動き出すのです。
前回は、言動を決定する以下の6つの要素を紹介しました。
1:知能:状況を判断したり、推理したり、対処法を考えたりする力の全般。
2:価値観:思想やポリシー。教育や経験から得た後天的な価値観。
3:気質:これは主に決断力や行動力に影響します。内向的・外向的。行動が早いか遅いかなど。
4:脳内辞書:これはセリフの言葉選びに影響します。
5:テンション:その時の気分。体調不良で苛々していたら人を助けようとは思えないかもしれませんが、ラッキーが続いてハイテンションであれば普段はしない人助けもしてしまうかもしれません。
6:目的:言動の結果として求めるものがあるかどうか、メリットがあるかどうかの動機など。会話であれば、相手に求めるものによって積極的になったり、無言になったりします。
今回から「知能」を中心に考えていきます。
これらの6つの要素は厳密に区分けできる訳ではないので「知能」に含めたものが「価値観」や「脳内辞書」に影響することは多分にあります。これは人間の本質を分類して型にはめてとらえることはできないのと同じです。それでもあえて、分類してとらえることで理解しやすくなったり、書くときに注意しやすくなるのです。
そこで「知能」をさらに細かく要素に分けて考えていきます。まずはわかりやすい年齢による知能の差を考えていきます。
「年齢差」
あたりまえですが子供と大人では物事の判断基準が違います。
大人にとっては金銭の損得や、社会的な善悪などが判断基準になったりしますが、子供ではその判断が未熟なことも多いです。
人間はおおよそ小学校3~4年ぐらいからは、だんだんと個としての判断基準が備わってきます(このあたりで言語能力の基礎が確立されてくると言われます)。
それ以下の年齢では、親の価値観やアニメキャラクターを模倣しているなど、自分の知能としては理解していない場合や、
わがままや心配といった本来の性格(言動決定要素③「気質」にあたります)に従っているだけの場合が多いのです。
例えば、次のようなシーン。
怪しい男「ねえ、お嬢ちゃん、一人? 好きなもの買ってあげるから、おじちゃんとあっちのお店に行かない?」
少女「ママに知らない人についていっちゃいけないって言われてるから」
この場合、セリフでは断っているが、少女本人には、付いていくとどんな目に逢ってしまうかなどは想像できていないかもしれません。
セリフだけですが、自然と小学校低学年ぐらいの少女が浮かぶのではないでしょうか?
次の場合はどうでしょう?
怪しい男「ねえ、お嬢ちゃん、一人? 好きなもの買ってあげるから、おじちゃんとあっちのお店に行かない?」
少女「へんたい、ロリコン! おまわりさーん!」
この少女は、いくらかの性的知識を持ち合わせているように見えます。「変態」「ロリコン」といった言葉も知っています(言動決定要素④「脳内辞書」に関連します)。
子供といっても年代によって知能のレベルはかなり違います。
自分で思考を組み立てて論理的に話すこともむずかしいでしょう。
たとえば、こんなセリフがあったとします。
母「なんで誕生日パーティーやりたくないの?」
子供「だってママ、仕事ばっかりで料理だって作ってくれないでしょ。ケンちゃんの誕生日には山盛りのごちそうあったよ。それも、ぜんぶケンちゃんのママの手作り。うちに友達なんて呼んだらはずかしいよ」
この子供、セリフだけで何歳ぐらいに感じたでしょうか?
少なくとも小学校低学年には見えないのではないでしょうか?
大人ですら、自分の考えていることや感じてることを論理的に説明するなんて簡単ではありません。
幼稚園ぐらいの子供であれば「いやなの!」で済ませてしまった方がリアリティがああるかもしれません。
また、物語としてはそういう展開の方が葛藤が生まれやすいのも想像がつくのではないでしょうか?
理性的で未熟な作者の物語は、登場人物がみな論理的すぎて、物語が淡々と進んでしまい、盛りあがりに欠けたり、ご都合主義の展開に見えてしまいます。
「文章テクニック」シリーズみたいに例文が多くなってしまいましたが、ともかく「知能」という要素に着目するだけでもキャラクターが変化することがおわかりいただければ、幸いです。
緋片イルカ 2019/07/03
次回はキャラクター概論6「言動決定要素①知能:職業差・経験差について」考えていきます。
構成について初心者の方はこちら→初心者向けQ&A①「そもそも三幕構成って何?」
三幕構成の本についてはこちら→三幕構成の本を紹介(基本編)
文学(テーマ)についてはこちら→文学を考える1【文学とエンタメの違い】
文章表現についてはこちら→文章添削1「短文化」
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