これまで言動決定要素について順番に考えてきました。前々回では「主人公のWANT」について、前回は「敵対者のWANT」について考えました。今回は両者を合わせてシーンにおけるWANTの変化について考えていきます。
【WANTの変化は気持ちの変化】
まずは例文を書いてみます。
妻「今夜はビーフシチューだよ」
鍋にはミドリ色の液体がどくどくと沸いている。
夫「お、おいしそうだね……」
やや誇張しましたが料理下手の妻と、それを我慢して食べている夫の日常です。夫の動揺から我慢が伝わります。このとき、妻のWANTは「手料理をふるまいたい」、夫のWANTは「ふつうの料理が食べたい」といったところでしょうか。このつづきのシーンは、夫が我慢して食べる様子につながりそうです。
夫のリアクションを変えてみます。
妻「今夜はビーフシチューだよ」
鍋にはミドリ色の液体がどくどくと沸いている。
夫「あのさ……前から言いたかったことがあるんだけどさ……」
堪えきれなくなった夫が「ついに文句を言う!」という気配を感じます。「文句を言いたい」「正直にまずいと言いたい」などにWANTが変化した瞬間です。
【夫のWANTを変化させたものは?】
物事の変化にはきっかけがあります。
長年つれだった夫婦ではなくて、恋人同士で初めて手料理をふるまう設定に変えてみると次のようになります。
女「お待たせ、出来たよ。ビーフシチュー」
男「おお、待ってました!」
鍋にはミドリ色の液体がどくどくと沸いている。
男「こ、これ……ビーフシチュー?」
女のWANT「手料理をふるまいたい」は妻と変わりませんが、男のWANTはシーンのはじめでは「彼女の手料理を食べたい」で、両者の目的は一致しています。
それが「ミドリ色の液体」をきっかけに、男のWANTが変化しています。
夫婦の例に戻るときっかけは何でしょうか?
ここには「キャパシティ」が関係しています。実は「テンション」の項目で説明し忘れていたものなのですが、ここで補足していきます。
【気持ちのキャパシティ】
キャパシティは容量。能力不足や我慢の限界を「キャパオーバー」という言い方をする人もいます。
キャラクターには、イライラや怒りのメーターのようなものを想像するとつかみやすいかと思います。
妻のまずい料理を食べさせられるたびに、メーターが溜まっていき、限界に近くづくと、赤く警告を発する。
そして、限界を超えてしまったときに、
夫「あのさ……前から言いたかったことがあるんだけどさ……」
と、なるのです。
キャパシティ自体の大小で我慢強いかどうかが変わりますし、キャパオーバーになったときの反応はキレるだけでなく、泣きだしてしまうとか、逃げ出してしまうといった個性に合わせたリアクションがあるはずです。
次回……キャラクター概論38「言動決定要素⑥目的:フラットなアークとWANTの変化」
緋片イルカ 2019/09/21
構成について初心者の方はこちら→初心者向けQ&A①「そもそも三幕構成って何?」
三幕構成の本についてはこちら→三幕構成の本を紹介(基本編)
文学(テーマ)についてはこちら→文学を考える1【文学とエンタメの違い】
文章表現についてはこちら→文章添削1「短文化」
「三幕構成について語ろう」という掲示板もありますので、ご自由にご参加ください。