変化させずに挽回させる(キャラクター論47)

人間ドラマで引っ張る

『ER 緊急救命室』が1994年からはじまって2009年まで、シーズン15も続いた超人気ドラマシリーズです。
タイトルの通り、急患が運ばれる総合病院の緊急救命室が舞台です。

話数も多いので、中だるみしているような回もありながら、ときどき神回と呼んでいいような素晴らしい回があって引き込まれてしまいます。

近年の、盛りあげようとして打ち切りになるような、あざとい引っ張り方ではなく、あくまで人間ドラマとして引っ張りつづけたところが、15年も続いた要因にあると思います。

そもそも緊急に病院に運ばれてくる患者達には、そもそもの事故や事件が絡んでいるので、人間ドラマをつくる土台がありますが、それとは別に医師や看護師達のプライベートのドラマもサブプロット的に展開されていきます。

まだシーズン2の途中までしか観られていませんが、そのなかで、とても参考になるキャラクターの描き方があったので、記事にします。

絶体絶命からの挽回

ドラマのセットアップはシーズン2の第6話から起こります。

ジョージ・クルーニー分する小児科医ダグ・ロスは、患者の子供思いの反面、スタンドプレイをするところがあり、周りとの衝突も多く、DVしていた父親を殴って訴えられたりといったエピソードもあるキャラクターです。

優等生的なスタッフドクターのマーク・グリーンとは親友で、この二人が衝突することはあまりありませんでした。

ところがダグが研修に来た女子学生と寝てしまったことから、マークの信用を失い、急患の処置をしている最中にも言い争いをするほど衝突が起こります。(学生と寝てしまうまでの経緯はその前の回で描かれていますが省略します)。

さらに、もともとダグのことを煙たがっていた上司達にも見放されクビを宣告されてしまいます。

ビートでいえば「オールイズロスト」、映画やドラマでのセオリー通りの絶体絶命です。

もちろん、観客としては、主要キャラクターであるダグが辞めるとは思っていませんが、ここまで落として、どう挽回するのかに興味を惹かれます。

そして、第7話。

ダグは新しい小児科病院を見つけて転職先を見つけます。周りは心配しつつも、本人の戻る気ももうありません。

どん底に落ちたかのように、雨の中、車のタイヤがパンクし、ポケットに入っていたマリファナを吸おうとしたところに事件が起こります。

慌てた少年が助けを求めてきます。兄が排水溝に足を挟んで出られなくなっています。

サスペンス的な救出劇のシーンは、どうぞ本編で観ていただければと思いますが、ここで、ダグは最寄りの救急病院ではなく、たまたま居合わせたマスコミのヘリを使って、自分の病院へ運ばせます(最寄りの病院にはICUがないという理由)。

結果的に少年は助かります(ただし、このドラマでは患者は死んだり助かったりなので、どうなるか予想できないスリルがあります。この回では同時に救命していた子供は死んでいます)。

マスコミがダグが救命する姿を生中継をしていたので、ヒーローとして表彰されて、病院にも居続けることができるようになります。

以上が、ざっくりとした流れです。

これを構成的に整理するなら、

・ダグがクビになる。

・少年を救い、ヒーロー扱いされる。

・病院側がクビを取り下げる。

というだけです。

このように書いてしまうと、よくあるパターンです。

しかし、半端なライターが書くと、やってはいけない失敗を犯しかねません。

それは「キャラクターを変化させる」ことです

キャラクターを変化させない意義

ほとんどの物語のセオリーではキャクター、とくに主人公を変化させることを黄金律のように書いています。

映画では7割ぐらいのストーリーで変化しています。

もちろん7割という数字は感覚ですが、8割だろうが、9割だろうが、すべての主人公が変化している訳ではないということです。

頭でっかちに三幕構成のセオリーばかり入れていると「変化させる」ことに拘ってしまいがちです。

「変化しないタイプ」のキャラクターをうまく扱えなくなります。

ダグがクビを宣告されてから、病院に残れることになるまでの経緯で、ダグはは変化していません。

変化したのは「病院側」つまり周りの人間です。

キャラクターではなく、周りが変化したのです。(これは僕がメシアプロットと呼んでる型のパターンでもあります)。

ダグは懸命に少年を救いました。それを原因として、周りに変化が起こりました。

けれど、ダグは「子供の患者を救うこと」には初めから懸命なキャラクターです。

物語テクニックとして重要なポイントは「キャラクターを変化させる」のではなく「キャラクターの魅力が引き出せる状況をつくったこと」なのです。

ダグがマスコミのヘリを使ったことは説明しました。

少年の容体が落ち着いたあと、親友のマークはダグに「僕ならヘリには乗せられなかった」と言います。

セオリー通りではダメなことがあるのです(物語論も)。

「キャラクターを変化させない」ことに拘ることでも、魅力的な物語はつくれます。

また、マンガやテレビドラマシリーズでは、変化したキャラクターは役割(ロール)が変わります。

もしも、ダグが優等生になってしまったら、物語ではマークと重なって、どちらかのキャラクターは不必要になってしまうのです。

こういうミスを犯しているシリーズものは多々あります。

そういう意味でも、ダグは変化させてはいけないのです。

長いシリーズですが、飽きるまでは、ひきつづき観ていこうと思います。

緋片イルカ 2020/12/11

※Wikipediaによると、ここで挙げたシーズン2第7話は全シーズンで最高視聴率だった回だそうです。

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