言動決定要素の「テンション」について考えています。前回、キャラクターコアとテンションの関係を考えましたが、今回はスキーマという観点から同じことを考えてみます。
【スキーマとキャラクターコアは似たもの】
スキーマとキャラクターコアについては以前にも記事にしました。
スキーマというのは心理学の概念で、キャラクターコアはイルカの造語です。スキーマのことを専門的には知らないので、同じものと言い切ることはできませんが、ほとんど同義であると感じます。
ただしスキーマ療法では治療の必要な患者を対象にスキーマを見ているので、ネガティブなものが中心になりますが、キャラクターではそんなことはありません。
たとえば少年マンガの主人公のような「いつも前向きな熱血主人公」は「死んだお父さんとの約束」といったポジティブなスキーマを持っていたりします。
ともかく、スキーマでも、キャラクターコアでも、呼び方は何でも構わないのですが、人間には深い部分で行動原理となっているものがあったりするもので、それは主に幼少期に形成され、大人になってから、それ自体を変えることは不可能あるいは、かなり難しいことであるということを押さえておきましょう。
【コーピングスタイルとスキーマモード】
コーピングスタイルというのは「スキーマに対してどう対処するか」です。
前回あげた例で考えてみます。
主人公は「お金は人を不幸にする」というスキーマを持っています。
だから「宝くじで1億円あたる」ことは彼にとってはストレスに感じられます。
そのとき「過剰補償」「回避」「服従」という三種類の反応があります。
これをわかりやすく言い替えるなら「闘う(fight)」「逃げる(flight)」「麻痺する(freeze)」の3つのFです。
「過剰補償」する場合は、自分の不安を隠すように「お金で不幸になることはない!」という態度をとって、幸せなフリをします。
たとえば、手に入った1億円で豪勢なパーティーなどを開いて「ほら、幸せじゃないか!」という態度をとるのです。
「回避」する場合は、「1億円あたった」という事実から逃避します。
たとえば、せっかくの当たりくじを捨ててしまったり、当選番号を見まちがえたのだとなかったことにしようとします。
「服従」する場合は、スキーマの言いなりになることです。この場合、お金で不幸になるような行動をとることになります。
たとえば、怪しいと感じている相手に従って騙し取られたり借金を背負わされ「やっぱり不幸になる」という行動をとります。
詳しくはこちらの記事をご覧ください→ざっくり読書6⑤『スキーマ療法入門』伊藤絵美(コーピングスタイルとコーピング反応)
スキーマモードは状況によって、活性化しているスキーマやコーピングスタイルがが変化することをいいます。スキーマモードについてはこちらの記事をご覧ください→ざっくり読書6⑥『スキーマ療法入門』伊藤絵美(スキーマモード)
こちらが「テンション」に関連してきます。
【笑っていた人が、突然、怒り出す】
たとえば、こんな人を見たことないでしょうか?
(謙遜した態度で)「いや~僕なんか全然ダメですよ。勉強が足りませんから……」
「たしかにちょっと勉強時間は足りないかもしれませんね」
(ムっとして)「え、どうしてアナタにそんなこと言われないといけないんですか?」
自分を卑下する発言をしていた人に、その人の言葉を受けて意見を述べると、とつぜん態度が変わる。
こういう急激な変化を示すときは、その人の中でスキーマモードの変化が起きているといえそうです。
彼は「自分がダメなやつ」というスキーマを持っていて、はじめは「服従」しています。
ところが相手から同じことを言われたときに「過剰補償」(闘う)のモードに切り替わり、急に感情的になったのです。
ちなみにカウンセリングの傾聴技法に「繰り返し」というのがあり、クライエントの言葉をくり返すことで、クライエント自身に感じさせるというものがあります。
他の技法に「沈黙」というのもあります。これを会話に応用するのであれば、
(謙遜した態度で)「いや~僕なんか全然ダメですよ。勉強が足りませんから……」
「……」
(ムっとして)「ちょっと、どうして何も言わないんですか? ちゃんと聞いてました?」
となります。いずれにせよ、スキーマモードが変化して、突然に態度が変化したのです。
こういったキャラクターを描くのは、身近に参考になる人がいたり、心理学に精通していないと難しくありますが、この急激な態度の変化は読者にインパクトを与えます。
「この人は何か問題を抱えてそうだな」と興味を持ってもらえます。
これは説明的なセリフではなく、描写によってキャラクターを描いていくテクニックにもつながります。
次回……
緋片イルカ 2019/09/11
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三幕構成の本についてはこちら→三幕構成の本を紹介(基本編)
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