来週の読書会に前だって「ツイスト」と「ターンオーバー」というビートを説明しておこうと思います。
用語の前提
「ツイスト」はハリウッドでも使われる用語ですが、明確な定義はありませんし、「ビート」としても扱われません。
言葉のとおり、ストーリーに「ひねりを加える」という感覚的な意味として使われています。
ちなみに、当サイトで紹介している「デス」、「バトル」、「ビッグバトル」もハリウッドで使われる用語ではありません。また「ピンチ1」や「ディフィート」も、ブレイク・スナイダーやシド・フィールドが使っている言葉ですが、ビートシートとしては扱っていませんので、ご注意ください。(三幕構成の本を紹介(基本編))
「ターンオーバー」は僕のオリジナルです。「ひっくり返す」という意味から「ビート」の一つとして扱っています。
日本では「どんでん返し」という言葉がありますが、これには構成上の定義もなく「驚くような展開」ぐらいの意味しかないようなので、区別しておきたいと思います。
また、リンダ・シーガーは『ハリウッド・リライティング・バイブル (夢を語る技術シリーズ)』の中で「リバーサル」という言葉を使っていて、以下のようにあります。
アクション・ポイントの中で最も強力に働くものはリバーサルだ。リバーサルは180度ストーリーの方向を変え、ポジティブからネガティブな方向へ、あるいはその逆へと動かす。また、リバーサルはたいていのターニング・ポイントよりも強力だ。ほとんどのターニング・ポイントはストーリーの方向を変えはするが、180度の逆転はしない。リバーサルは完全な逆転なのだ。
この説明は「ターンオーバー」の定義としては同等なのですが、リンダ・シーガーのその後の具体例を読むと、やや感覚が違うので別の言葉にすることにしました。
以下、具体的に「ツイスト」と「ターンオーバー」、それと「プロットポイント1」との違いを比較しながら定義していきます。
捻じれの角度
「ツイスト」の「ひねりを加える」という意味はとても幅が広いです。
そこで、具体例を挙げながら「捻じれの角度」を想定してみます。
たとえば「朝寝坊をして、学校に遅刻しそうで、慌てて向かう」というシーンがあるとします。
すんなりと「ギリギリセーフで間に合った」というのが「ツイスト」が全くない運びです。
これに5°ぐらいの捻じれ(ツイスト)をくわえるとしたら(数字はあくまで感覚的です)、
5°「学校に着いたら靴下を左右まちがえていた」「走ってる途中に躓いて膝をすりむいた」
といったことです。
遅刻せずに間に合うというストーリーの進行には影響がありませんが、少しだけ変化が起きているのです。
これによって、クラスメイトからからかわれたり、誰かがバンドエイドをくれたりといったキャラクターのリアクションを引き起こせます。
構成上では「遅刻しそうになるが、学校に着く」なので「ツイスト」が、あってもなくても同じですが、面白味ではぜんぜん違います。
構成がどんなに上手につくれても、こういう面白味をくわえられなければ、味気ないストーリーになってしまいます。
ツイストの角度を30°ぐらい捻じってみるとどうでしょうか?
30°:「駅に着くと電車が人身事故で止まっている。たまたまバイク通学のクラスメイトが通りかかって乗せていってもらう」
ここでも、結果的には「遅刻せずに到着しています。ただ、走って間に合ったよりも、少しひねりがあります。
イメージとしては、飛行機の前に岩が現れて、機体を捻じって片翼を挙げて、かわすような感覚です。
このように「ツイスト」は物語の進行を止めません。
それに対して、飛行機の進行方向を変えてしまうような「ビート」は「プロットポイント」です。
岩場を避けられなかった飛行機は、カーブして大きく進行方向をそれてしまうイメージです。
プロットポイントの例:駆込み乗車で電車には間に合ったが、学校とは反対方向の電車だった。主人公は学校をサボることを決める。
プロットポイントで主人公は「非日常」に入っていくので、構成上の展開が大きく変わります。
次に「ターンオーバー」です。
これは「それまでのストーリーの前提をひっくり返すような展開」です。
多くの人になじみ深いのは「夢オチ」「妄想オチ」と呼ばれるものです。
夢オチ:「遅刻する!……と思ったら、夢で今日は日曜日だった」
妄想オチ:「遅刻する!……と考えていたが、まだ前の日の夜で、明日、遅刻しないように準備しよう(「遅刻する!」を過去のことにして回想でも同じ)」
「ターンオーバー」では、物語の進行方向が変わるどころではなく、全く別の次元に移動します。
飛行機のイメージでいえば、カメラがスーッと退いていくと、その飛行機は「実はゲームの画面だった」のようなことです。
「ツイスト」「プロットポイント」「ターンオーバー」の違いをご理解いだけたかと思います。
「ターンオーバー」は両刃の剣
「ターンオーバー」は両刃の剣です。
おそらく「夢オチ」を初めて使った物語は、おおいに驚かれたことでしょう(何かは知りませんが、神話の頃からあると思います。夢というのは原始的かつ本能的なものなので)。
「実は○○だった」といったオチが有名な作品はたくさんあります。
一方で「夢オチ」という言葉は、くだらないオチや強引なオチの代名詞のようにも使われます。
失敗すると「駄作」のそしりを免れません。こういう例は嫌というほど探せます。
次回の読書会で扱う『アクロイド殺し』も「ターンオーバー」のあるミステリーです。
もちろん成功事例の「ターンオーバー」です。
あのオチを「初めてやった例」ではないそうですが、代表作になったのは、それだけ「上手くやった」からです。
成功例ゆえに、のちに、現代まで、類似の「ターンオーバー」を使った作品が創られてつづけて、今ではさほど新しさを感じないようになったほどです。
構成や「ビート」の原理がわかってくると、「ターンオーバー」をどこに配置するべきか、どうすると効果的に「機能」するかがわかってきます。
次回の読書会では、有名な成功映画を挙げながら、そのあたりも解説しようと思っています(※ただし読書会報告の音声からはカットする予定です)。
緋片イルカ 2020/11/11