初心者の方はこちらからどうぞ→初心者向けQ&A①「そもそも三幕構成って何?」
前回は「ターニングポイント2」というビートについて考えました。
主人公は「プロットポイント1」で冒険に出て、「ミッドポイント」で「宝物」を得て、「オールイズロスト」で「旅」がおわります。
村に宝物を持ち帰った主人公の多くは英雄でありながら、むなしさを感じます。村を出て成長した主人公のことを、待っているだけで「旅」をしていない村人達には理解ができないからです。ときには危険人物扱いされたり、ロシアの魔法民話では偽者が評価を得たりします(※「ウラジミール・プロップの31の機能」参照)。
その状況へのリアクションとして、一度落ち込むことがあり「ダークナイトオブザソウル」というビート(僕はオールイズロストに含みます)が入ることもありますが、主人公の性格や状況によっては、ほとんど落ち込みません。(「スターウォーズⅣ」ではオビワンが死んだと思い、落ち込んでいるルークのシーンが数秒だけありますがほとんど印象に残りません)。
そして「ターニングポイント2」で決断をしてアクト3へと入っていきます。
アクト3は映画のクライマックス、最終決戦というイメージです。
「SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術」では、アクト3のビートは「フィナーレ」のみでここに25頁分(1分=1頁)費やすと書かれています。
その後、シリーズ三冊目である「」SAVE THE CATの逆襲 書くことをあきらめないための脚本術では作者の講習会などで一つのビートで25頁書くのが大変という意見に応えるかのように、さらに5つのビートに分解しています。以下に紹介します。
1「チームをつくる」Gathering Team
2「計画を実行する」Executing The Plan
3「高くそびえる塔の驚き」The High Tower Surprise
4「深く、掘り下げろ」”Dig, Deep Down”
5「新プランの実行」The Execution of the New Plan
詳しくは知りたい方は著書を参考にしていただければと思いますが、要約すると最終決戦のために1「チームをつくり」、2「計画を実行」するが、一度は失敗(=3「高くそびえる塔の驚き」思っていたより塔は高かった!)、4「深く、掘り下げろ」は作戦を練り直し、5「新プラン実行」では勝利を得るというだけのことです。
このビートはアクションやクライムサスペンスのようなジャンルにはぴったりと当てはまるものもありますが、全く当てはまらない映画もたくさんあります。つまり物語論としてのビートは抽象度が低いので、すべての映画には当てはまりません。機会があれば、いずれお話しようと思いますが、抽象度を下げて、具体的なパターンとしてプロットタイプという考え方もあり、その場合は、この5つのビートがしっくりくるものがあります。
抽象度を高めてみると、最終決戦の中で「一度失敗する」というだけのことです。こういうストーリー上のひねりを入れることを「ツイスト」と呼びます。これはビートの本来の「叩く」という意義で考えたとき、25分も使うのであれば、最低一つはストーリーに変化や驚きが欲しいという意味で考えれば自然なことです。
アクト3はシンプルで最終決戦にじっくり時間をつかって盛り上げる。その中でも最低1つは変化をつけること。
それが「フィーナーレ」あるいは「ビッグバトル」のビートの意義です。
ここまでは「Save the Cat」を理解していただければわかること。ここからが本題。わざわざ「ビッグバトル」と呼び変える意義の説明です。
それはアクト2のビート「バトル」との関連を持たせることが重要ということです。
たとえば、こんな話をどう感じるでしょうか?
「ある殺人事件を捜査しているハードボイルドな探偵。犯人を追っていくうちに真犯人を突きとめる。犯人は地球征服をたくらむ宇宙人であったとわかる(=プロットポイント2)。犯人は仲間を呼んで大量のUFOが地球に攻めてくる。探偵は戦闘機に乗り込み、命をかけて地球を守る」
後半に違和感を感じないでしょうか? ラストの意外性に面白くかんじてしまう方もいるかもしれませんが、書いてみると失敗することが多いと思います。『メン・イン・ブラック』」のようなコメディを思い浮かべた方はハードボイルドというイメージを読み落としています。
ハードボイルドな探偵が犯人を追うミステリーの部分が面白ければ面白いほど、ラストの展開に悪い意味で裏切られたと思ってがっかりするはずです。あるいはアクト3の宇宙人とのアクションが面白ければ、前半のミステリーが「なんだったんだ?」と茶番のように感じて違和感をおぼえるはずです。(ただし10分以内のショートムービーであれば処理可能です)
これは、アクト2の「バトル」がミステリーとして捜査しているのに、アクト3の「ビッグバトル」がアクションになってしまっているからです。
こういった勘違いは、アマチュアだけでなく映画化された作品でも見受けられます。予算をかけた映画だとラストがド派手なので、許せてしまう観客も多いと思いますが感動はできません。脚本が未熟だとも言えます。
「ビッグバトル」(つまりはアクト3)に成功している例と、失敗している例を1つずつあげます。
成功している例は『セブン』です。
この映画はアクト2の「バトル」は犯人を捜査するミステリーの展開になっています。ちなみに真犯人が顔見せするのが「フォール」のタイミングで、ここまではセオリー通りです。
普通のミステリープロットと違うのは「オールイズロスト」です。通常のミステリーであれば犯人に目星がつくタイミングで、犯人の方から自首してきます。これによって観客は驚くとともに「犯人が誰だ?」というミステリーが終わります。その代わりにビッグバトルは「犯人の狙い(七つの大罪に基づく殺人)が成功するかどうか?」というサスペンスへと変わります。ミステリーとサスペンスは似てるジャンルなので転換がしやすいのはもちろんですが、前半から「こんな連続殺人をするのはどんなやつで?何の目的で?」というフリがきちんとあって、その延長としてアクト3があるので、全くブレないのです。
さっきの「ハードボイルド探偵が宇宙人を戦う話」でも前半で「探偵が元パイロットである」とか「人間とは思えない殺人だ」といったフリを入れておけば処理をすることは可能だと思います。ただ、どうしても2つを合わせないと描けないテーマがあるのか?は問い直すべきだとは思います。必要な説明が多くなる場合は、ムダにストーリーを遅らせることになり、結局、2本別の映画を作った方がシンプルで面白くなることの方が多いとは思われます。面白半分にキメラな映画をつくるのは安直な発想だということです。
アクト3に失敗している例はオールイズロストでもあげた『ズートピア』です。
完成度は高くセオリーにもかなり忠実である反面、ビートの表面的な意義に拘りすぎてもったいない映画だと感じます。キャラクターや世界観が魅力的であるが故にもったいないと感じてしまうのです。
この映画のアクト2のバトルはやはり「捜査」です。48時間以内の犯人を見つけないとクビというタイムリミットもつけているのもセオリー通りです。同時に映画全体のテーマとして「肉食動物」と「草食動物」の共存や、「ウサギには警察はムリ」という差別に屈しない主人公ジュディの魅力があります。
それがアクト3では犯人と対決するミステリーの処理だけになっています。セオリー通りツイストとして「真犯人」が現れますが予想通りの真犯人です。「子供向けだから」というのはディズニーが本当に目指しているところではないと思いますので、やはり脚本の失敗と言えると思います。
アクト2の「バトル」とアクト3の「ビッグバトル」を関連させるという意義を持っていたなら、「共存」や「差別」を掘り下げたアクト3が作れたはずです。
『アナと雪の女王』しかり、ディズニー映画ではMPまでは完璧な展開でありながらラストの持っていき方で失敗してしまっている映画をよく見ますが、ストーリー会議を重ねすぎて方向性を見失っているのかもしれないと勘繰ってしまいます。
さいごに物語論として、まとめますと「ビッグバトル」は、主人公が「旅」で学んだこと(比喩的には得てきた「宝物」)を証明する戦いだということです。ロシアの魔法民話で言えば、本当の英雄が誰かを証明して偽者を打ち破ることになります。
『ズートピア』では真犯人を捕まえながらも、ジュディとニックの行動によって人種が違えど共存ができることをしっかりと証明するべきでした。
『セブン』では、犯人を捜査していた警察官ですら殺人を犯してしまうことで、人間の弱さや正義のあいまいさが証明さてしまいます。
アクト3をしっかり作るには、MPで主人公が得た「宝物」が何なのか?をしっかり作者が自覚している必要があり、そのために英雄は何をするべきなのかを考えることです。予算をかけた演出で派手にすることがクライマックスではありません。
何かご意見、ご質問などありましたらコメント欄にどうぞ。
★まとめ:
・「ビッグバトル」は20~30分かけてよい。ただし途中で変化となる「ツイスト」を入れる。
・「ビッグバトル」にはアクト2で「バトル」との関連を考える。
・「ビッグバトル」は主人公が「旅」を経た英雄であることを証明するための戦い。
・やみくもに派手にすることがクライマックスではない。
イルカの音声解説はこちら(※しまうまさん抜きで録音しています)
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