分析表では、上下のようにアークを折れ線グラフに表してテンションの上下を表現します。
その感覚を掴んでもらうため、2024年1月の分析会で「ジェットコースターのコースを書いてもらう」という遊びをしてみました。
上記の紙にジェットコースターの上下を想像しながら、フリーハンドで自由にアークを書いてもらうというものです。
スタートは左下の白丸。ゴールは自由です。
ニュートラル
参加者の結果が以下です。ご本人の許可を頂いて掲載しています。
※ペンネームで「脚本太郎」を名乗っているくせに「脚本」の漢字を間違えるな!とツッコまれていました。
映画としてのアークを意識して書いている方もいますし、純粋にジェットコースターのコースとして書いている方もいます(どちらでも構わないと伝えています)。
どちらとして考えるにして「お客さんが楽しめるか?」は大事なポイントです。
「山が少ない」「頂点が低い」「単調で繰り返している」などは、ジェットコースターとしては物足りないといった印象を与えてしまうかもしれません。
映画でも同じです。
アクション映画なのに、アクションが地味で平凡だったら?
スリルは不足していると言えるでしょう。
もちろんレトロな遊園地にあるような個性的な味わいがあるコースターもあるかもしれませんが、それは論理がズレるので置いておきます。ここでは、あくまで、ジェットコースターに求められるものを「スリル」と想定しての話をしています。
「スリルが不足している」がしっくりこない人は、単純に「楽しくない」「魅力がない」と言い換えてかまいません。
映画でいえば、スリルがなくても味わいがあるというのは、ストーリーがつまらないけどキャストは魅力的といった作品のようなものです。アークはストーリーの話です。
アークにおけるもう一つのポイントは「平行移動」です。
ジェットコースターで真横に移動しているだけでは楽しめないように、映画で上がりも下がりもしないシーンは迫力が無い可能性があります。
落下の前の焦らし(映画でいば嵐の前の静けさ)は有効ですが、いつまでも高く登らない(登らなければ落下もしない)ジェットコースターは物足りないでしょう。
平行移動は、映画でいば「説明的なシーン」かもしれません。
裏を返すなら「シーンとは常に上か下に向かっているものだ」と言い切ってしまってもいいのかもしれません。
すると「どこで頂点に到達するのか?」というのが次のポイントになってきます。
それこそビートの基本セオリーです。
スリーポインツ有
2枚目ではスタート、ゴールは一緒ですが、通過地点として3つの点を用意しました。
この点を通過して同じように書いてもらいました。
MPで頂点に達するように設定してあるので、必ず盛り上がる地点ができます。
さらにPP2では一度、落下しているので、その後はもう一度、上昇していく流れに自然となります。
通過地点として指定はしませんでしたが、映画でいえば3つ目の点(PP2)の後はアクト3であり「ビッグバトル」なので、MPと同じぐらいに盛り上がって欲しいところです(※「映画としては」の話で、ジェットコースターとして書いている人もいるので、参加者の誰のアークがどうという話ではありません)
このように盛上がる地点を決める発想が、創作のセオリーです。
ビートを活用することで、安定したエンターテイメント性を確保できることに繋がります。
また、ビートを表面的にしか理解していない人は構成のテクニックを「型にハマる」とか「同じような作品なる」といった批判をしますが、上記の皆さんのアーク(コース)を見てもわかる通り、一人として同じものになっていません。
この記事では詳しく説明しませんが「型にハマる」のはクリシェなシーンが多いせいです。構成のせいではありません。むしろビートがしっかりしていれば、クリシェなシーンばかりでも、そこそこのエンタメ性が担保できてしまいます。ジェットコースターでいえば「個性的だけどスリルがない」のと「ベタだけどスリルがある」のと、どちらがジェットコースターとして人気があるか?ということです。
「MP」と「ビッグバトル」で頂上へ到達させるのは基本セオリーではありますが、なぜ2回なのでしょうか?
映画の平均時間120分では物理的に、それぐらいがちょうど良いという経験則に基づいています。
テクニックがあれば120分でも山を3つ4つ作れる可能性もあります。
「2つでなければいけない」など誰も言っていないし、誰かが言っていたとしても従う義務もありません。
面白く作れて観客が楽しんでくれるなら、それに越したことはありません。
しかし、ジェットコースターでも物理的に上昇可能な角度と距離があるでしょう。
10分ぐらいのショートムービーでは、なかなか高さを出しづらいのと同じです。
120分を超える長編では、基本セオリーだけでは間延びしてしまう可能性もあります。
また、上下回数が激しすぎても観客は楽しむより気持ち悪くなってしまうかもしれません。
ストーリーでいえば展開が慌ただしすぎて、何が起きているかわからず、ついていけないといった状態でしょう。
多くの映画は、そもそも頂点まで登り切れていません。
例えば「感動的で思わず観客が涙を流してしまうようなシーン」が一つの頂点だとすれば、そんなシーンが1回でもあれば、それだけで十分に良い作品といえるでしょう。
高い地点=感動まで登りきらないうちに落下してしまっている作品がたくさんあります。簡単なことではないのです。
しっかりと頂点まで登らせる心掛けが大切です。
ダウン型
前の2枚では、スタート地点を左下に置きましたが、3枚目では左上に置いています。
通過地点になるスリーポインツも、2枚目と対象的な配置にしました。
MPで「どん底」に落ちるように置いてあります。
落ちるところまで落ちれば、あとは上がるだけです。
登るところまで登れば、あとは落ちるだけ、と同じです。
映画によってはMPで主人公がどん底まで落ちているものもあるので、頂上というよりどん底と捉えた方が掴みやすいことがあります。
ただし、本質的には「行くところまで行って、折り返しが始まる」というだけなので、同じです。
このようにアークを縦にすれば、右か左かの違いだけです。
「ヒーローズジャーニー」の感覚で言い換えるなら、しっかりと遠いところまで行くことが冒険です。
キャラクターについて少し触れましたが、これまでの3枚で書いてもらったアークは「プロットアーク」に基づきます。「キャラクターアーク」ではありません。
キャラクターアークとプロットアークの違いについては、ここでは触れませんので中級編の記事にてご理解ください。
参考:プロットアークとキャラクターアーク
また『ベストセラーコード』の7つのアークは小説のテキストマインニングですから、どちらとも言い難いものがあります(おそらく一人称小説ならキャラクターアーク、三人称小説ならプロットアークに近いのでは?)。映画に使えるものも、使えないものもありますが参考にはなります。
キャラクターアークとしては変化しない「フラットなアーク」もありますので、しっかりと区別して理解するのが望ましいですが、違いがわからない人はまずは初級編としての「どちらでもいいからビートをとる」ことをオススメします。
作品によっては「キャラクターアーク」と「プロットアーク」が一致しているものもあるので、その場合は、どちらかということは気にならないと思います。
緋片イルカ 2024.1.22
アークを書いてみたい人は下記のファイルをどうぞ。
Arcseat