『韓国式ストーリーのつくりかた』
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全体感想
『ストーリーテリングで観客の心をつかむ映像演出101』に続いて、ストーリーに関する韓国の翻訳本が出ていた。韓国ドラマの作り方は日本とハリウッドの中間的に感じるうことがあり、気になっていたのでチェックした。用語は違えど、基本的な考えはビート的な捉え方だが、だからといって一緒という一言で片付けてしまうのは安直。テレビドラマへの応用(60分尺への応用)として、一つの型としては参考になる。それだけで、すべて書けるわけではないのは、ビートと同じ。引き出しを増やすという意味では、読んでおいて損はない本。章の前半、後半などは、脚本家を目指す人への心構えや勉強法のようなことも書いてあり、内容は日本でも同じだと思うが、節々から感じたのは、日本より「脚本家」というものの地位が高く(収入も多い)、憧れる人、志望者も多く、競争が激しいということ。そこがハリウッドに近い。アマチュアのライターには参考になると思う。書きたいものを書くとか、自分の世界を表現するとかでなく、仕事として脚本を成立させるということ。その他、ビートとの比較や印象に残った文など、以下に引用。
引用
主人公には、カーニバル性が必要だ。
カーニバル性とは、主人公をみずからが祭りの主役になり、本能、潜在意識、喜びや悲しみのエネルギー、夢、欲望、自由などが紛失する瞬間のことをいう。(p.94)
カーニバル性と言うとバフチンの「グロテスク・リアルリズム」などを連想して興味深かったが、この本で用いられているのはカーニバルというよりは、「カタルシス」シーンだと感じた。本サイトで記事にはしていないが、サブビートに「主人公のカタルシス」というのがあるが、それに近い(サブビートというのは、基本のビートシートには入らないが、ストーリーのタイプやジャンルによって入るビート)。主人公への掘り下げが甘いストーリーでは「主人公のカタルシス」あるいは、この本で言う「カーニバル性」は参考になると思う。
バフチンの参考:書籍『新しい文学のために』④新しい書き手へまで(14~16章)
多くの作品の中で、主人公の性格の変化の曲線「キャラクターアーク(character arc)は、そのまま「ストーリーテリングの変化の曲線(storytelling arc)」をつくる。主人公の性格の変化がストーリーを展開させるのだ。(p.98)
「キャクラーターアークはストーリーテリングの変化の曲線をつくる」ではなくて、厳密に言い換えるなら、「多くのキャクラーターアークはストーリーテリングの変化の曲線をつくる」となるべき。キャラクター優先にすること、キャラクター=ストーリーと考えてしまうことが、当サイトでは何度も指摘しているハリウッド式の欠点であり、キャラクターのアークと、ストーリーのアークは一致するものもあるし、別々に2本走っているものもある。この視点を持たないと、群像劇などがうまく分析できなくなる(一例としてセーブザキャットの『クラッシュ』の分析など無理がある)。この本ではせっかく「ストーリーテリングアーク」という呼び方を提示しておきながら、その後の内容でも、ハリウッドと同じ主人公のアークを中心にするというところで留まっているのがもったいない。なお、当サイトでは「ストーリーテリングアーク」に相当するものを「プロットアーク」と呼んでいる。
キャラクターアークには次のようなものがある。
・成長アーク:平凡な少年が優れた魔法使いに成長する「ハリー・ポッター」シリーズのように、ストーリーテリングとキャラクターの成長が同じ方向に進む。ドラマ『恋のスケッチ~応答せよ1988~』でも、登場人物たちの成長過程が構成の大枠となっている
・堕落アーク:善良な青年が犯罪組織を率いるようになる『ゴッドファーザー PART2』のマイケル・コルレオーネのように、キャラクターがネガティブな方向に変わっていくストーリー
・変身アーク:娘が学校でいじめられていると知って女子高生に変装した母親(キム・ヒソン)が出てくるドラマ『ラブリー・アラン』のように、変身アークによって主人公の服装・外見だけでなく内面まで劇的に変化する
・自分探しアーク:自分は何者なのか、何を望んでいるのかをキャラクター自身が探し出すストーリー。映画『キャスト・アウェイ』でトム・ハンクスが演じたチャック・ノーランドは、無人島に一人残されたサバイバルの過程で、自分自身を再発見する。彼が出演した『フォレスト・ガンプ/一期一会』も代表的な自分探しアークの作品であり、『未生―ミセン―』のチャン・グレも最後まで自分自身を探求するこの他にも、英雄の旅路アークの「スター・ウォーズ」、復讐アークの『キル・ビル』、『復讐の女神』、拘束と解放のアーク『ショーシャンクの空に』、冒険アークの『インターステラー』、犠牲アークの『タイタニック』、『ミスター・サンシャイン』があり、『復讐代行人~模範タクシー~』や「007」シリーズのようにキャラクターが大きく変化しない平坦アークもある。(p.98)
キャラクターアークとプロットアークを混同しているので「成長」「堕落」のように変化のパターンをっているものと「自分探し」や「変身」などストーリーのコンセプトに該当するものが、ごちゃまぜにして「アーク」と呼んでいるので、わかりづらい。以下に当サイトの考えを示しておくと、キャラクターの変化の方向性だけを言うなら、ポジティブ、ネガティブ、フラットの3本しかない。これは極めて単純な話で、主人公のスタート地点を数字のゼロとして、プラスに変化したならポジティブ、マイナスに変化したならネガティブ、変わらなかったらフラットということである。変化というものを構造的にとらえるなら、これ以外はない。
また、「自分探し」「変身」「旅路」「復讐」……のように、テーマや題材、コンセプトと関連している物語のパターンは「ストーリータイプ」ないしは「プロットタイプ」と呼ぶ。前者は物語全般における広い分類、その中でも映像作品で繰り返し用いられビート上で似た構造を持つものを「プロットタイプ」と呼ぶ。似ているが、創作時には応用の仕方が変わる。
上記2つについて合わせるなら、「自分探し」+「ポジティブ」のストーリーなら、自分探しをした末にハッピーエンドになる話だし、「自分探し」+「ネガティブ」であればバッドエンドになる。ストーリーのタイプによって変化の方向性は決められていないが、映画の多くはハッピーエンドである。テーマや題材、ジャンルによってはネガティブエンドにしやすいものもある。「しやすい」というのは、観客が受け入れやすい終わり方ということである。
「3本のキャラクターアーク(ポジティブ・ネガティブ・フラット)」(三幕構成7)
視聴者の心をつかむオープニングの作成方法を20個提案しよう。(中略)
①強烈なビジュアル
視覚的に衝撃的であったり派手な場面を通して、観客の視線を釘付けにする。驚異的な自然の風景や独特な資格効果から始めるのもいい。
(例)ドラマ『トッケビ~君がくれた愛しい日々~』、『SKYキャッスル~上流階級の妻たち~』、映画『セブン』、『ラ・ラ・ランド』、『グランド・ブタペスト・ホテル』、『ノーカントリー』
②ミステリー
問いを投げかける場面で始まり、観客が答えを探したくなるようにする。映画『DOA/デッド・オア・アライブ』のように主人公が理解しがたい状況に直面している様子を見せつつ、観客の好奇心を刺激する。
(例)ドラマ『シグナル』、『秘密の森~深い闇の向こうに~』、『ミスター・サンシャイン』、映画『マルホランド・ドライブ』
③緊張感のある対立
葛藤や衝突の瞬間を描いて緊張感を生み出し、続きが気になるようにさせる。
(例)ドラマ『梨泰院クラス』、『ペントハウス』、映画『ダークナイト』、『グラディエーター』
④激しい感情の瞬間
恋人との別れ、または再会のように、感情が渦巻く場面で始まり、視聴者がキャラクターと感情的に繋がれるようにする。
(例)ドラマ『その冬、風が吹く』。『私の名前はキム・サムスン』、映画『エターナル・サンシャイン』、『ブルーバレンタイン』
⑤ユーモア
ユーモラスな状況やセリフで始めて観客を笑わせ。緊張をほぐして作品を楽しめるようにする。
(例)ドラマ『キム秘書はいったい、なぜ?』、『ウラチャチャMY Love』、「怪盗グルー」シリーズ、「ハングオーバー」シリーズ
⑥アクション
かっこいいアクションシーンや追撃戦で始め、観客の視線を奪う。
(例)ドラマ『シティーハンター in Seoul』、『無法弁護士~最高のパートナー~』、映画『ベイビー・ドライバー』、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』
⑦主人公の魅力的な特徴
最初のシーンから主人公ならではの魅力的な性格や能力を見せ、視聴者がそのキャラクターに好感を抱くようにする。
(例)ドラマ『キルミー・ヒールミー』、映画『7番房の奇跡』、『レオン』、『アイアンマン』
⑧時間の流れに逆らう
過去に戻って重要な事件を回想したり、未来のとある瞬間を先に見せて観客の好奇心を刺激する。
(例)ドラマ『ナイン~9回の時間旅行~』、『同感~時が交差する初恋~』、映画『メメント』、『インターステラー』
⑨独特の設定、または世界観の紹介
物語の世界観や設定が独特で斬新な場合、それを紹介する場面から始める。
(例)ドラマ『ホテルデルーナ~月明かりの恋人~』、『九尾狐〈クミホ〉伝~不滅の愛~』、映画『神と共に 第一章:罪と罰』、『アバター』、『マトリックス』、『WALL・E/ウォーリー』
⑩印象的なセリフ
強烈だったり意味深長なセリフで始め、その言葉が持つ重みや意味について観客に考えさせる。
・『未生―ミセン―』:「俺たちはまだ弱い石(ミセン)だ。」
・『トッケビ~君がくれた愛しい日々~』:「お前は誰だ。私は939歳のトッケビで、死を待つ神だ。」
・『殺人の追憶』:「覚えてる? この歌が流行っていた年に……」
・『フォレスト・ガンプ/一期一会』:「人生はチョコレートの箱みたいだ。何の味が出るか決してわからない。」
・『ファイト・クラブ』:「お前の人生でいちばん大事な規則を教えてやる、お前はファイトクラブの話をしていない。」
⑪対立
物語の始まりから主要人物間の葛藤や対立を表し、観客がこの葛藤の解決を見守りたくなるようにする。
(例)映画『新感染ファイナル・エクスプレス』、『グエムル―漢江の怪物―』、『リトル・ダンサー』、『カサブランカ』
⑫秘密
主人公や主要な人物が秘密を抱えていたり、秘密にしている任務を遂行したりしていることを見せて、その秘密が何なのか、観客が知りたがるようにする。
(例)映画『お嬢さん』、『君を守りたい~SAVE ME~』、『シャッターアイランド』、『ゴーン・ガール』
⑬突然の出来事や衝撃的な知らせで、登場人物の感情が激しく変化する瞬間を詳しく描写したシーンから始まる。
(例)ドラマ『君を憶えてる』、『夫婦の世界』、映画『マンチェスター・バイ・ザ・シー』、『ゼロ・グラビティ』
⑭予想もしていなかった転換
物語が予想もしていなかった方向に突然転換し、観客を驚かせるオープニング。
(例)ドラマ『W―君とぼくの世界―』、『キングダム』、映画『ファイト・クラブ』、『インセプション』
⑮強烈な対比
物語の最初から劇的な対比を見せる。とても幸せな場面の後に苦痛を受ける場面を持ってくる。感情の劇的な変化を通して観客の関心を引く方法だ。
(例)ドラマ『ミスター・サンシャイン』、映画『サニー 永遠の仲間たち』、『カールじいさんの空飛ぶ家』、『アメリカン・ビューティー』
⑯文化的または歴史的背景の紹介
特定の文化・歴史的背景に基づいたシーンから始める。観客にその文化や時代について興味を持たせる。
(例)ドラマ『宮廷女官チャングムの誓い』、映画『王になった男』、『アポロ13』、『ホテル・ルワンダ』、『シンドラーのリスト』
⑰哲学的な問いまたは命題
人生、愛、存在の意味などについて哲学的な問いや命題を提示し、観客みずからが考え、問いに没入させる方法。
(例)映画『オールド・ボーイ』、『シークレット・サンシャイン』、『ビフォア・サンライズ恋人までの距離』、『ツリー・オブ・ライフ』、『クラウドアトラス』
⑱印象的な人物紹介
主人公や重要な人物の劇的で特徴的な姿を最初から見せ、観客がその人物をより知りたくなるようにする。たとえば、特別な能力を使う場面や、その人物の強烈な性格がわかるセリフで始める。
(例)映画『アジョシ』、『ベテラン』、『シャーロック・ホームズ』、『アメリ』、『ブラック・スワン』
⑲視覚的な謎またはパズル
ミステリアスなイメージや象徴的な物体で始めて、視聴者がその意味や背景を気になるようにさせる方法。
(例)ドラマ『アルハンブラ宮殿の思い出』、映画『裏切りの陰謀』、『ダ・ヴィンチ・コード』、『パンズ・ラビリンス』
⑳感情的なセリフまたは独白
感情的なセリフやその人物の内面が現れる独白を最初に見せ、観客がキャラクターの心理状態や感情に深く共感・連帯できるようにする。
(例)ドラマ『恋のスケッチ~応答せよ1988~』、『ペパーミント・キャンディー』、『時をかける少女』、映画『ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日』(p169~)
この手の分類は、厳密であることはない。読み比べた同じようなものもあるし、実際問題としては1つだけで機能しない場合もある。作品冒頭の「トップシーン」について言っているものと、冒頭から数分間の「オープニングシークエンス」について言っているものも混じっている。とはいえ、これだけのパターンと作品例まで挙げられているのは情報としては使える。脚本学習中の人は面倒がらずに、例に挙げられている作品を見てみて(オープニングだけでもいい)、この本が言っていることが正しいかどうか検証してみればいい。正しいと思えば自分でも使える。課題などで執筆している人は、実際に書いてみてほしい。迷った時にこういうリストを眺めてみる使い方もある。
サブプロットは、1話完結ものでひとつ~4つ、シリーズものでは4つ~8つ程度だ。(p.185)
韓国でのフォーマットは以下らしい。
シリーズもの:4-16話、1話40-70分(平均制作費1話あたり9-14億ウォン=約9000万~1億4000万円)
連続劇:6ヶ月放送、1話35-60分(5-6億ウォン=約5000万~6000万円)
一話完結もの:70分(作品による)
シリーズものはともかく、70分でサブプロット4つは明らかに多すぎる。
放送局のドラマ運営チームなどの関係者によると、韓国内のシリーズもの1話あたりの制作費は2018年5億ウォン(約5000万円)、2020年7億ウォン(約7000万円)、2022年13~14億ウォン(約1億3000万~1億4000万円)と徐々に増加傾向にあったが、2024年2月現在は1話あたり9~14億ウォン1(約9000万~1億4000万円)程度だ。
Netflixの制作費は、1話あたり20億ウォン(約2億円)をゆうに越えている。(p.218)
週52時間の撮影が定着し、パンデミック以後に制作環境が急変する中で、ドラマの現場は事前制作が主流になっている。以前1、2話にすべてを懸けていたが、今はすべての台本を撮影前に完成させる時代になった。
製作チームと俳優は、話数が進んでもおもしろさが減少しない台本を望んでいる。(p.235)
※韓国では2018年2月に改正勤労基準法(日本の労働基準法にあたる)が制定され、同年7月1日から公共機関と300人以上の従業員がいる事業所では「週52時間勤務制」が施行されている。
脚本料や出演料のとんでもない差が、ドラマ業界の格差社会という傾向を濃くしている。
勝者がすべてをかっさらって行く「超格差社会」といっても過言ではない。
作家によっては1話あたり5000万ウォン(約500万円)、あるいは1億ウォン(約1000万円)にプラスアルファの原稿料をもらっている。
全16話のシリーズを2編契約しただけでも数十億ウォンだ。
スター俳優はこれよりもさらに高い出演料をもらっていることが多い。制作費の半分以上が、スター俳優の出演料や作家の原稿料のケースがある。
このため、制作費が圧迫されると、経営のために中堅俳優の出演料から削っていく制作会社もある。100万ウォン(約10万円)の出演料を受け取っていた俳優は、50万ウォン(約5万円)に削られた出演料を悩んだ末に受け取る。
お金がもっとも重要な価値となる韓国社会で、このような格差は作業方式、人間関係、個人の価値観、メンタルヘルスなどに大きな影響を及ぼす(p.371)
上記、韓国業界について。
以下、気になったちょっとだけ気になった一文。
人間の脳は期待以上のことやサプライズイベントに反応する。
ありきたりで予定されたことよりも、見知らぬ新しいイベントに出合ったときに、ドーパミンの回路が活性化されるのだ。
いくつかの脳科学実験の結果を見ると、ドーパミン回路は予想的中率が50%のとき、もっとも活性化するという。人間は50%の不確実性、50%の新しさや見慣れなさに、もっとも刺激的に反応するというのだ。予想的中率が75%以上で当たりすぎても気乗りせず、25%以下で当たらなすぎても心が惹かれない。
つまり、予想通りになるかならないかの確率が半々のときが、もっとも焦燥感を感じる瞬間だというのだ。
視聴者のドーパミンを分泌させるのが作家の仕事であるならば、どのようにストーリーを引っ張っていけばいいのかはわかりやすくなる。
視聴者の予想を半分は聞き入れ、半分は違う方向へ展開させるのだ。
「視聴者の予想を想像する能力」こそが作家の力である。
作家は、展開させるストーリーに視聴者がどのような反応を見せるかを、絶えず予想するべきだ。
そしてストーリーの半分は。視聴者の予想と別の方向に展開させなければならない。(p.318)
なお、ドーパミンについての記述は『ドーパミン中毒』という書籍かららしい。
どんでん返しを1話に2回、必ず入れてみよう。
たとえば2幕に1回、3幕のエンディング直前に1回、どんでん返しのシーンを入れる。
そうするとシノプシスのあらすじと変わってしまわないかって?
心配はいらない。どんでん返しにどんでん返しを重ねれば、本来のストーリーに戻るからだ。(p.320)
そんな単純ではないと思いつつ、理屈が小気味よくて気に入った一文。ドラマシリーズでは「変化させない」ということがストーリーを続けるコツになるときがあるが、その場合、ダブルどんでん返しはたしかに使えるかもと思った。映画では観客が起こりかねないが、うまくやる方法があるかもしれない。なお、当サイトではどんでん返しは「ターンオーバー」という。
「ツイスト」と「ターンオーバー」(三幕構成28)
ストーリービートについて
以下は、当サイトのビートを理解している人向けの説明。初心者は好きなように理解して、使いやすいように使えばいいが、ライターズルームメンバーなど、チームでの動きを重視している人は、共通の理解をして、共通の言語を用いることが望ましい。
本書では「三幕構成は現代に合わない」「三幕構成は古典的でもう限界」といった挑発的な文言が目立ったが、そもそも現代で「三幕構成だけ」で書く作家は初心者だけなので当たり前という印象だが、そういう言い方をしているということは、わりと韓国のライター志望者の間では「三幕構成」が主流になっているのだろうか(ハリウッド式のヒートシートも使われていない?)。本書では「三幕構成」を進化させたものとして「9つのストーリービートとエンディング灯台」というものが提案されている。
1幕
「オープニング」
「問題発生」
「核心ジレンマが浮き彫りに」
2幕
「努力の失敗」
「ターニングポイント」
「危機の高まり」
3幕
「危機のピーク」
「クライマックス」
「エンディングのカタルシス」
プラス
「エンディング灯台」
それぞれのストーリービートが知りたい人は、本書を読んでいただくとして、考え方としては三幕をさらに三分割して9つにしたようなものである。
当サイトにおけるビートのように理解するのであれば、以下の通りである。
「オープニング」というストーリービートには、以下のビートが含まれる
Image1/OPイメージ「オープニングイメージ」
GenreSet「ジャンルのセットアップ」
want「主人公のセットアップ」
Premise「プレミス」
「問題発生」+「核心ジレンマが浮き彫りに」は、
Catalyst「カタリスト」
Debate「ディベート」
Death「デス」
CQ「セントラル・クエスチョン」
これ以降の「努力の失敗」、「ターニングポイント」「危機の高まり」「危機のピーク」「クライマックス」「エンディングのカタルシス」は、アークとしてはBattle「バトル」を経て、MP「ミッドポイント」へ向かっていくという捉え方が1つ(ビートシートは120分用なので半分の60分でMPまでという感覚)、
ストーリービートの「ターニングポイント」は落下した「MP」、「危機の高まり」はFall start「フォール」、「クライマックス」はBB(TP2)「ビッグバトル」という捉え方でも構わない。
この二つの捉え方の違いは、理屈で理解するのは難しいが、たくさんの分析をしていると、どちらかで考えた方が理解しやすいということが多い。ビートは極めて本質的に捉えるなら、どのビートも同じなので、どっちの考え方をしても、実は同じなのだが、その感覚が持てるまではたくさんの作品を分析するしかない。
なお、「エンディング灯台」=「ギフト」だが記事に説明していない。読後感、鑑賞後の観客の気持ちなどと考えれば問題ない。
イルカ 2025.8.9