※この分析は「脚本講習」の参加者によるものです。
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※あらすじはリンク先でご覧下さい。
【ログライン】
友人の借金を被ることになったカイジが、帝愛グループのギャンブルクルーズに参戦。しかし負けてしまい地下帝国の作業員になる。過酷な環境から抜け出すために高層ビルでの鉄骨渡りに挑戦・成功させ、利根川とのEゲームに挑むことに。しかし敗北。再度地下帝国送りになりそうになるが、遠藤から借金をして2回戦目は勝利を収めて大金をつかみ取る。元の生活に戻るが、大金は遠藤にかすめ取られてしまう。
【ビートシート】
Image1「オープニングイメージ」:帝愛グループの集会
外は嵐。雷鳴が轟いている。部屋の中にはきっちりと並ぶ帝愛社員らと、その頂点に坐する会長。ここで会長と社員の問答。
「真の強者の条件とは何か。この世の本物の強者の条件だよ。答えて見なさい」
武力・市場での独占的地位の確立などが上がる中、遠藤の「金。マネーです」という答えに会長が金の使い方を聞いていると怒る。そこで利根川が「核シェルター」と答え、会長は自分が望むのは穴倉ではなく地下帝国、王国だと言う。それを作る労働力さえ自社で補えると利根川は豪語する。
→この部分で会長が絶対的存在であり、利根川は会長の望む答えを出せる関係性にあることが伺える。更に、利根川の労働力のくだりの発言により、帝愛グループが若者の未来を食い物にしているという印象が強くなる。
CC「主人公のセットアップ」:スクラッチが外れる
あと1つで絵柄が揃うスクラッチを外す。見上げれば帝愛グループのCM。
小さいスーパーで働き、帰る。通りすがりのカップルにさえ馬鹿にされ、イラつき、近くにあった高級車を蹴ったがゆえに怖いお兄さんたちに捕まる。
連れていかれた先で遠藤と話し、自分が連帯保証人として友人の借金を被ることを知った。
→カイジの運の悪さ、うだつのあがらなさがクッキリとしている部分。
Catalyst「カタリスト」:「エスポワール到着」
遠藤からの「人生を変えるチャンス」、ギャンブルクルーズ船エスポワールに到着。
カードじゃんけんのルールを説明される。
→人生をかけたギャンブルの扉を開ける。
Debate「ディベート」:「船井に裏切られる」
協力してゲームを切り上げられる方法があると船井に持ち掛けられたはずが、間違って勝ってしまったフリをされて星2つ取られてしまう。
騙されたことに激高し殴った事により、残カードが何か周囲にバラされる。
周囲も巻き込み、疑心暗鬼状態になっていく。
→勝ち抜くことが絶望的な状況に追い込まれる。
Death「デス」:「石田と別室へ」
シャッフルし再配布したカードを使って船井から罠を仕掛けられる。
しかし罠を見抜いたカイジは石田と協力することで勝利した。石田の余ったカードもカイジが協力しゼロにした。が、石田のポケットからもう1枚カードが出てくる。
カイジは連帯責任だと言って石田と共に別室送りとなる。
→勝ち確定から、新しい借金を背負わされることに。
PP1「プロットポイント1(PP1)」:「地下帝国」
地下へのイメージ。100円玉が地上から落ちていった先、地下の奥深くで働くカイジが拾う。
マイクロチップの上から焼き印・すべて監視される過酷な環境での労働。カイジは15年予定。
→借金を返済するための過酷な労働環境へ転落。
Battle「バトル」:「」
Pinch1「ピンチ1」:「ハンチョウのピンハネ」
日本円の1/10の価値しかないペリカで給料が支払われる。ハンチョウが売店を開き、高額でビールおつまみなどが売られている。石田を救護室に連れていく際に出会った佐原にハンチョウの裏の顔を知らされる。口八丁で購入を勧め、過酷な環境での娯楽として売店に依存させていた。カイジはハンチョウのピンハネを告発する。
→地下帝国でも搾取され続ける。ここから抜け出したいと思うキッカケに。
MP「ミッドポイント」:「鉄骨渡りを成功させる」
渡り切ったら一千万円というブレイブメンロードと呼ばれる鉄骨渡りに挑戦し、脱落者が続く。
天候も崩れ、最悪の状況。
石田にも娘へのお金を頼まれ、最後の別れを告げられた。
渡り切れたのはカイジと佐原のみであった。
→命をかけての一千万円獲得確定。
Fall start「フォール」:「気圧差で佐原が飛ぶ」
喜び室内に入ろうとする佐原、少し上の窓から会長が見下ろしている。
ドアに手をかけた瞬間、気圧差で佐原・カイジが飛ぶ。佐原のみ落ちていく。
→喜びは束の間。会長がこれから起こることを見逃さないように特等席にいる。
Pinch2「ピンチ2」:「」
PP2(AisL)「プロットポイント2」:「カイジ再敗北」
利根川とのEカード対決で敗北したカイジに会長からの追加借金。再対決するも敗北。地下帝国労働130年プラスされ、死ぬまで抜け出せないことが決まる。
連行されているときに利根川のイカサマに気付く。
→イカサマを見抜けなかったがゆえに一千万も自由の身もすべて失う。
DN「ダーク・ナイト・オブ・ザ・ソウル」:「」
BBビッグバトル:「鏡に頭を打ち付ける」
再々対決することになり、カイジは鏡に頭を打ち付ける。
頭から流血したまま席につく。
→最終対決の始まり。この血がキーアイテムになる。
1枚目:引き分け。
2枚目:引き分け、利根川はカードの血痕に気付き考え始める。
3枚目:引き分け、利根川は血を拭きとらなかった事を疑問に思う。カードじゃんけんを思い出し、カイジの次のカードを市民と推理して皇帝を出した。
→結果カイジの勝利となる。利根川の頭がキレることを利用した勝負だった。
image2「ファイナルイメージ」:「」
エピローグ:
遠藤に獲得賞金をほぼ取られ、残ったお金と石田の金券を入れた封筒を石田の娘へと贈った。
【感想】
原作も読んだことがあったので、原作との違いが感じられた。カードじゃんけんの簡略化もわかりやすい方向にされていて、鉄骨渡りの精神的な話で間延びしていたところを臨場感とスリルのある仕上がりになっていたと思う。ゲームの説明もCGやモノローグでわかりやすかった。遠藤が女性キャストになっていたが、違和感が全くなかった。
(雨森れに、2022.8.31)
同じ作品の別の方の分析があります。
映画『カイジ 人生逆転ゲーム』(三幕構成分析#64)
分析ありがとうございます。観たことある作品だったので、コメントさせていただきます。
邦画はビートを意識した作りをされていないので、大幅にズレていることが多々あります。
ログラインを極めてシンプルに「借金を背負ったカイジが、ゲームに参加して、大金を手にする(奪われるが)」ぐらいに捉えてみますと「ゲームに参加する」=アクト2の始まり=PP1となります(カタリストはさらに、そのきっかけとなるイベント)。
「ゲームの始まり」はジャンケンゲームで良いと思います。10分14%ほどの地点でビートシートの視点からすると早すぎて「キャラクターのセットアップが不十分」という捉え方ができます。原作を知らない人はカイジというキャラクターに共感できていないまま、ゲームが始まっている印象です。日本国内の映画としては、それでも許されますが、こういうところが世界市場に耐えられない原因の一つだと思います(イカゲームと比較してみるのも面白そうです)。
ちなみに「地下生活が始まる」(32分28%)をPP1とする場合、アクト2が「地下生活からの脱出」という捉え方になります。この言い方は設定上は間違いではないのですが、作品全体からイベントや雰囲気をみたときに「地下生活」を見せたい映画なのか、「ギャンブルゲーム」を見せたい映画なのかという風に考えたときに、やはり後者なのではないかと感じます。
MP以降も邦画らしいビートを意識していない作りで、PP1やアクト2といった視点がある脚本では、MPに向かってのストーリーの方向性がありますが、この作品では、イベントが団子状に連なっているだけという印象を受けます。
つまり、プロット的に言うと
「ジャンケンゲーム」
「地下生活」
「鉄骨渡り」
「カード対決」
という大きなシークエンスを順番に並べているだけで、その中でのアークが描かれていないのです。こういった演出や脚本が極めて邦画的という点になります。