映画『真夜中乙女戦争』(三幕構成分析#72)

※この分析は「脚本講習」の参加者によるものです。

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【ログライン】

孤独で鬱屈した大学生の私(永瀬廉)は美しく優秀な先輩(池田エライザ)や金持ちで切れ者だが、ニヒリストの黒服(柄本佑)と出会う。私は黒服に導かれ社会への様々な悪戯を仕掛けていくが、徐々に黒服と同志たちは激しさを増し、東京破壊計画が始まる。先輩によって破壊に疑問を持った私は先輩に逃げるよう告げ、黒服を殺すが、東京は破壊されてしまう。

【ビートシート】

Image1「オープニングイメージ」:「ライトアップされる東京タワー、天地が逆転した東京の夜景」不穏な重低音が響く、ライトアップされて赤く浮かび上がる東京タワー。主人公の私によるモノローグ。愛を巡る乙女と呼ばれる人間たちの人生の意味を問う戦争が始まる。穏やかではない。天地が逆転した東京の夜景。この逆転は現実とは別のパラレルワールドを暗示しているのだろうか。オーケストラのチューニング音が鳴り、物語が始まる。

CC「主人公のセットアップ」:「何もかも壊したい、一番壊したいのは自分自身」私にとって退屈極まりない大学の授業、このまま何の意味も感じずに火葬されるだけの自分が見える。いや燃えるべきはこの退屈な大学のほうじゃないのか。家庭教師のバイトはクビになり、深夜の過酷な倉庫バイト。職場にはパワハラ上司。僅かな給与を握りしめる。睡眠時間を削っているため授業は居眠り。高校の同級生はうまく遊んでいるようだが、私には友達もなく羨ましく思うだけだ。愛し合う人がいる普通の人間になりたいというのもかなわない夢なのだろうか。それでも諦めきれない私はかくれんぼ同好会の入会面接で吐露する「何もかも壊したい、一番壊したいのは自分自身」だと。私はこのままでは「静止=死」の状態だ。私の学生生活が思い通りにうまくいかないのを思春期の岐路は描く。

Catalyst「カタリスト」:「喫煙所で爆発」12分たったところで、高校の同級生と話していると突如構内の喫煙所で爆発が起きる。連続放火犯がいるらしい。何が目的なのか、愚かな行為だ。ホームレスを暴行して入社が取り消しになった卒業生について語られる。しかし、今の私にとっては逆かもしれない。愚かなのは社会の方だ。

Debate「ディベート」:「かくれんぼ同好会の入会」人生を諦めきれない私はサークル一覧でかくれんぼ同好会という怪しげなサークルを見つけ、入会面接に臨む。先輩に面接され新歓パーティーに招待されるが、学生たちが歓談する中、私は一人だんまりを決め込んでしまう。そして、先輩から「君が不幸の根源」ではないのかと指摘される。これがこの映画のテーマだ。私は自分のありのままを受け入れ、自分の人生に意味を与えるのも自分自身であることを学ばなければならない。先輩とのやり取りはこの映画のBストーリーだ。

Death「デス」:「教授に抗議する私の動画がSNSでバズる」私は先輩から教授に抗議してコーヒーをかけられた私の動画がSNSで人気になっていることを教えらえる。私はもう学校に行かない、失敗したくないと言う。先輩は学生のうちは恥をかくのが大切なのだと教えるのだが。

PP1「プロットポイント1(PP1)」:「喫煙所を放火して逃げる黒服を助ける」24分たったところで、奨学金の審査試験当日、先輩を見かけると、入れ替わりに黒服、まやかしの師メンターがやってくる。私が見ている中、黒服は吸い殻入れに液体を入れて去る。通行人がタバコを捨てると爆発。警備員が気がつき黒服を追う。その瞬間、私は奨学金審査のための書類を警備員の足元に投げ入れて滑らせ、黒服と共に逃げる。車のロックをスマホで解除して盗難し、逃げ去る黒服と私。私が好きだった茎わかめをSNSでトレンド入りさせ、売切れにさせたのも黒服のようだ。社会に対するささやかな悪戯から始まる犯罪サスペンスはこの映画の「お楽しみ」だ。
「ジャンルのセットアップ」:「犯罪サスペンス」)

Battle「バトル」:「黒服と私の問答」 黒服からなぜ大学に行くのかを問われ、私は普通の暮らしがしたいのだと答える。庭付きの一軒家、家庭を持ちたい。そのためにいい会社に入るだと。黒服はそれなら、なぜ自分を助けたかと問う。普通の暮らしに憧れた時点で絶対にそれは手に入らない。手に入れたとしても今度はそれを守るだけで楽しくない。幸せとは自分でつくるしかない。そこには邪魔者が必ず現れる。するべきは戦争だと。黒服から生きる目的を問われ、私は無いと答える。黒服は大きな笑い声をあげ、車は爆発する。黒服と私は笑い合う。気がつくと私は寝ていて地面には「すぐ会える」と書かれている。

Pinch1「ピンチ1」:「私は再び黒服と会い、アジトへ」かくれんぼ同好会でゴミ箱に隠れていた私は警備員に補導されるところを先輩に助けられる。先輩とボーリングで遊んでいると、突如黒服が現れ、先輩のことを言い当てる。先輩はゲームに勝って、食事をおごるよう約束すると去っていく。黒服が必要な時必要な人間に会うものだと言って、アジトに案内する。そこでは沢山の映画があり、私たちは映画を鑑賞する。名画と比べつまらない東京の夜景。私は黒服に提案する何もかも壊してしまわないかと。

MP「ミッドポイント」:「溢れかえる常連と踊る私」黒服はSNSのDMを使ってアジトの映画に観客を集める。彼らは社会で爪弾きにされた者たちで、いつしか常連と呼ばれる。彼らは黒服に救われた仲間として、一緒に悪戯をするようになる。私は家賃滞納でアパートを追い出され、黒服のアジトに住むようになる。黒服は行き詰った者たちの話を聞いてやり、必要な者にはまとまった金を貸す。私はアジトに溢れかえる常連たちと楽しく踊り、「まやかしの勝利」を手に入れる。

Fall start「フォール」:「先輩の親友カナが内定取り消しになる」AとBのストーリーが交差して、私は先輩から鎮守の森にある廃墟の中の隠れ家に案内され、そこで先輩の親友カナが内定取り消しにあったことを聞かされる。私は黒服の仕業だと気づき、危険度がアップする。

Pinch2「ピンチ2」:「私先輩との食事を常連に監視されている」黒服の思いのままに動くTEAM常連は東京破壊計画、「真夜中乙女戦争」を開始する。TEAM常連に抵抗するメッセージを投げかける垂れ幕がSNSで拡散される。私は先輩との食事に誘う。私は先輩に危険だから垂れ幕をやめるよう言うと、周囲の常連たちで監視されていることに気づく。

PP2(AisL)「プロットポイント2」:「常連たちに打ちのめされ、先輩の隠れ家へ」私は常連から逃げる途中、気を失ってしまう。目覚めると先輩の声が聞こえるが、タブレットから流れる動画だった。TEAM常連による罠だったのだ。先輩は無事なのか?裏切り者として常連に打ちのめされる私。居場所がなくなり、スマホを手に這いずりながら私は鎮守の森の先輩の隠れ家に逃れる。

DN「ダーク・ナイト・オブ・ザ・ソウル」:「先輩のノート」「明日の夜、真夜中乙女戦争決行」「MZESで先輩と会う」私は先輩の隠れ家で先輩の残したノートのメッセージとMZESというバーの存在を知る。私はスマホに電源を入れると留守電で真夜中乙女戦争の決行を告げられる。私はMZESに行き、先輩と会う。そして、私は先輩から問われる「今夜君は何に賭けるの?」と。

BBビッグバトル:「私は先輩に逃げるよう告げ、黒服を刺す」私は先輩に賭けた。先輩に東京から逃げるよう告げ、告白するが、私は失恋する。私と先輩が人生を諦めきれない似た者同士であったことを確認し、先輩が寝てしまうと、私は黒服の元へ行き、彼を刺す。直後黒服の映像がスクリーンに映され、私の黒服の殺害が予想通りだったとして、邦画史上最悪の復讐劇が始まることを告げる。世界を憎む名もなき青年が世界を破壊し、新しい世界の神になる。私と黒服のキスシーンで映像が終わると、部屋の壁が爆破され、その向こうに東京タワーの夜景が見える。そして、東京の破壊が始まる。

image2「ファイナルイメージ」:「爆破される東京で先輩と私」オープニングイメージと対。東京タワーの周り建物が次々と爆破されていく。すると、東京タワーにいる先輩から電話がくる。私は自分を信じてくれた先輩に礼を言い、本命にしてくれなかった先輩のことを一生許せないと告げる。先輩も私を絶対許さないが、生きているならそれで良しとすると言われる。取り返しのつかない悲惨な現実の中にあっても、生が肯定される。

【感想】

近年のSNS流行時代の悪戯や犯罪をサスペンスに、現実と似たもう一つの世界、映画としてファンタジックな演出で若者の内的成長を描いている。青年は自分を受け入れ、生きる意味を見出し、世界を肯定したその成長とは裏腹に、同志たちによって世界が破壊されてしまうという皮肉な結末を迎える。
内ゲバになる様子はかつての新左翼やカルトを彷彿とさせる。理想主義の退廃がニヒリズムであり、その後の新自由主義を生んだ。皮肉に満ちた生の肯定の様子はニーチェの哲学の限界であり、現代の日本の行き詰まりを感じる。新自由主義が席巻して久しいが、私たちは精神文化を培うことが必要だ。

(川尻佳司、2022/10/09)

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