映画『シンデレラゲーム』(三幕構成分析#80)

※この分析は「脚本講習」の参加者によるものです。

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【ログライン】

解散ライブを終え、他人に頼りがちだが思いやりのある沙奈(山谷花純)はタキモト(駿河太郎)によってトップアイドルへの道を約束する負ければ死のカードバトルショーに参加、失踪した憧れのアイドルである姉の沙里(水木彩也子)の影を追いかけ、メンバーのエリナ(吉田明加)と勝ち進むが、彼女と戦うことになり、崖から海へ落とされ、ステージが自分の居場所と自ら決意し、最後には勝つために手段を択ばない沙里に勝って優勝する。

【ビートシート】

Image1「オープニングイメージ」:「ステージで歌い踊るアイドルたち」G線上のアリアが流れ、厳かだがどこか愁いを帯びて、ステージで歌い踊るアイドルたちがスローモーションで映される。

CC「主人公のセットアップ」:「沙奈の面接映像」沙奈が面接でアイドルになった動機を話す。憧れのアイドルだった姉が一年前に失踪してしまった。その姉の夢を引き継ぎたいのだという。これがこの映画のテーマだ。沙奈は憧れのキラキラと眩しいアイドルになれるのか?その直後彼女は解散ライブを終えて、20人のアイドルが海辺に投げ出されている。

Catalyst「カタリスト」:「司会進行のタキモト、ネズミの登場」戸惑う海辺のアイドル達の前に突如スーツ姿のタキモトと、二人のネズミの被り物を被った者たちが現れ、彼女たちにこれが「シンデレラゲーム」という対戦カードゲームのショーであることを説明する。彼女たちはオーディションで選ばれたのだ。優勝者はトップアイドルへの道が約束されるが、負ければ死だ。

Debate「ディベート」:「田辺がこのショーは事務所に話を通しているのか訊く」アイドルの一人、田辺(西岡璃南)がこのショーは事務所に話を通しているのか訊くと、タキモトが大して売れてもいないのに生意気だとたしなめる。憤慨した田辺がゲームから離脱しようとすると、タキモトから失格を言い渡されて、田辺のチョーカーが点滅し警告音が鳴る。

Death「デス」:「田辺の死」田辺はチョーカーに仕込まれている毒針が刺さり血を吐いて倒れる。アイドル達が悲鳴を上げる。タキモトは自分の合図次第で彼女たちは死んでしまうことを告げる。事務所も大金を支払われて許可をしている。

PP1「プロットポイント1(PP1)」:「ゲームスタート」タキモトからゲームの説明がなされる。命がけの夢を掴む戦いだ。彼がスターターピストルを放ち、アイドル達が走り出して、第2幕に入る。

Battle「バトル」:「桃園、紅林との対決」カードを奪われそうになっていた桃園(其原有沙)を助けた沙奈だが、その桃園に自分のカードを取られてしまう。しかし、沙奈はなぜか増えていたポイントによって得たオプションカードで勝利する。アイドル達の裏切りや手段を択ばない命がけの戦いの過酷さ、スリルやホラーがこの映画の「お楽しみ」だ。

「ジャンルのセットアップ」「デスゲーム」)

Pinch1「ピンチ1」:「エリナがカードの共有を提案」からくも1日目に勝利した沙奈は同様に生き残ったエリナからカードの共有を提案される。リーダーの涼夏は相手を殺さなければいけない過酷さに変調をきたしてしまった。

MP「ミッドポイント」:「2日目の勝利」紅林(春川芽生)によって斜面から落ちるところを助けられた沙奈は引き換えに彼女にカードを渡してしまうが、やはりオプションカードで勝ち、「まやかしの勝利」を手に入れる。紅林の言葉によって、AとBストーリーが交差して、沙奈にとってアイドルが他人に流されてなったものではなく、居場所であることが示される。エリナもカードの共有によって、勝利し、3日目は東の高台に2人でカードを探しに行くことを提案する。

Fall start「フォール」:「明日はエリナとの対戦」沙奈は今まで頼りにしていたエリナと明日対戦するかもしれないと言い、首を吊る姉の幻覚を見て、「危険度がアップ」する。

Pinch2「ピンチ2」:「エリナが白石を失格させる」エリナが白石(阿知波妃皇)の眼帯を奪って、白石に自分を襲わせたようにみせて失格にさせる。それをきっかけにエリナと沙奈は反目することになり別れる。そこへ涼夏が現れる。みな自分のために他人を殺す化物になってしまったと。

PP2(AisL)「プロットポイント2」:「エリナが沙奈と涼夏を崖から海へ落とす」涼夏(佐々木萌詠)が2人からカードを奪って崖から放ると、足を滑らせて落ちてしまう。沙奈が涼夏を助けようと手を掴む。しかし、エリナが2人を助けるふりをして、崖から海へ落としてしまう。

DN「ダーク・ナイト・オブ・ザ・ソウル」:「海から這い上がる沙奈と涼夏」運よく生きのびた沙奈は頭を打って瀕死の涼夏を懸命に海から引き上げる。AとBストーリーが交差して、涼夏が沙奈は多くの人の特別な存在になれると伝える。涼夏が死ぬ。沙奈はエリナと戦うことを決意する。

BBビッグバトル:「沙里との対戦」沙奈が対戦場に着くと、エリナのチョーカーが点滅して沙奈に自分が姉の沙里を殺したのだと告げて死んでしまう。観客たちが昨年の優勝者であるエリナがまた優勝するのはつまらないと失格になったのだという。無茶苦茶なゲームにショックを受ける沙奈に決勝の対戦が言い渡される。相手はネズミの被り物をしていた姉の沙里だった。沙里はトップアイドルになるため、このむごたらしいゲームを手伝っていたのだ。沙奈に負けるくらいなら死んだ方がましだと。姉の後を追ったのが全ての間違いだったのか。沙奈は決意する。ずっとアイドルの沙里の妹と呼ばれてきた。しかし、アイドルになったことで、やっと自分の居場所がステージであると知った。トップアイドルになりたいと。沙奈が出したカードはガラスの靴。彼女には圧倒的な観客の支持があったのだ。

image2「ファイナルイメージ」:「海で笑う沙奈」チョーカーが点滅し泣き叫ぶ沙里が海辺まで来て絶命する。後を追ってきた沙奈が悲惨な最後に打ちひしがれているとタキモトがトロフィーを手に彼女に優勝インタビューする。沙奈はトロフィーを振り回して彼らを追い払い、ガラスの靴が落ちる。沙奈は海に入る。なおもタキモトらが沙奈に視聴者へのコメントを求めカメラを向けると、無表情だった沙奈が微笑みを返す。

【感想】

アイドル業界の厳しい世界をデスゲームで描いたら、というのが本作の企画だ。主人公の自立を主軸にして短い時間にテンポよくまとまっている。

プロットとしては特にエリナが沙奈を見限るところはもう少し伏線が無いと唐突に感じた。ビートとしてもミッドポイントにアンチテーゼの頂点として手段を択ばない勝利感をもっとつけて、エリナと涼夏の対比を出し、ピンチ2でのエリナの白石への罠(アンチテーゼ)とその後の涼夏のカードを捨てる行動(テーゼ)にスムーズにつなげてPP2にいたるようにしたい。
設定のおいては、レビューに指摘されているように前年の優勝者がトップアイドルになれず参加していることに無理があるのは厳しい。この設定は入れずに、沙奈が生きて戻ってきたことで、視聴者により失格にしてもよかったのではないか。
ただ何より全体にあまり意外性がなかったというのが残念だ。

ゲーム性の問題として、これがアイドル業界の縮図としてのショーであるという設定のため、視聴者の支持が勝敗を決めるという思想があり、視聴者からの支持によるポイントで購入するオプションカードで有利になること、またルールはあとから知らされることなどもあって、ゲーム性や心理戦が無効化されてしまっていることがある。視聴者の意志が介入することで変わってしまうゲームをどうやって面白くみせるかというところまで考えなければ、ゲームである意味がなくなって、つまらないという感想がどうしても残ってしまう。それがアイドルの世界だというこの映画の表現なのだろうが。であればアイドル達に視聴者の支持を奪い合う戦いをさせるような挑戦をするべきではなかったろうか。

またそもそもの企画の問題として、ショービジネスの競争が非常に厳しいものであることは当然の周知であり、デスゲームとしてファンタジー化することに意外性がないということもある。現実にアイドルの成長過程がそのままテレビショーとしてビジネスにされる通り、映画内でもこれが事務所を通したショーであると語ってしまっているわけだが、一般人にとってはそのまま現実のアイドルが十分にファンタジーの世界なのだ。であればアイドル達が一人ひとり持つ「松葉杖と眼帯」をデスゲームに挿入するのではなく、そのままの群像ストーリーを描いてくれた方が十分にデスゲームを描けるのではないかという気もする。

また、デスゲームものとして似た前回分析の「ジョーカーゲーム」との比較してみると、この舞台の持っているテーマの違いが分かる。舞台が学校、社会というのとアイドル業界、ショービジネスという違いでAストーリーのジンテーゼが真逆なのだ。ほぼ同じ性格の主人公がBストーリーにおいて同じ問題を克服し自立を勝ち取っても、一方は勝負の無い新しい世界へと逃亡し、一方は非情な勝負の世界に決意する。
デスゲームというのは自由競争が持っている矛盾を殺し合いという極端な形で表面化させる手法だ。その矛盾を飲み込んで成り立つショービジネスで自立を描くのであれば返り血を浴びて、最後に笑う皮肉なアイドル像しか浮かんでこない。好みの問題だが、この映画は全体にシリアスになるより、もっとポップに表現するのも一つだったと思う。

(川尻佳司、2022/10/20)

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