映画『パラサイト 半地下の家族』(三幕構成分析#82)

※この分析は「脚本講習」の参加者によるものです。

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【ログライン】

半地下で暮らす家族全員失業中のキム一家が、家族であることを隠した状態で富裕層であるパク家に従事し、収入を得ることに成功する。
元家政婦ムンガァンとその夫グンセに秘密を知られ、ムンガァンを結果的に殺してしまったが故にグンセがキム家を襲う。
攻防の末、妹は死にグンセも死んだが、パク社長の言動に限界を迎えた父がパク社長を殺害。
キム家は秘密がバレて社会的制裁を受け、逃走した父は地下に隠れ住むことになった。

【ビートシート】

Image1「オープニングイメージ」:「半地下」「靴下」
半地下の窓辺に靴下が干してある。
→靴下=臭い。靴下=足元。
足元より下に住まう生活。貧困生活。

CC「主人公のセットアップ」:「貧困生活」
「ジャンルのセットアップ」
Wi-Fiすら自宅でまかなえない状態。
家には便所コオロギが発生し、市内の消毒で室内も消毒してもらう。
家族4人全員無職。兄は浪人生・妹は美大を目指すものの予備校に行けない。
ピザ屋の内職でようやくスナックと発泡酒にありつける生活。
父は楽天家・母はスポーツマン気質・兄は頭の回転が速い・妹は応用力がある。
→あえていうなら兄ギウが主人公。
ここからパク家に依存することになるのに必要な要素(家族の得意分野)はすでに並べられている。
環境の悪さも際立っているシーン。

Catalyst「カタリスト」:「内職」
ようやく入ったWi-Fiでピザ時代の内職メッセージ。
収入にありつけそうになる。
→少しでもお金が欲しいのが現れている。

Debate「ディベート」:「ペナルティ」
1/4(父担当分)が不良品につきペナルティが発生する。
ギウが機転を利かせ、妹がサポートするがアルバイト立候補は保留。内職の報酬を手に入れる。
→思うように稼げず、アルバイトにもなれない。

Death「デス」:「ミニョク」
大学生のミニョクは「勢い」があり、キム家に山水景石を届ける。
ギウはぴったりな抽象石だと見惚れる。
ギウなら安心だからと家庭教師のバイトを紹介される。
→浪人生の自分と友人を比べられる。
ミニョクがギウを見下しているのが微かに感じられる。
ここで登場する水石は、ギウの心を支えていくアイテムになる。

PP1「プロットポイント1(PP1)」:「パク家を訪れる」
面接のためにギウがパク家を訪れる。
庭園に見惚れ、家政婦の存在を認識する。
→高台にある豪邸を見せることで、半地下との対比が成立している。
今までの生活と全く違う世界へ踏み入れている。
ギウは庭を気に入っている・家政婦が家を建て住んだ建築家に詳しい、このあたりが後のシーンにも活きていて無駄がない。

Battle「バトル」:「家族でのパラサイト計画」
ギウ:家庭教師確定。妹を知り合いと称して紹介する。
妹:母親を懐柔し絵画療法確定。
父:妹が運転手追い出し父を伯父として紹介。運転手確定。
母:兄妹で桃の毛・父が嘘の報告をし家政婦を追い出し、父が社長に業者を伝え、家政婦確定。
→すべてキム家が勝利する形で細かいバトルが発生している。

Pinch1「ピンチ1」:「カブスカウト」
インディアンにはまったダソンをカブスカウトに入れたところ悪化したと話される。
ギウもスカウト出身であり、スカウトの教訓はインディアンのものだと教える。
→のちのモールスへのフリ

MP「ミッドポイント」:「パク家で過ごすキム家」
パク家がキャンプのため、キム一家が我が物顔で過ごす。
→家族のwant「不自由ない生活を送りたい」「貧困生活を抜け出したい」が叶っている。
一時的にではあるが豪邸の主にもなれて高い酒を楽しむ。
家族は自分のお気に入りの場所で思い思いに過ごしている。

Fall start「フォール」:「動画で脅迫される」
見つからなければやりすごせた状態だったが、一家が転倒しギウが父を呼んだことで秘密がオ夫妻にバレる。
→夫妻を警察に突き出すなりそのまま受け入れるなりすれば、丸く収まったはずが凡ミスをして急展開する。

Pinch2「ピンチ2」:「照明でのモールス」
グンセは照明をモールスで利用し、社長に感謝を伝えていた。
ダソンならわかるはずという。
→カブスカウトでモールスを教わる。ウケ。

PP2(AisL)「プロットポイント2」:「洪水で家を失う」
防雨の中、家に帰ると汚水や雨水で洪水が起こっていた。
家の中も完全冠水。母親のメダル・水石を持ちだす。
→もしかしたら職を失うかもしれないという不安の中、キム家を象徴する家が失われる。
母親の栄誉・ギウの象徴石だけ一緒に避難するが、あとは全て失う。

DN「ダーク・ナイト・オブ・ザ・ソウル」:「水石を抱く」
父がいう計画は無計画のこと。
ギウは考え込み、石から離れられないと抱きしめる。
→これからの不安。石について考えているようである。

BBビッグバトル:「誕生日パーティー」
家族がこのままの生活ができるかがかかったパーティー。
地下の夫妻との決着・社長への鬱憤の爆発。
→生活を守るため・生活を変えないために戦う。
だが、すべてが白日の下に晒される。

image2「ファイナルイメージ」:「根本的な計画」
父を助けるためにお金を稼ぐと計画を立てる。

エピローグ:
モールス信号を解読し、父の逃走先が地下だと知る。
→半地下から完全に地下の生活に転がり落ちた。

【感想】

半地下の貧困層家族と高台に住む富裕層家族の対比表現に映像として「高低差」演技として「匂い」で表しているのが印象的でした。
父親がパク家に勤めるようになり鬱憤を溜めていく様子が表現されていますが、その理由がおそらく「匂い(差別)」だと予想できた。それが楽観的な人間なのに?と逆に疑問に残ります。
途中で無計画の長所を語るあたりで帳尻を合わせている感じもしますが、瀕死の子供達をそのままにして人を殺めるほどのことだろうかと……
自分が納得したいがために工夫するとしたら、大洪水を控えめにしてキム家の中で「計画より無計画のほうがいい」と語らせ、父親が感じている差別を訴えるのが近道かもしれません。もしくはアクト1から楽観的なのはワケアリだからとわかるセリフに変更すると見方も変わりそうです。

地下にあるのは人か金というセオリーに「計画」を織り交ぜたPP2まで。そこまでは非常に面白く練られていたので、そこからの父親の社長殺害・地下への逃亡に繋がる部分が洗練されていないように思えて残念でした。面白い分残念です。
あと、ギウの水石への執着「お金が欲しい」とシンプルで、すべて失ったあとの空虚さが切なく……叶うことない未来予想図に希望が無いなと思いました。

(雨森れに、2022/10/22)

参考:イルカによる分析記事
映画『パラサイト 半地下の家族』(三幕構成分析#161)

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『映画『パラサイト 半地下の家族』(三幕構成分析#82)』へのコメント

  1. 名前:川尻佳司 投稿日:2022/11/07(月) 00:57:02 ID:c9e608442 返信

    ご指摘の通り、格差社会の対比が人物や映像、臭いなどでくっきりと表された作品でした。
    私も父親の最後の犯行の動機はもう少しシーンを重ねる必要があるなと思いました。この核心的なところに説得力が弱いにもかかわらず、評価されたのは格差の表現はよく出来ているので力づくで納得させられちゃうところでしょうね。コメディーであることも影響してるかもしれません。
    格差の前に計画は無意味だというバッドエンドが切ないですね。

    私なりに考えたビートを相違する部分だけ書きます。

    Catalyst:10%8分「ミニョクから家庭教師依頼」

    Debate:8分~17分「ギウ家庭教師となれるか」

    Death:18%17分「ギウ家庭教師となる」勢いを身につけ古いギウの死です

    PP1:18%17分~「パラサイト作戦」一家のパラサイトが第2幕です。30分たったところでギウが計画開始と言っていますが、ビート上はギウが美術教師にギジョンを推薦するところから開始と考えています

    Pinch1:39%50分「母が家政婦になる」前半は一家のパラサイト作戦完了です。これでMPの豪邸で酒盛りに向かいます。ピンチ2のあたりで元家政婦が母親に階段から蹴落とされるのと対です。