映画『トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦』(三幕構成分析#264)

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※あらすじはリンク先でご覧下さい。

※分析の都合上、結末までの内容を含みますのでご注意ください。

【ログライン】

身寄りもないまま香港へと密入国した陳洛軍は偶然逃げ込んだ九龍城砦のスラム街で龍捲風や信一らとの絆を深め自分の居場所を見つけるが、自身が城砦にとって因縁深い殺人王・陳占の息子であると明らかになる。洛軍はかつて陳占に妻子を殺された秋兄貴に襲われて痛手を負い、生死の境を彷徨う。(その間、秋兄貴は大ボスの謀略に嵌められ、戦いの末に龍捲風も死に城砦は王九らの手に落ちてしまう。)3ヶ月後、意識を取り戻した陳洛軍は、城砦を取り戻すため信一らと王九との戦いに臨み、勝利する。

【フック/テーマ】
九龍城砦、黒社会/親世代の因縁を子世代がいかに打破するか

【ビートシート】

Image1「オープニングイメージ」:「(回想)バックストーリー」
龍捲風と陳占が城砦で抗争していた時の回想から始まる。本作のテーマでもあるこの土地の因縁、血塗られたダークな過去についてが語られる。

GenreSet「ジャンルのセットアップ」:「(回想)バックストーリー」
冒頭の龍捲風と陳占の抗争シーンによって、アクションであることがセットアップさせる。

Premise/CQ「プレミス」/「セントラル・クエスチョン」:「親世代の因縁を子世代がいかに打破するか」

want「主人公のセットアップ」:「難民で身寄りがない」
主人公・洛軍は香港に密入国した身寄りのない難民。警察に見つかることを恐れ、身分証を手に入れて香港で一から人生をやり直そうとしている。フルーツマーケットの賭け乱闘で身分証を買う金を稼ごうとするが、大ボスに目をつけられる。

Catalyst「カタリスト」:「大ボスから声を掛けられる」
喧嘩の腕を認められ大ボスに配下に加わるよう誘われるが、黒社会を嫌う洛軍は断る。ファイトマネーで身分証を作るよう大ボスに依頼するも騙され、金を取り戻すため大ボスのアジトから薬物を盗み、追われる身に。

Debate「ディベート」:「なし」

Death「デス」:「龍捲風に敗れる」
九龍城砦に逃げ込んだ洛軍は盗んだ薬物を金に換えようとするが、大ボスから盗んだものと知られ、シマ荒らしとして今度は信一に追われることに。駆け込んだ理髪店の店主・龍捲風を人質に取るが返り討ちに遭い、窓から落下して大怪我を負う。

PP1「プロットポイント1(PP1)」:「燕芬姐のもとへ」
龍捲風が大ボスに払った手切れ金を支払うため、洛軍は城砦で働く事になり燕芬姐のもとへ向かう。

F&G「ファン&ゲーム」:「城砦の日常」
城砦で暮らす人々の日常や人情味溢れる龍捲風の姿が城砦というコミュニティ固有の魅力として描かれている。

Battle「バトル」:「城砦で働き始める」
城砦での慣れない仕事に悪戦苦闘しつつ、生きがい、そして自分の居場所を見つけていく洛軍。

Pinch1/Sub1「ピンチ1」/「サブ1」:「龍捲風と秋兄貴の会話」
秋兄貴の元を訪れ、その妻子の仏壇に手を合わせる龍捲風。陳占の息子を探し出し、子孫まで根絶やしにすると語る秋兄貴の目に、復讐の炎がまだ消えていないと知る。

MP「ミッドポイント」:「龍捲風に『ここにいたい』と話す」
龍捲風に「ここにいたい」「もうどこにも行きたくない」と伝えると部屋の鍵を渡され、洛軍は正式に城砦の中に住む場所を与えられる。

Reward「リワード」:「自分の居場所」
龍捲風や信一たちとの絆を得て、難民で身寄りもない洛軍が城砦を自分の居場所と思うようになる。

Fall start「フォール」:「逃亡を画策」
洛軍が殺人王・陳占の息子であると明らかになる。かつて陳占に妻子を殺され、虎視眈々と復讐を狙っていた秋兄貴が洛軍を殺しに来ると考えた龍捲風、信一たちは先んじて洛軍を逃がそうとする。

Pinch2/Sub2「ピンチ2」/「サブ2」:「大ボスが秋兄貴に接触」
陳洛軍こそ陳占の息子であり、龍捲風はそのことを知りながら隠していたのだと秋兄貴を焚き付ける大ボス。

PP2(AisL)「プロットポイント2」:「秋兄貴に腹を刺され、意識を失う」
秋兄貴と対峙した洛軍。ナイフで腹を刺され致命傷を負う。

DN「ダーク・ナイト・オブ・ザ・ソウル」:「3ヶ月後、意識が戻る」
3ヶ月後、洛軍は目覚める。その間に秋兄貴は大ボスの謀略によって監禁され、王九は大ボスを暗殺して城砦を支配していた。洛軍は虎兄貴の元を訪れて龍捲風が死んだことを知り、ボート小屋で暮らす信一たちに会いにいく。城砦で育んだ絆が失われていないと感じた洛軍は、城砦を取り戻すため、王九との戦いに臨むことを決意。

BB(TP2)「ビッグバトル(スタート)」:「王九と対峙」
一人で城砦に乗り込み、王九と対峙する洛軍。すぐさま信一たちが加勢。

Twist「ツイスト」:「硬直に苦戦」
王九の使う気功による体の硬直によって、あらゆる攻撃が無効化され、苦戦。

Big Finish「ビッグフィニッシュ」:「信一が王九を倒す」
洛軍が飲ませたナイフの切先が王九の体に穴を開け、気功を無効化。最後、信一がナイフで王九の腹を突き刺し、龍捲風の敵を打つ。

Epilog「エピローグ」:「秋兄貴を解放」
王九に監禁されていた秋兄貴を解放。城砦が取り戻される。

Image2「ファイナルイメージ」:「城砦からの景色」
城砦から見える美しい香港市街の風景。血塗られた因習を持つ土地としてのオープニングイメージとの対比。

【作品コンセプトや魅力】

 香港アクション映画。かつて実在した九龍城砦のスラムとその取り壊しという史実を縦糸に、出自不明の密航者・陳洛軍の運命を巡る復讐劇が絡み合う。迷路のような九龍城砦を使った迫力のバトルが楽しい大河アクション。

【問題点と改善案】(ツイストアイデア)

 まず脚本上の問題点として「主人公・陳洛軍のセットアップ不足」を挙げる。彼自身がどのような人間であるかというセットアップ、いわゆるキャラクターコアが終始曖昧なまま物語が進む。これは冒頭から洛軍の外的葛藤を中心に展開してPP1を迎えることに起因している。
もちろん彼がどんな想いで何を求めて香港に来たのかの大筋は、当時の中国本土の混乱から逃れるためという史実の文脈からある程度推し量ることができる。しかし「あの時代に無数にいた密航者の一人」でしかない彼では、身分証を作って香港で人生を再スタートさせようとするという、ある意味没個性的なwantしか持ってないように映る。彼が個性ある人間としてどんな主義思考を持つかはあまりに見えず、今ひとつ主人公たりえない。結果として、特にPP1からMPまでのシーケンスにおいてプロットアークが優位でキャラクターアークがほとんど感じられない。BattleからMPでの彼自身の変化やアイデンティティの獲得、その後の急転直下に十分感情移入できないようになってしまっているのだ。
 一見すると本作はアクションのように見え、ホラーやミステリーと同様、キャラクターがある程度クリシェでも最低限成立するジャンルと考えるかもしれない。しかしPP1からMPまでは洛軍によるアクションは殆ど描かれず、実質ヒューマンドラマとして展開する。セットアップの不足がここの部分を脆弱なものにしてしまっているのだ。そうやって匿名性高く彼を描写しているのは意図的なものと思われる。序盤で洛軍個人に関する情報開示がほとんどなされないことで、身寄りのない彼のアイデンティティの空白を強調し、かつMPで明かされるまで彼の出自を秘匿しておきたいという演出意図であろう。
 一方で物語上、彼が「何者であるか(誰の息子であるか)」を伏せることはミステリー要素として機能しても、それが「彼はどんな人間か(性格・主義)」までをも不透明にして良い理由にはならない。その範囲において、彼自身の性格や主義思想を序盤から開示することができたのではないか。(未読だが原作小説ではそういった背景は充実しているようなので、読んでみたい。)
 ツイストアイデアとしてはキャラクターコアを最初に描いてしまうというもの。洛軍のneedは家族に代わる情緒的な繋がりやコミュニティであり、MPでの龍捲風への告白によって初めて開示されるが、先に描いておけば、その後城砦で奮闘する彼の姿も擬似家族形成の過程としてアークを描くことができるのではないか。例えば、トップシーンの回想から、「そんな過去があった九龍城砦も、今や多数の難民を抱える巨大スラムと化していた。今日もまた一艘の船が新天地に活路を目指して進む」という具合に洛軍の乗っている密航船の風景に繋げる。大荒れの船室の中でたまたま乗りあった密航者の若者と会話する洛軍。香港を希望の土地と捉え、自分が渡航した後、金を貯めて家族を呼び寄せる予定だと明るい未来を語る。笑顔で聴く洛軍は「お前も家族のためか?」と問われ、「家族はいない」と応じる。幼くして両親を亡くしていることなどもここで語る。「では何のために?」と、返事に詰まる。そこで大シケで海に投げ出される。命からがら瓦礫に捕まった洛軍が見上げると、香港の港と城砦の明かりがうっすらと見えてくる。メインタイトルへ、という具合。ここを起点にいくつかエピソードを調整すればアークを描けるのではないか。例えば大ボスとの出会い方も、初めは正体を知らずに懇意になるも騙されたタイミングで黒社会と知って、拒むという風な形。
 さらに言えば洛軍が陳占の息子であることは観客にはPP1などで明かしても良いのではないか。陳占の息子であると知りながら彼を受け入れる龍捲風の姿を印象付けることが、テーマに繋がる。過去の因縁を子世代に持ち込まないようにする龍捲風と、敵討ちを辞めようとせず、陳占の息子探しを続ける秋兄貴の対比を序盤から描き、核心に迫ろうとする秋兄貴とのやり取りを緊張感ある攻防として観ることができる。そこまでする龍捲風の背後には陳占と交わした男同士の約束があったことだけ、MPで明かす。
 その他の問題点については簡単に済ませる。まず「主人公不在のAct2後半」がある。受動的な洛軍だがMP以降は存在すら失い、Act2後半の実質的な主人公は龍捲風や信一になってしまっている。早々に虫の息になった洛軍に代わって、因縁の当事者である龍捲風らが先陣を切って立ち向かう姿はある意味正しい。一方で洛軍の生死が「親世代の因縁を子世代が打破できるか」という命題を担っている構図からすると、プロットアーク上のPP2は城砦が奪われたことではなく、洛軍の(偽りの)死である方がテーマを体現するのではないか。ツイストアイデアとして、Act2後半は男同士の約束を守って洛軍を守る龍捲風と、その命を狙う秋兄貴(に加勢する大ボスたち)の対立をアクションとして描く。結果、PP2で洛軍は秋兄貴に刺されるも、自世代の因縁をここで断ち切ろうと命を張って守った龍捲風のおかげで致命傷を免れる。その後、満身創痍の城砦に大ボスたちが乗り込んで乗っ取ったり、秋兄貴が監禁されたりが続ければいい。
 最後に「ビッグバトルのあっけなさ」を挙げる。気功による硬直を使いあらゆる攻撃を無力化する王九には為す術なく思えるも、洛軍が飲ませたナイフの切先を飲み込んで、あっけなく自滅。気功を使う敵キャラもこの倒し方も香港映画にはよく出てくるらしく、そういうものと言われたらそれはそれで様式美として受け取るが、やや拍子抜けした。

【感想】

「好き」4「作品」3「脚本」3
 九龍城砦という香港のアイデンティティを象徴する場所を舞台に、史実を織り交ぜ展開する大河アクションという企画自体はグローバルな市場でも個性を発揮する魅力があると感じる。城砦を舞台としたアクション自体は今まで幾度も作られてきたようだが、本作は単に城砦をアクションのギミックを演出するセットとしてではなく人情味溢れる土地としてノスタルジーを持って描くのが特徴である。実際、史実の城砦についてとても興味を持ったというのが第一の感想である。
 一方、主人公である陳洛軍の物語として見ると物足りなさは残る。殺人王・陳占の息子という運命を背負う彼だが、実際にその事実と葛藤して戦うのは龍捲風の方である。当人は自身の運命を知らされるや否や、訳も分からぬ内に腹を刺されて意識を失う。もはや龍捲風が主人公といえよう。総じて洛軍のドラマはほとんどが外的葛藤によって進行し、絆といった曖昧でクリシェな内的葛藤のみが描写されることで感情移入できる度合いが少なくなっているのである。
(さいの、20026.01.24)

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