『トイ・ストーリー4』(三幕構成分析#10)

ようやく『トイ・ストーリー4』を見てきました。個人的にはシリーズで一番好きでした。点数をつけるとすれば合格点は優に超えている、それでも分析の視点でみると、もっと点数を稼げたと思えるポイントもある。80点で合格点のところ93点ぐらいとれている、けれどもう3点ぐらいとれたはずだというかんじでした。脚本がよく出来ているからこそ学べたものもすごく多かったです。まずは簡単にビート分析から始めていきます。映画館で一度見ただけなので記憶違いがあるのはご容赦ください。

※以下、ネタバレ含みます。

ログライン
9年前に別れたボー・ピープの言葉を忘れられないウッディは、持ち主の少女ボニーのためにフォーキーを連れ戻そうと奮闘し成功するが、自分はボー・ピープとともに旅立っていく。

【ビートシート】
Image1「オープニングイメージ」:ティーザーとしての過去シーン。最近のディズニーアニメ映画では、トップシーンの数分がショートムービーになっていて一気に観客を引き込む構成をとっている。まだディズニーアニメ以外では見たことがないが、これを「ティーザー」と呼んでいる。『アナと雪の女王 (字幕版)』『ズートピア (字幕版)』などが顕著で、主人公のセットアップをしているようで、その中にしっかり三幕構成があってショートムービーのように仕上がっているから見事だ。『カールじいさんの空飛ぶ家 (字幕版)』が最初ではないかと思っている。もともとショートムービーであったものを長編の冒頭にもってきてセットアップとして使うパターンから、逆に企画段階のプレゼンや予告編をショートムービーとして作ってしまうようになったのではないかと推測している。プレゼンをするにも三幕構成になっている方が訴求力が強くなるからだ。オープニングクレジットが始まる前の「ティーザー」を軽く分析すると→雨から始まり(ちなみにCGの仕事をしている友達が雨の描写が素晴らしいと言っていた)、「ちゃんと戻ってこれるかな」というセリフ(誰が言ったか忘れた)で始まる。これはビートでいう「カタリスト」から始まっている。無駄の一切ない見事なはじまり。すぐにウッディと持ち主のアンディが帰ってくるので「誰だろう?」と思わせる。ウッディが率先してラジコンカーの救出作戦開始が「プロットポイント1」、手を伸ばしたりして協力しながら救出成功で「ミッドポイント」、すぐに窓を閉められて今度はボー・ピープが出ていくことになる「フォール」、ボーと一緒に行くか、アンディのもとに残るかという選択を迫られる「プロットポイント2」。ウッディは残る選択をする。アクト3はない。この後、どうなるかはオープニングクレジットからの本編につながっていく。ここで注目しておきたいのは、アクト2で「救出作戦をして」「一緒に行くかどうか選択を迫られる」というビートは、本編でも繰り返されるということ。つまりティーザーが、全体の構成の縮小版になっていること。これと同じ作りをウディ・アレンの『ミッドナイト・イン・パリ(字幕版)』で見たことがある。アカデミー賞をとった映画だ。ディズニーアニメの「ティーザー」の素晴らしいところはただのキャラクター説明ではなくコアとなるエピソードをギュッと凝縮して、それを説明的でなく三幕構成の勢いにのせて見せるところ。ラジコンカーの救出作戦をやらずにボー・ピープとの別れのシーンから始めることだってできる(実写映画ではこういうセットアップの仕方はよくある)が、あえて三幕構成でセットアップしている。これは、自己紹介で喩えると、ただ名前を言って頭を下げる自己紹介ではなく、面白いことをやって注目させてから名前を覚えてもらうテクニックと同じ。だから観客はウッディの気持ちにフックされやすくなる。

CC「主人公のセットアップ」:「新しい日常」改めて新しい持ち主ボニーのもとでの日常から始まる。ウディは、女の子遊びでは必要とされていない。寂しさを感じながらもボニーの役に立つことをポリシーとしている。過去三作品での成長を引き継いだキャラクターがトイ4におけるウッディのコア。ティーザーで見せられているのでセットアップ済み。

Catalyst「カタリスト」:「フォーキーが家にやってくる」。トイ1でバズがやって来たのと似ている。トイ1ではバズに対して嫉妬が始まるが、トイ4の成長しているウッディの態度は大人。フラットなアークのキャラクター=自分が変化するのではなく周りを変化させていくキャラクターとして動く。具体的には次のディベートにつながっていく。

Debate「ディベート」:「フォーキーにゴミじゃないと言い聞かせる」励まし、諭す、車から降りたフォーキーを追いかけて二人になるところもトイ1と似ている。バズといがみ合ってたのに比べると、疲れたフォーキーを抱っこしてあげるあたり、だいぶ違う。フォーキーとは親子のように描かれている。詳しくは後述するが、この段階でフォーキーが「ボニーのところに戻りたい」と変化しているのはトイ4の唯一の失点。フォーキーが赤子っぽいのは、監督が子供が産まれたばかりというのが影響しているのかもしれない。

Death「デス」:「アンティークショップでギャビーギャビーにフォーキーが囚われてしまう」死を連想させるものがあったか不明。ギャビーギャビーの取り巻きは恐怖を連想させるが……。ともかくストーリー上では、フォーキーを失ったことで「救出作戦」というアクト2に入ることになる。アンティークショップにはウッディが自ら惹かれて入っていくが、全体をウッディとボー・ピープのプロットのように捉えると、ここが「カタリスト」になり、ボーとの再会が「プロットポイント1」ということになる。しかしアクト2でやっていることは「ボーとの友情を深めること」ではなく「救出作戦」である。

PP1「プロットポイント1(PP1)」:「人間の少女ハーモニーに連れ出されて公園へ」アンティークショップのドアから連れ出されるあたりが門といえるが演出があまり、プロットポイントを意識した演出になっていなかったように思う。むしろアンティークショップに入って行くときの方が非日常の世界へ入っていく印象が強かった(もっと前のフォーキーと二人になった地点もバディプロットであれば非日常になる)が、そこではまだメインプロットが始まっていない。アンバランスとも言える。ちなみにDVDではないので時間が計れなかったが、アクト2の始まりは遅いと思う。トイ1でも遅い。

Battle「バトル」:「公園で子ども達に遊ばれる」ややトイ3を連想させるシーン。ウッディは逃げるようにして、救出に向かおうとする。「デス」→「プロットポイント1」の勢いが弱いので、非日常感も弱いと思う。その他に、バズの行動や、ボニーの家族の車を止めるなども、すべて「バトル」と言える。群像劇では、主人公だけがビートを踏む必要はなく、全体として「フォーキー救出作戦」に動いていると捉える。

Pinch1「ピンチ1」:「ボー・ピープと再会」非日常の世界=公園に来たからこその再会である。ウッディが持ち主ボニーのもとから離れなければ出会わなかった。サブプロットのキャラクターと出会うのは非日常の世界にでたからである。ラブがメインプロットであれば、ヒロインは「ピンチ1」ではでてこない。アクト1からセットアップして、関係が近くなるのが「プロットポイント1」になる。ボー・ピープとの関係はサブプロットとして始まる。

MP「ミッドポイント」:不明瞭だが印象としてはバズが合流してアンティークショップに侵入するところ。中に入ってシャンデリアを二人で眺めるシーンは、サブプロットと交差していていかにもミッドポイントらしい。フォーキーとギャビーギャビーがやや親密になるのもこの辺りで入っていたように思うが確かではない。ミッドポイントの前は屋外、ミッドポイントの後は屋内という切れ目で、アクションやミッションものでは、こういう役割のミッドポイントがよくある。

Fall start「フォール」:不明瞭。おそらくウッディが通路に飛びだしてしまい、ボー・ピープが考えていた作戦に失敗になるところ。ややとってつけたような印象だが・・・。DVDがでて見直したら意見が変わると思う。

Pinch2「ディフィート or ピンチ2」:「デューク・カブーン登場」2人目のサブキャラクターの登場タイミング。セオリー通り。

PP2(AisL)「オールイズロスト or プロットポイント2」:「救出失敗。ボー・ビープと喧嘩」ウッディはフォーキーを諦めないが、ボー・ビープ達とバズは諦めてさっていく。仲間を失う。

DN「ダーク・ナイト・オブ・ザ・ソウル」:ウッディには迷いがないので、ウッディとしてはこのビートはなかったように思う。フラットなアークのキャラクターはほとんど迷わない。代わりにバズやボー・ピープがこのビートを踏んでいる。見捨てられず戻ってくる。

BB(TP2)「ターニングポイント2」:「ギャビーギャビーも連れていくと決める」ギャビーギャビーの孤独に触れて、フォーキーと引き換えに発声器を渡す。英雄的な自己犠牲をあっさりとこなすウッディはここでも大人。人間であれば腎臓を一つあげるようなものだろうか?アンディのお気に入りであった頃であれば抵抗したと思うが、あっさりとしている。それどころか人間の少女ハーモニーに拒まれたギャビーギャビーをボニーのもとへ連れていこうとする。展開的には時間内に連れて戻れるかというビッグバトルが始まる。ツイストはギャビーギャビーが迷子になった子供に拾われていくところ。この決着はトイ3のロッツォの決着に比べるときちんと描かれていて感動的(ロッツォは改心したと見せて裏切り、悪いやつのままギャグのようなオチでおわる。せっかくのロッツォの悲しい過去に共感して改心してよかったと思った観客の気持ちを、裏切った形で決着させている)。みんな戻ってビッグフィニッシュというのもありえたが、外の世界で生きていくボー・ピープと行くかの選択を迫られる。ここは冒頭のティーザーとの対比になるので、雨とかラジコンカーとか、過去を連想させるアイテムを入れるべきだったと思うが、ともかく、9年経ち、もう一度、同じ選択を迫られるウッディは、前とは違う決断をする。この結末をどう捉えるかはテーマの解釈なので、観客次第。詳しくは後述。

image2「ファイナルイメージ」:イメージアイテムとしては機能していないが、ウッディがいなくなった日常ではジェシーがバッグに入って幼稚園についていき、フォーキーと同じ新しい手作りオモチャ。

いくつか後述と書きましたが「テーマ」やトイ4から学んだ「キャラクターとビートの意義」など改めて記事にします。

キャラクター概論28『トイ・ストーリー4』から考えるキャラクターレベル5段階

『トイ・ストーリー4』のテーマを考える「新たなる希望フォーキー」

また三幕分析に基づく「イルカとウマの読書会」も定期的に開催しています。詳細はこちらから。ご興味ある方は、ご参加お待ちしております。

緋片イルカ2019/08/15

三幕構成の分析に基づく読書会も開催しています。興味のある方のご参加お待ちしております。

がっつり分析のリストはこちら

構成について初心者の方はこちら→初心者向けQ&A①「そもそも三幕構成って何?」

三幕構成の本についてはこちら→三幕構成の本を紹介(基本編)

キャラクター論についてはこちら→キャラクター分析1「アンパンマン」

文章表現についてはこちら→文章添削1「短文化」

SNSシェア

フォローする