映画『ジョーカーゲーム』(三幕構成分析#76)

※この分析は「脚本講習」の参加者によるものです。

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【ログライン】

人間観察に優れ、周りの空気を読んで自分を守ってきた赤沢千夏(北原里英)は頼りの横江美奈子(小池唯)と高校3年生全員での特別合宿に参加、転校生の大野(高月彩良)と相部屋になる。彼女らは負ければ矯正施設行きの「ババヌキ」をさせられ、ゲームを委託した大野が高島(大久保祥太郎)に勝つと、美奈子は千夏から絶交される。千夏は一人最後まで勝ち残り、負けた大野を救出して施設から共に逃げる。

【ビートシート】


Image1「オープニングイメージ」:「千夏、歩道橋の上で携帯が鳴る」歩道橋の上で、手すりに寄り掛かって髪クリップを手に所在無げな千夏の後ろ姿。携帯電話のバイブ音。「またぁ?」と千夏が駆けていく。

カットバックの職員会議シーンで校長から、これから始まる合宿では生徒に「他人の気持ちを思いやることを学んでもらいたい」と話される。これがこの映画のテーマだ。

CC「主人公のセットアップ」:「美奈子と高島の元へ駆けつける千夏」千夏が走っていった先には美奈子が高島のネクタイを結んでやりながら歩いている。美奈子はあまり悪びれず千夏に謝る。千夏は美奈子と待ち合わせでもしていたらしいが、また振り回されたようだ。千夏はあまり自分を主張せず周りに合わせる性格らしい。その性格はこの映画の「ディベート」にも現れる。また、そこで彼女の優れた人間観察力が発揮される。

Catalyst「カタリスト」:「千夏の手持ちカードにジョーカー」合宿初日、生徒たちは滝沢先生(古舘寛治)から4日間「ババヌキ」をするよう言い渡される。運悪く千夏の手持ちカードにはジョーカーが入っていた。

Debate「ディベート」:「美奈子に導かれて、下川にジョーカーを取らせる」千夏は大野とゲームしようとするも、相手にジョーカーを渡すことを気に病んで、止めてしまう。千夏は美奈子にジョーカーが入っていることを打ち明けると、美奈子は下川(吉田まどか)にジョーカーを取らせるよう、ゲームに誘う。下川がジョーカーを取ったところでゲームを切り上げる美奈子。千夏は下川が誰かにジョーカーを渡すことを願う。彼女は罪の意識を感じつつも他人に流されるままだ。下川は結局最後の二人まで残ってしまう。千夏は下川の様子からジョーカーを持っていることを察する。

Death「デス」:「下川が敗北する」ジョーカーを持っていながら、誤魔化すように笑ってカードを見つめる下川は敗北してしまう。先生から人生の敗北者と告げられ、下川は麻酔銃で撃たれる。泡を吹いて倒れ、連行される下川。騒然とする教室を先生が一喝する。

「ジャンルのセットアップ」:「デスゲームのホラー、スリル」)

PP1「プロットポイント1(PP1)」:「大野が千夏と美奈子が下川にジョーカーを渡したことをほのめかす」合宿所の部屋で「ババヌキ」について話す千夏たち。美奈子は運だけだと言うが、大野はジョーカーを持たなくていい方法がわかればいいのだという。それは千夏と美奈子が下川にやったことだと。千夏たちがやったことがはっきりと告げられて、第二幕に入る。彼女たちがやっているのはもう遊びではない。世界は変わってしまったのだ。

Pinch1「ピンチ1」:「浅野がパニックで教室を飛び出し撲殺される」合宿2日目。早々に欠席者が出る。点呼に間に合わない者は失格だ。失格者は撲殺される。見せしめの監視カメラ映像が映され欠席者が次々と撲殺される。この無茶苦茶なデスゲームのホラーはこの映画の「お楽しみ」だ。相部屋だった浅野(溝口拓哉)が先生から責められ、パニックで教室を飛び出す。しかし彼も校庭で無残に撲殺される。この様子を見て、高島をはじめとした教室の空気は一変する。もう逃げられない、死ぬ気でゲームに挑戦するしかない。

Battle「バトル」:「3日目のババヌキが始まる」3日目、それぞれがこのババヌキによって心の戦いが始まる。勝つということは当然相手に負けてもらうということだ。その勝負の覚悟が問われる。神田(白又敦)との喧嘩のどさくさにジョーカーを横山に押し付ける高島。高島は他の男子生徒たちを自分に委託させ、勝ち抜けようというのだ。そして、その覚悟が持てない神田を責める。その様子を見抜いた千夏はやはり自分の意思はいったん留保し、美奈子の許可を得て、大野へ委託する。一方、上田は自分が提案したジョーカーを持たぬ者だけの手持ちを明かすゲームでいち早く抜けてしまいそうになると結局揉めてしまう。

MP「ミッドポイント」:「高島が神田と立場が逆転し契約を得る」51分たったところで、死ぬ覚悟を持った高島は神田に土下座させ、立場が逆転。高島にミッドポイントのビートが与えられ、彼はこの旅で「まやかしの勝利」を手に入れる。主人公の千夏は高島の行動を察知し、美奈子の許可をとって、大野に委託する。そして女子生徒たちのもめ事から先生に契約を勧められた上田(伊倉愛美)と横山の4人のゲームになる。

Fall start「フォール」:「上田から大野に負けるよう言われる」横山が抜けると上田から契約数の少ない大野が負けろと言う。大野はそれを受け入れ、「危険度がアップ」する。大野が上田に取るカードを指定すると、上田は勝ち抜けてしまう。

Pinch2「ピンチ2」:「大野が高島に勝つ」負けることを約束した大野だが、ジョーカーカードにある印を隠している様子だ。高島はそんな彼女を信じられず、負けてしまう。次々と連行される高島たち。自分も連れて行くよう美奈子が泣き叫ぶ。千夏たちは大野の策によって勝利を手に入れるが、勝負の悲惨さにうんざりする千夏。矯正施設行きの車を見る大野と千夏。AとBストーリーが交差して、大野がフェンスの向こうにある姉が作った逃げ道に案内する。仲間外れにされて矯正施設行ってしまった姉は最後にみんなが助かるならいいと笑ったと言う。大野の姉は千夏の「導き手」(メンター)だ。

PP2(AisL)「プロットポイント2」:「美奈子が千夏と絶交する」大野によって高島を矯正施設に送られた美奈子は大野を信じることが出来ない。その大野を信じる千夏も美奈子にとっては許せない。70分たったところで、美奈子は千夏が空気を読んでいるふりをして自分のことしか考えていないと告げる。そして、ウザイからもう近づくなと高島から言われた言葉と同じ言葉を千夏に言う。高島と美奈子は第二幕のアンチテーゼ、敵と味方を分ける政治家だ。千夏はこれまでずっと頼りにしていた美奈子を失う。

DN「ダーク・ナイト・オブ・ザ・ソウル」:「最終日、誰もゲームを始められない」4日目、最終日。誰もゲームを始めることが出来ない。美奈子が口火を切って、皆に自分に委託するように言う。横山を皮切りに次々と美奈子に委託する。美奈子が言う「ババヌキ」とは仲間外れを作るゲームだ。誰からも信用を得られなかった仲間外れはおとなしく負けろと。

BB「ビッグバトル」:「最終日のババヌキ」美奈子の言葉に千夏が決意する。美奈子はみんなのために戦う正義だ。それと同様に、自分の正義は自分で守らなければならないと。千夏の正義とは何なのか。
大野は騙された姉の思いを味合わせるために、美奈子を騙してジョーカーをとらせる。しかし、美奈子は勝ち抜け、千夏と大野の勝負になる。直後先生から姉が施設にいないことを告げられ、大野は目的を無くし、彼女は負けられない戦いになる。
千夏は大野と同じように取るカードを指定すると、大野はその言葉を信じることが出来ずにジョーカーをとってしまう。
最後のターン、千夏はその観察眼で大野の癖に気がつき勝利する。大野は自分が友達を信じることの出来ない仲間外れだったことに気づく。

image2「ファイナルイメージ」:「千夏は大野を救出し施設から逃げる」連行される大野。それを見ている千夏。係員が千夏を追い出そうとすると、彼女は麻酔銃で係員たちを撃つ。驚き戸惑う大野。そこへ立ちふさがる先生。万事休すかと思われたが、先生は後ろから撃たれる。大野が撃ったのだ。千夏の信頼は大野に伝わった。ファイナルイメージは2人が施設を後にして姉の作った出口に向かって走る姿だ。オープニングの他人に振り回されて走っていた姿ではない。これが真の金の羊毛の結末。ジンテーゼだ。友達を信じること。友達を思いやること。自らの正義を自らで守った千夏。2人がこの世界とは違う世界へ向かっていくのを昼の月が見ている。

【感想】

デスゲームとしてのババ抜きの陳腐さ。敗北は死ではないことやカードを明かせる自由さの設定とちぐはぐなシーン、美奈子が絶交するシーンなどに説得力が欠けるところは色々と上げられるが、このデスゲームを通して現代の競争社会で味わう生徒たちの心の葛藤については十分にくみ取れるものがある。それが、デスゲームものが流行し、これまで沢山消費された理由であり、今もなお生産され続けているわけだ。
この映画で勝ち抜いていった上田や美奈子、そして彼女たちに委託し、嬉々としていた生徒たちが学んだ絆とはいったい何なのか。そしてその世界から脱出した2人が目指した世界とは何なのだろうか。これは私たちが直面する新自由主義的な社会、格差社会について考えるためのよくできた寓話だ。

(川尻佳司、2022/10/15)

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