この記事はテーマは文章にせよ(文章#27)の補足です。
上記の記事で説明したことを、もう少し具体的に、創作に応用する方法として説明してみます。
三幕構成 中級編(まえおき)
三幕構成の中級編と称して、より深い物語論を解説しています。
中級編の記事ではビートを含む用語の定義や、構成の基本、キャラクターに対する基本を理解していることを前提としています。しかし、応用にいたっては基本の定義とは変わることもあります。基本はあくまで「初心者が基本を掴むための説明」であって、応用では例外や、より深い概念を扱うので、初級での言葉の意味とは矛盾することもでてきます。
武道などで「守」「破」「離」という考え方があります。初心者は基本のルールを「守る」こと。基本を体得した中級者はときにルールを「破って」よい。上級者は免許皆伝してルールを「離れて」独自の流派をつくっていく。中級編は三幕構成の「破」にあたります。
以上を、ふまえた上で記事をお読み下さい。(参考記事:「三幕構成」初級・中級・上級について)
超初心者の方は、初心者向けQ&A①「そもそも三幕構成って何?」から、ある程度の知識がある方は三幕構成の作り方シリーズか、ログラインを考えるシリーズからお読みください。
「テーマ」の決め方
説明上の例として「犯罪」というテーマを立ててみます。
これはライターズルームの課題「犯罪者」とも繋がるものです(脚本課題の意図1:「犯罪者」「コメディ」「ホラー」「ラブストーリー」)
この課題に取り組もうとするとき、まずは「題材」として罪の内容を決めることになるでしょう。
「殺人」としてみます。
これだけでは「構成」と噛み合ったテーマにはなりません。
下記の図を「ストーリーサークル」と呼んでいますが「テーマ」と「構成」の位置を見てください。
「テーマ」と「構成」がきちんと絡みあって「物語」になるのです。
また「テーマ」は「視点」と「題材」が重なった部分にあります。
つまり「殺人」という「題材」に対して「視点」が加わることによって、テーマになるのです。
では「視点」とは何か?
簡略化して考えますが、一言でいえば「肯定」か「否定」です。
「殺人はいけないこと」というのは倫理的な一般論です。
ひとまず、これで「テーマ」になりました。
(殺人は罪じゃないというテーマで書かれれば『罪と罰』が浮かびますね?)
テーマを「構成」に組み込む
次に「殺人はいけないこと」というテーマを構成に組み込んでいきます。
組み込み方もいくつかパターンがありますが、シンプルにハッピーエンド(「ストーリー価値とエンディングの種類」(中級編3))とします。
つまり、ラストは「やっぱり殺人はいけないな~」という結論を主人公が出すような構成にするのです。
ラストが「殺人はいけないこと」という価値観の肯定(いけないという否定表現ですが、テーマに対しての肯定・否定と考えてください)。
これも一番シンプルな例をあげてみます。
「殺人はいけないこと」というスタートから始まって「本当にそうだろうか?」という展開(アクト2、非日常、旅)を経て、最後は「やはり殺人はいけないんだ!」で終わる。
スタートというのは、ほとんどは主人公のwantに繋がりますので「殺人はいけない」という価値観のもと、行動する主人公をつくります。
誰でも浮かぶのは「刑事」や「検察」といった職業でしょう。
「プロットアーク」中心で、ただ事件を捜査するミステリープロットだと、それほどテーマは浮かびあがりません。
ですが、事件を捜査しながら「キャラクターアーク」が描けていると「殺人はいけないこと」というテーマが掘り下げられます。
そのためには、アクト2では「主人公の価値観が揺らぐような事件」に遭遇する必要があるでしょう。
主人公がそれまで信じていた価値観が「本当に自分は正しいのだろうか?」と迷うのです。
それでも、アクト3では決断します。
迷いは抱えながらも、最後まで自分の正義を貫く。
犯罪者に同情の余地は多分あるけれど「やはり殺人はいけないんだ!」というテーマが浮かび上がるのです。
ちなみにラストで主人公が闇落ちすれば(つまり殺人してもいい!と変化すると)ネガティブエンドになりますが、それは別パターンなので割愛します。基本が掴めれば応用はできます。
「構成」と「シーン」
「ストーリーサークル」を再掲します。
今度は「描写」の位置を見てください。
「描写」は「テーマ」「構成」と重なって、「物語」をつくる三本目の柱です。
「描写」の大きな要素に「シーン」があります。
さっきのストーリーを一度、まとめます。
「殺人はいけない」という価値観をもった主人公が、アクト2で「本当に自分は正しいのだろうか?」と迷う、でした。
では、「本当に自分は正しいのだろうか?」と迷うようなシーンは具体的にどんなでしょう?
どんな殺人事件で、どんな犯人なのか?
たとえば「父親を殺してしまった少年」が犯人だとして「父親にDVを受けていた」としてみます。
「DVに耐えかねて、ある日、父親を刺してしまった」
これだけでテーマは掘り下げられているでしょうか?
甘いですね。
この程度の設定で、主人公が迷うようであれば、主人公に魅力が半減します。
共感できないのです。
観客を、理屈で説得しようとしている「作りもの」のストーリー、ウソっぽい人物に見えてくるのです。
現実社会でも、似たような哀しい事件が起きています。
多くの人(その人たちは観客でもあります)は「DVは可哀想だけど、殺しちゃだめだよね」と思うでしょう。
観客は、主人公には自分の気持ちの上をいってほしいものです。
では、どういう「シーン」(設定でもありますが)にすればいいのか?
そこには、作者のオリジナリティが求められます。
「構成」や「テーマ」は客観性が高いので、作者以外の人間でもアドバイスをしやすいものですが、「描写」は作者自身のものです。
そこまで第三者が考えるなら、作者は不要です。
呻りながら考えて、自分だけの「シーン」を考えるのです。
それが思い付いたなら「物語」は完成に大きく前進しているでしょう。
ありがちな「シーン」(クリシェ)で満足しないように。
「テーマ」を「セリフ」で滲ませる
「描写」のうちで「シーン」の選び方を考えましたが、もう一つ「セリフ」と「テーマ」を考えてみましょう。
「ストーリーサークル」3回目の登場です。
「描写」は「視点」と「人物」の重なったところにあります。
つまり、いろんな「視点」をもった「人物」(キャラクター)を配置してみるのです。
主人公の価値観は「殺人はいけない」でした。
犯人はどうでしょう?
犯してしまった罪に対して「正しいことをした」と思っているとします。
主人公と対立する価値観をもっていれば、シーンでも自然と対立するでしょう(アンタゴニストというキャラクターロールになります)
主人公「どうして殺したんだ?」(なぜ罪を犯した?と非難する)
犯人「社会のためだよ。あんな奴は死んだ方がいい」(正しいことをしたと思っている)
主人公、その言葉に顔を顰める……(共感できない=対立)
犯人が「殺人はいけない」と思っていたら、対立は成立しません。
主人公「どうして殺したんだ?」
犯人「カッとなって、気づいたら殺してたんです……」(後悔している)
主人公「やってしまったものは仕方ない。これから罪をつながっていこうな」(共感、同情している)
このまま、主人公と犯人を会話させてもダラダラと続くだけです。
別のキャラクターを対立させる必要があります(アンタゴニストがいないとテーマがディベートされません)。
周りの人間などに、いろんな価値観を持たせることで多面的にもなります。
「殺人はいけない」と思いつつも心情的には犯人を守ろうとする家族や、一切同情せず犯人を徹底的に非難する人物など。
そんなやつ「死刑にしてしまえ!」などという人もいるかもしれません。
ここから「死刑は殺人ではないのか?」といった、別のテーマが浮かぶかもしれません。
「殺人」という一つの題材に対して「YES/NO」と、その中間の意見を持った「人物」たちを配置していくことで「テーマ」が広がります(広げすぎにも注意ですが)。
各キャラクターが登場するシーンでは「テーマ」に関わる会話をさせるようにすれば、すべてのシーンやセリフが「テーマ」に関わっているように見えてきます。
ムダなセリフや、説明的なセリフとの違いも見えてくるはずです。
注意点としては「作者の視点」に偏らないようにすることです。
作者自身が「殺人はいけない」という価値観を持っていたとしても、それは物語の展開で伝えるべきことです。
たとえば、他のキャラクターが主人公に安直に説得されてしまうような、気持ち悪い「描写」はしないようにしましょう。ご都合展開にみえて気持ち悪いのです。
作者自身の意見とは違っても「殺人してもいい!」という価値観のキャラのセリフには徹底的な説得力をもって喋らせないと、リアリティは出ません。
そういう意味では、作家というのは、いろんな立場の考えや意見を客観的に傾聴する力も求められるのかもしれません。
以上、「テーマ」を軸に具体的に創作していく方法を説明してみました。
緋片イルカ 2023.2.11
2023.2.12 一部修正