キャラクター概論28『トイ・ストーリー4』から考えるキャラクターレベル5段階

前回はスキーマとキャラクーコアについて考えました。
今回は横道にそれますが『トイ・ストーリー4』を見たタイミングで、「キャラクターレベル」ということについて説明したいと思います。

キャラクターレベルというのは造語です。レベルが高いほど物語内の重要度が高いといういえます。最高のレベル5は当然「主人公」です。わかりやすくレベルの低い方から説明していきます。

以下、『トイ・ストーリー4』のネタバレ含みます

レベル1:エキストラ
映画でいうエキストラ役者。セリフがなく群衆中の一人として登場する人。日本ではモブと呼んだりもします(余談ですが撮影現場で役者さんのために用意されたちょっとしたお菓子もエキストラは食べてはいけないそうです)。エキストラは物語の進行には一切からまないキャラクターです。背景と同じです。『トイ・ストーリー4』(以下、トイ4)でいえば、持ち主の少女ボニーの幼稚園にいる子供とかカーニバルにいる人々など。予算のない映画だったらCG描写に手を抜かれそうなところです。トイ4ではアンティークショップに動かないオモチャ達もエキストラと言えるかもしれません。脚本では本文の前に「人物表」として登場キャラクターをリストアップしますが、そこにも載りません。ト書きに名前が書かれることもありません。「タクシーを待っている人の列」とか「祭りで賑わう人々」などの一人です。ちなみにヒッチコック監督の映画では、ウォーリーを探せ風に監督自身がどこかに映っていますが、セリフはなくエキストラとして映っています。

レベル2:マイナー
一言セリフがある端役。「いらっしゃいませ」と言う店員とか、学校のクラスメイト、主人公に助けて貰ってお礼を言うだけの街の人だとか。年齢や、制服を着ているだけで職業が、それとわかる役です。パーソナルな側面は描かれず、ここでキャラが立ちすぎると、ストーリーの流れを崩すことになります。脚本では人物表に「店員A」「男子生徒」といったかたちで載りますが、このレベルに姓名をつけると紛らわしくなります。小説ではレベル3のサブキャラクターとの差別化が重要で、描写の一貫で書き込みすぎるとサブキャラクターに見えてしまい、作者が意図していないミスリードを生むことになります(逆にミスリードさせるためには使えるのですが)。演出の観点で見れば、容姿が良すぎず、個性的過ぎず、観客の気を留めない役者を使うことになります。オーディオドラマであれば、メインキャストが代役することも多いでしょう。例外として、カメオ出演(日本で友情出演)といって、ゲストとして役者の格と合わないレベルの役で出演する場合もあります。トイ4でこのレベルのキャラクターをあげるなら、暴走運手するボニーの父親を取り調べにくる警察官や、ギャビーギャビーを拾っていく迷子の子どもや保護する警察官など、何度も登場していますがアンティークショップのオーナーの老婦もこのレベルです。ギャビーギャビーが拾われたい憧れる少女ハーモニーも名前こそあれ役割としてはこのレベルと言えます。役割としては別の少女でも代替がきくからです。

レベル3:サブキャラクター
ここからが物語のキャラクターと言えます。キャラクターであることの意義は「目的を持っていること」です。トイ4の具体例でいくと、

スリンキーやレックスといった仲間のオモチャ達です。もちろん名前が付いています。ウッディやバズに協力したり、心配したり、各々の性格に合わせてセリフも喋ります。個性があるとも言えます。「オモチャA」ではなく「ポテトヘッド」や「リトルグリーンメン」なのです。ジェシーはトイ2ではメインキャラクターでしたが、今作ではサブキャラクターの役割しか果たしていません。シリーズものではレベルの上げ下げは起こります。レベル2のマイナーの警察官は職業的な役割として子供を保護しますが、それはキャラクターの目的ではありません。似ていますが微妙に違います。もしも、迷子を探す警察官のシーンが増えていけば、警察官のキャラクターレベルがあがってくることになります。しかし映画では時間が重要なので、誰かのレベルがあがれば、別のキャラクターのレベルを下げざるを得なくなります。無駄なキャラクターを描写している時間はありません。

新キャラのバニー&ダッキーは「人間に拾われたい」という目的でバズと行動をともにします。このように他のメインキャラクターとともに行動します(サイドキックという用語もあります)。ラストでバズといかずウッディについていったのはやや謎ですが、どこかで変化をするシーンがあったのを見落としてるのかもしれません。変化しているとなると次のメインキャラクターとなります。

レベル4:メインキャラクター
「目的を持っていること」がサブキャラクターの条件だとしましたが、メインキャラクターはさらに「変化」が加わります。これも具体例のがわかりやすいのでトイ4のキャラクターで。

バズは内面の成長といった大きな変化はありませんが、心の声(胸のボタン)を押してウッディを追いかけたり、ウッディに付き合いきれず車に戻ったりといった外面的な変化をしています。これまでのシリーズに比べるとストーリー上の役割としては弱い印象はあります。

デューク・カブーンは過去にCMのようなジャンプができてなくて子供に捨てられたというトラウマを抱えています。そしてウッディを助けるために大ジャンプに挑戦して成功します。

はじめ敵役のように登場するギャビーギャビーですが、不良品のため一度も子供に遊んでもらえたことなく、声を手に入れるも少女ハーモニーに拾われず、ウッディとともにボニーの元へ向かい、途中で迷子の少女に拾われる決断をします。これは変化というよりもはやキャラクターアークです。変化とアークの違いは厳密にはありません。変化するためにどれだけのシーン(ビート)を使うかの違いだけです。基本的には次のレベルの主人公は作品前編を通して変化していきます。そのための心の機微を描くことがキャラクターアークとなります。それに比べて、サブキャラクターの変化はフリとウケといったレベルの変化でも構いません。変化するという意味では同じです。時間をかければ重要なキャラクター、簡単に済ませばサブキャラクターになるのです。

ボー・ピープは信念の強いキャラクターです。捨てられたことに挫けず、子供に遊ばれることよりも広い世界を見る生き方を選んでいます。ラストで、ウッディはボーと行くか、ボニーの元へ戻るか迷います。ボーが変化してみんながボニーの元へ戻り丸く収まるという展開もありえたとは思います。トイ3までのセオリーではそうなっていました。トイ4の結末に違和感をもつ人は、ここではないかと思います。しかし変化するのはウッディの方でした。ボー自身は変化しませんが、周りを変化させるキャラクターというのは主人公にもなりえます(フラットなアーク参照)。そういう意味からも当然、ボー・ピープはメインキャラクターとして数えます。


フォーキーははじめは自分がゴミだと思ってゴミ箱に落ちようとします。それがウッディの説得をうけて、持ち主ボニーの元へ戻りたいと思うようになります。これも変化です。ただし、これはがっつり分析でも少し触れましたが、トイ4の失点している部分です。フォーキーは次のレベル5の主人公レベルに上げることができたキャラクターだからです。

レベル5:主人公(プロタゴニスト)

もちろんトイ4の主人公はウッディです。主人公はキャラクターアークによる変化をもちます。トイ4におけるウッディは実はフラットなキャラクターです。初めから迷うことはなく、周りを鼓舞して「子供の幸せのため」に行動していきます。これはボー・ピープで説明した周りを変化させるフラットなアークを持ったキャラクターです。ことにフォーキーを救出するという目的に関しては、一切ブレません。そして、最後の最後で、ボーと行くという変化を起こします。これは主人公のキャラクターアークとしてはかなり特殊です。フラットなキャラクターは途中で迷いこそすれ、最後に信念を曲げてはいけません。これがトイ4のラストに違和感をもつ人の原因です。作品内で、ウッディが「外の世界へ憧れる」といった迷いは描かれていません。ウッディは信念ではなく、ボーへの愛をとったということになります。ただ、それにしてはオモチャ同士の濃密なラブシーンを描かないためか恋愛感情はソフトに描かれています。この辺りは、失敗といえば失敗かもしれませんが、新しいといえば新しいプロットの型を提示したといえます。
主人公は基本的には一人です。それはメインプロットと関連します。プロットは「救出作戦」です。その流れに最初から最後まで乗っているのはウッディです。だからウッディが主人公と言えます。つまり主人公は「プロット」を背負っているキャラクターと言えます(ここにはプロットアークとキャラクターアークの違いもありますが、相当ややこしくなるので省略します)。
二人の主人公が対比させるようなアークを持っている場合は、ダブル主人公による「コントラストプロット」となります。一人の主人公が存在せず、メインキャラクターがたくさん登場して、それぞれ変化する場合は群像劇やオムニバスとなります。(コントラストプロットの実例→三幕構成がっつり分析『リベンジ・マッチ』

フォーキーを主人公として格上げした場合、どのようなテーマやストーリーに影響を与えたかなどは以下で、検討していきます。

『トイ・ストーリー4』のテーマを考える「新たなる希望フォーキー」

三幕構成がっつり分析『トイ・ストーリー4』

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緋片イルカ 2019/08/18

次回は……

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三幕構成の本についてはこちら→三幕構成の本を紹介(基本編)

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