「トランジション」(文章#22)

今回はシーンとシーンの繋ぎ方=トランジションについて考えます。

【トランジションとは?】
トランジションという言葉は編集で使われる用語です。ディゾルブとかワイプとか、動画編集をしたことある人なら聞いたことがあると思います。
(わからない方はAdobeの動画をどうぞ)

脚本でトランジションということに言及しているのを見たのは『最高の映画を書くためにあなたが解決しなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術3』が初めてでした。以下のようにあります。

脚本家がこれらの視覚的なトランジションを実施するのを、監督や映画編集者に依存していたのは、それほど昔ではなかった。しかし、今では、脚本家のほとんどが、シーンからシーンに必要なトランジションを書くのは脚本家の責任だと思っている。今時の脚本家の特徴の一つは、良い視覚的なトランジションを書く能力だ。

「今時」なんて言っていますが、この本の出版は1998年です。
さらに4つの主要なトランジションとして以下を紹介しています。

①画像から画像へ
②サウンドからサウンドへ
③音楽から音楽へ
④特殊効果から特殊効果へ

具体例については『最高の映画を書くためにあなたが解決しなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術3』に映画での実例が書かれているので、そちらをご覧下さい。

ここではストーリーの観点からのトランジションの意義を考えてみたいと思います。

【シーンが変わるとは時空を飛ばすこと】
シーンが切り替わるということは「時間と空間をカットする」ということです。
脚本ではシーンのはじめに「柱」という場所指定を立てます。

○電車内(朝)
  太郎、満員電車に揺られている。

○通勤路(朝)
  太郎、疲れた様子で会社へ歩いていく。

太郎というサラリーマンがくたびれた様子で通勤していくだけの2つのシーンですが、○駅と○通勤路の間では時間と場所が飛んでいます。「電車が駅について、ホームにおりて、改札を抜けて、会社までの道を歩く」といった一連の動作、数分間がカットされています。
物語上、不必要なシーンなのでカットされているのです。
これが「時間と空間をカットする」ということです。

何をカットして、どのシーンへ繋ぐかという判断基準は、編集では、脚本や監督の指示にしたがったり、映像のテンポや色味などを考慮して決めることになります。
脚本での判断基準はストーリーの流れです。これこそが、シド・フィールドのいう脚本家に求められるトランジション能力の本質です。

【良いつなぎ、悪いつなぎ】
具体例を示してみます。

パターンA
○電車内(朝)
  太郎が、満員電車に揺られている。

○駅のホーム(朝)
  電車のドアが開き、太郎押し出されてホームに転ぶ。バッグの中身が散らばる。
太郎「なんだよ、もう……」
  落とした手帳を拾ってくれる女性の手。
太郎「どうもすみません」
  太郎、女の顔を見て、
太郎「あ……」

○通勤路(朝)
  太郎、会社へ歩いていく。
同僚「おはよう」
太郎「おはよう」
  並んで歩く二人。
太郎「さっきな、駅で、めちゃくちゃ美人に会ったんだ」

パターンB ※太字以外は同じです。
○電車内(朝)
  太郎が、満員電車に揺られている。

○駅のホーム(朝)
  電車のドアが開き、太郎押し出されてホームに転ぶ。バッグの中身が散らばる。
太郎「なんだよ、もう……」
  落とした手帳を拾ってくれる女性の手。
太郎「どうもすみません」
  太郎、女の顔を見て、
太郎「あ……」

○通勤路(朝)
  太郎、へらへらした顔で会社へ歩いていく。
同僚「おい、何かいいことでもあったのか?」
太郎「わかるか? じつはな……駅で、めちゃくちゃ美人に会ったんだ」

駅のホームで優しい美人に出逢ったところまでは同じです。
Bでは、前シーンのリアクションとしてヘラヘラしていたため、同僚のセリフが自然と「いいことあったのか?」となり、ストーリーが流れていきます。
ストーリーの流れはキャラクター(太郎)の感情の流れでもあります。

パターンAでは、美人と会った後の感情(リアクション)が見えないので、一瞬、流れが途切れてしまっています。
「女性の出会い」から「同僚にそのことを話す」までの筋は同じでもトランジションが悪いと、流れが途切れてしまうのです。
些細なことのようですが50分脚本で柱は平均で40~50個ほどあります。シーンが変わるたびにプツプツと断線するようでは、読みづらくてたまらないでしょう。

また、パターンBではストーリー(感情)が途切れずに流れているので、何も言わなくても「これは、太郎と女性の物語なのだな」と伝わってきて、読者もストーリーに乗って読み進めていけます。
じぶんの書く物語が「誰の、何のストーリーか?」を明確に把握できていないときには、ムダなシーンやセリフが入りがちです、
トランジションを意識することで、そのことにも気付けるはずです。

緋片イルカ 2019/12/02

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