小説『ルーム2』(709字)
初めての〝ルーム〟は痛かった。ユータくんの言葉が体の奥にガシガシと響いてきて、わたしの存在が消えてしまいそうで、こわかった。
初めての〝ルーム〟は痛かった。ユータくんの言葉が体の奥にガシガシと響いてきて、わたしの存在が消えてしまいそうで、こわかった。
『部屋、行かない?』その意味を勘違いしたまま、わたしはOKしていた。
『ママ、もう寝るね』わたしはロキの部屋へ行って、ベッドの中にいる息子に額をつけた。今日の記憶を家族クラウドにバックアップするため。
〝本〟というものについては知っていた。マインドネットがなかった時代には、わざわざ文字というものを使って思考や感情を共有していた、と歴史ファイルにあった。
兄に安楽死したいと告げられたのは三ヶ月前のことだった。放射線治療でつかれたくたびれたと何度も口にするのを励ましつづけてきた。兄はまだ六十二歳の若さだ。
幼い息子を死なせてしまって妻は、死へのドライブへ出ようと言う……
不倫する夫と、不倫する妻。「嘘」ばかりの崩壊家族に、ある殺人事件がふりかかる……(※原稿用紙30枚)
どうやら俺は捨てられたらしい。ダンボールに入れられて数時間。眠ってしまった。目が覚めたら知らない場所に居た。捨てられた猫にも、捨てられないプライドがあった。
家の明かりが消えていた。私は悟った。彼の気持ちに変化があったことを。
ガムはすでに味がしない。噛み続けていたら吐き気がして、反射的に出しそうになったが、僕は意固地になって噛み続けた。