初心者の方はこちらからどうぞ→初心者向けQ&A①「そもそも三幕構成って何?」
前回までに、主人公に「旅」のきっかけである「カタリスト」が起き、そのリアクションとして悩む「ディベート」がくることについて考えてきました。
悩んだ末にいきつくところが今回のビート「デス」=死です。
今回はやや長くなりますが、物語創作でとても重要なポイントなのでご了承ください。
まぎらわしいので区別しておきますが『SAVE THE CATの逆襲 書くことをあきらめないための脚本術』では、「旅」に出る前の主人公の状態を「制止――死の瞬間に瀕している」と表現していますが、この死と、今回のビート「デス」とは全くの別物ですのでご注意ください。
「制止――死の瞬間に瀕している」というのは、主人公の人生が行き詰まっていて「旅」にでる必要性を暗に感じているということを表現しています。これはスターウォーズのルークで言えば「田舎でくすぶっている」であったり、バックトゥーザフューチャーのマーティで言えば「自分のロック音楽が認められない」というような状態に主人公を設定しておくということです。
これに対してビートとしての「デス」は、民話学で言う「越境」にあたります。
ここで、一度、通過儀礼について考えてみます。
通過儀礼には「成人式」「結婚式」「葬式」といった式典や儀式がついてまわりますが、これらは「人間を変化させるための儀式」です。
たとえばアフリカではバンジージャンプを成人の儀式として行う村がありますが、これは飛び下りることで「子どもとしての自分を殺し、生還したときには大人になっている」という意味合いがあります。古来から成人の儀式には死の要素が含まれています。そして儀式の前後では、参加者の扱いは変化するのです。
「結婚式」では独身→夫婦になるし、「葬式」では死者を死後の世界へ送るという変化があります。
変化するには、一度死ななくてはならない、以前の自分を殺さなければならない。
死を乗り越えた者は、後戻りもできない。
本来の通過儀礼とはそのようなものです。
現代において、その役割を果たすものが失われつつあり、故に物語に「通過儀礼的要素」が求められているという考え方もありますが、それについては機会が改めて考えていきたいと思います。
民話学の「越境」のイメージとしては、古事記のある黄泉の国へ行くイザナギや、聖書のヨブが鯨に飲み込まれる(=死)といった話を思い浮かべると想像しやすいと思います。
死の世界へ行く門番の役割をする人物がいる場合もあります。
ギリシャ神話のオルフェウスは冥府へ行くために、河の渡し守カローンや番犬ケルベロスを納得させなければなりません。
ちなみに映画ではありえないが、この「デス」で死んでしまう主人公というのもある。
口伝えで伝承させる民話には様々な結末のバリエーションがあり、その中には「旅」に出る前に、あるいは出る決心をしなかったがために死んでしまったという終わり方をするものがある。
直接の死ではないが、「いばら姫」では15歳になった姫は紡ぎ車に興味をもち(カタリスト)、そのまま100年の眠り(デス)についてしまいます。
いばら姫は自分の力で変化、成長することはできず王子様が助けるのを待つことしかできません。
こういった物語には「主人公が変化をしない」タイプの物語のヒントがありますが、今は基本としてのビート解説なので、ここまでにしておきます。
だいぶ横道にそれましたが、通過儀礼として「旅」ということを意識することは物語創りにおいて、とても重要なことです。
前回、「痩せたい」とおもっている主人公がいる。そこへ「山ごもり修行ダイエットプログラムに誘われる」という話をつくりましたが、ここに「デス」を加えるとするなら「成人病になっていて、このままではあと数ヶ月で死んでしまう」と医者に告げられたとします。
主人公は死か、覚悟して変化をするかを迫られるわけです。
生きたいと思うことは本人だけの問題ではなく、家族や友人のためでもあります。
「痩せたい」けど辛いことや大変なことはしたくないと甘えていた主人公が、本気で「痩せよう」と決断することになるのです。
観客は、「痩せるかどうか」ではなく「人間は変われるのか?」というテーマを読み取って興味を惹かれ、主人公がこの先どうなるかを見届けてやろうと思うのです。
「ビートシート」を使った物語創作は、お手軽な反面、システマチックで形骸化すると批判をする人もいます。
物語の本質を理解せずに「ビートシート」を使い回した場合にそうなるのです。
逆に、本質的な理解をすれば、必要なビートというのがはっきりしてくるのです。
さいごに、映画の実例としてのビート「デス」を見ていきます。ハリウッドでは明確なビートとして意識されていませんが、不思議と「ディベート」と次回のビート「プロットポイント」の間には死にまつわるエピソードが多くあります。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』ではタイムマシンの制作者のドクが銃で撃たれます。
『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』ではルークの育ての親である叔父が殺されます。これは旅立ちに反対していた門番がいなくなったとも解釈できます。
『トイ・ストーリー』 では隣の家の悪ガキがオモチャにダイナマイトをつけて破壊しています。これはオモチャという生命を持たない存在に見える彼らにも死があることを観客に伝えることで、共感を与える役目も果たしています。
映画としてのビート「デス」では、物語論上の役割を果たしていないにもかかわらず、たいていの映画にもい同じタイミングで「死」のシーンがあって、それは潜在的に旅立ちへの手助けをしているように思えます。
★まとめ:
・「デス」は「制止――死」とは別物で、民話学の「越境」のようなもの。
・人は「死を覚悟しなくては変化できない」。
・物語の本質を理解せずにビートシートを使い回すと形骸化する。
・映画のビートとしては象徴的な死のシーンが多い。
イルカの音声解説はこちら
※バンジージャンプを成人の儀式で行うと言っていますがアフリカの言い間違いです。しかもきちんと調べたらアフリカではなく「南太平洋にあるバヌアツ共和国」でした。
音声解説のyoutube版はこちら
『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』のシリーズは全部で三冊あります。
二冊目である『10のストーリー・タイプから学ぶ脚本術 ──SAVE THE CATの法則を使いたおす!』はストーリータイプの話で、いずれ話していきます。
三冊目の『SAVE THE CATの逆襲 書くことをあきらめないための脚本術』では、一冊目の反省点から発展的な内容が書かれています。
発展の方向はやや間違っている気もしますが、一冊目での反省点は踏まえて「ビートシート」は使っていくべきだと思います。
なので、一冊目を読んで興味を持った方三冊目も合わせて読むことを強くおすすめいたします。
構成について初心者の方はこちら→初心者向けQ&A①「そもそも三幕構成って何?」
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