言動決定要素について順番に考えきました。引き続き「脳内辞書」について考えていきます。前回は「形容詞の使い分け」ついて考えましたが、今回は「名詞」です。
名詞の使い分けはとてもシンプルです。そのものを何と呼ぶかに個人差があるということなので、意識もしやすいと思います。
【年齢差・専門差・時代差】
一般的に「くるま」「自動車」と呼ぶものを、小さな子供は「ブーブー」と呼んだり、自動車好きやディーラーであれば車種や型番などで呼び分けたりします。どんな分野でも専門家というのは知識が細分化されているので、細かい呼び分けをします。子供は知らない言葉は簡単な言葉で命名します。母親との間にだけ通用する呼び方もあったりします。
江戸時代の日本には自動車はありませんでしたが、もしタイムスリップもののストーリーであれば「○○馬車」とか「エレキテルなんとか」とか。呼び方を考える必要があります。これが平安時代や、原始時代ではまた違った呼び方になるでしょう。
【人間関係の距離と名詞】
つぎは指示語や代名詞について考えてみます。
長年付き添った家族や夫婦では、
「おい、アレとってくれ」
「はいはい、どうぞ」
のような会話が成立します。「こそあど言葉」は状況で推測がついたり、お互いの距離感によって通じる言葉です。
「あいつ、またやらかしたんだけど」
「また?」
二人の中で「やらかしそうな人間」といえば「あいつ」しかいないから通じるのです。「あいつ」について、しょっちゅう話していて、「あいつ」のやらかしにうんざりしている感情を共有しているからこそ成立する会話です。これに変化が加わると「あだ名」になります。上司の悪口とかで、名前で呼ぶのを憚れる場合に、あだ名をつけてしまうのです。
「大黒さまが、またやらかしました」
「また?」
「ハゲじじい」でも「加齢臭」でも構わないのですが、あだ名は自由度があるので作者のネーミングセンスが出ると思います。ただの悪口よりも、そこに個性が入る方が話しているキャラクターの個性も出ます。
【呼称について】
あだ名だけでなく、呼称も関係の距離感を示すのに有効です。
小さな子供が「ママ」と呼ぶのと、50のオジサンが呼ぶのでは響きが違います。
フォーマルな場では「母が」と呼びますが、あえて「お母さんが」と呼ばせることで愛情深いキャラクターに見える場合もあります。
「クソババア」と呼ぶよりも、「あの人」と呼ぶ方が距離感があるかもしれません。さらに自分の名字で「田中さん」と呼んでいたりしたら、何か恐ろしいものを感じます。
幼稚園児が「ミサエ」と呼ぶケースもありますね。
友達同士でも大きくなっても「さっちゃん」「えっちゃん」とか呼ぶことで同級生感が出たり、初恋の相手を名字で呼んだら、結婚していて今は「○○だよ」と言われることもあります。
ちなみに脚本においてよくあるのが、作中内で名字でばかり呼ばれているキャラクターが、後半になって下の名前で呼ばれて「ん、誰?」となることがあります。脚本形式ではセリフの前に名前を書くので、作者がついつい名前を認知されてると勘違いしてしまうのです。初登場のキャラクターはしっかりとキャラクターを紹介する必要があります。
次回は……キャラクター概論25「言動決定要素④脳内辞書:脳内文法」
緋片イルカ 2019/08/09
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